【No.36】 「眼鏡へのこだわり」 技術士(金属、総合技術監理部門) 橋本英樹 |
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眼鏡をかけている人は、常に良い眼鏡との出会いを求めている。それは眼鏡が単なる道具ではなく、体の一部になっているからだ。 眼鏡というものは、レンズが汚れたり、傷がついたりすると非常に気になる。また、フレームが少しでも変形するとツルが当たる耳の上の部分が痛くなる。もちろん、眼鏡の作り方が悪くてレンズのセンターと目の位置がずれていたりすると、目が非常に疲れるし、レンズが重いとフレームがせっかく軽くても台無しになる。眼鏡が顔からずれやすくなってしまう。 そのほかにも問題がある。冬場にラーメンやうどんを食べるときには必ずレンズが曇る。もちろん、寒い屋外から暖かい場所に急に入ってもレンズが曇る。また、サウナに眼鏡を持ち込んだり、シャワーの温水をレンズに何度もかけたりするとレンズのコーティングが割れたり剥がれたりする。これはレンズ本体とコーティングとの間で熱膨張率が微妙に異なるためである。 つまり、眼鏡は体の一部でありながら、非常にデリケートなものと言える。そんな眼鏡が無ければ、眼鏡をかけているひとは歩くことさえままならないのだ。 私自身、眼鏡との付き合いは高校に入学したとき以来で、今年で27年になる。その間、様々な眼鏡フレーム、そして眼鏡レンズと付き合ってきた。その中で、なかなか納得の行く眼鏡フレームと出会うことは少なかったが、ここでご紹介する二つの眼鏡フレームとレンズの組み合わせは、今のところ十分に納得のできているものである。 写真1はデンマーク製のAiR TITANIUMという眼鏡フレームである。1998年末に購入し、今でも使っている。レンズは、現在市販されているプラスチックレンズの中で最も傷がつきにくいと評価されているHOYAのSFTコートの高圧縮レンズである。 このフレームは、直径が約0.8mm程のβチタンのワイヤーのみで作られている。通常、ツルの根元のヒンジのところにはビスが付いているのだが、それが無い。その部分すらもβチタンのワイヤーのみで作られている。その結果、ヒンジの部分が緩むということが全くない。また、βチタンのばね性を大いに活用しているため、一見華奢に見えてもほとんど変形することがない。多少変形してもすぐに復元する。その結果、このフレームはとにかく丈夫である。さらに、AiR TITANIUMと言うだけに、フレーム自体は空気のように軽い。 チタンという素材は生体親和性も高いため、金属アレルギーなどをおこしにくいと言う点でも眼鏡向きである。このAiR TITANIUMは、元々、デンマークの消防士のリクエストにより作られたものと聞く。つまり、様々な現場での眼鏡の使用を前提に作られたものということである。私自身、オフィスでの業務のほか、工事現場などがあり、それらの全ての状況において眼鏡として必要十分な性能を持っている。また、とにかく丈夫であるが故に、購入から9年近くになるが、フレームには傷一つついていない。もちろん、消耗品であるレンズ、鼻当てなどの部品は何度か交換をしている。これらを交換することにより、再び新品同様に蘇るというのもこのフレームの良いところだ。 写真2はオーストリア製のsilhouette(シルエット)である。このフレームもβチタンを使っているが、それにアクリルを巻いている。デザイン的にはこれまでに存在する眼鏡とは一線を画している。シンプルでありながら、オシャレである。そこには一点の隙もないように感じられる。このフレームは、ツルを折り畳むためのヒンジが存在しない。眼鏡は、フレームと共にデザインされた専用ケースに入れる。その際、ツルは手で曲げる。曲げ方については眼鏡を購入する際に指導を受ける。ツルは曲げても元に戻る。これもβチタンのばね性を利用している。ツルは塑性変形させないかぎり、普通の使い方をするかぎりは必ず元の形に戻る。フレームは非常に軽い。リムが無いこともあってフレームだけで重量は約1.9gである。眼鏡としての重量のほとんどはレンズの重量である。レンズにはこれもHOYAのSFTコートの高圧縮レンズを使っており、全体の軽量化を図っている。リムが無いことから、レンズの形は自由に選択できる。この眼鏡も一見非常に華奢に見えるが、変形などには強く、非常に丈夫である。ただし、レンズもフレームも熱に弱いので、高熱の現場(まだ温度高い炉の内部に入るときなど)にはかけてゆくことができない。その場合、私はAiR TITANIUMをかけ、さらに保護用のゴーグルをつけるようにしている。 silhouetteはデザイン面でも非常に優れており、今、一番注目の眼鏡フレームである。 眼鏡へのこだわりというのは、つまりは道具へのこだわりということだ。勿論、顔の一部になるということで「オシャレ」という面にも気を遣う。私の場合は、学生時代に金属材料の勉強をしてきた。そのようなこともあって、これらの眼鏡フレームはβチタンの特性を最大限に引き出しながら、眼鏡フレームとして必要十分な機能と性能を備えていること、さらには優れたデザインを提供しているということから、今までで一番満足している。 |