【No.39】 「星空観望と双眼鏡」 技術士(機械部門) 石川貴史 |
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2007年10月下旬に発生したホームズ彗星のアウトバーストによる大増光が天文ファンの間で話題となっている。アウトバーストとは、彗星が何らかの原因で一度に塵(ちり)やガスを大量に放出することである。アウトバーストによる塵やガスが太陽光を反射して増光することで、ホームズ彗星はわずか1日で約17等星から2等星近くまで、約40万倍も明るくなったと推定されている。 私は大学生時代から20年以上、星空を眺めることを趣味としてきた。したがってホームズ彗星のアウトバーストにも興味津々である。このように自己紹介で「趣味は天体観望」と言うと、ロマンチスト?と勘違いされることもあるが、悪い印象を持たれたことは無い。しかし具体的に「双眼鏡で星を観るのが好き」と言うと、「双眼鏡で星が見えるの?」と驚かれる。さらに「星とは違う物を見ているのでは?」と、あらぬ疑いをかけられることも多々ある。 双眼鏡で星空は十分に楽しめる。例えば昴(すばる)。M45、プレアデス星団とも呼ばれる有名なこの星団は肉眼でも観られるが、双眼鏡で観望すれば、より迫力ある美しい姿を楽しむことができる。また、天の川が見られる夜空であれば、双眼鏡で天の川を観察することで、様々な星雲、星団を楽しむことができる。もちろん彗星も双眼鏡にとって絶好の観望対象である。 私は天体望遠鏡以外に、現在3台の双眼鏡(写真1〜3)を保有している。この中で最も愛用している一品は、写真1の7倍×50mm双眼鏡である。 この双眼鏡を購入する際には他の双眼鏡を含め10機種ほどを手に取り、価格は無視して光学性能を比較吟味した。しかし自分の目で見比べてみると、ある価格以上の物になると優劣が判断できなかった。像の鋭さ、コントラストなど、それぞれに特徴があり、判断に迷った。 天体観望用の双眼鏡には高い光学性能が必要である。広い視野で星を点として結像させ、星の色を再現し、暗い天体を見るための集光力とコントラストを確保しなければならない。また厄介なことに、これらの性能のバランスにより、天体の見え味は微妙に違って感じられる。 さんざん迷ったあげく、最後は「視野全体の気持ち良い見え味」という非定量的、かつ個人的な好みで、この双眼鏡に決定した。技術者らしからぬ評価ではあるが、最良のセンサ?である人間の感覚を信じた。 自分の感覚で選んだ双眼鏡だけあって、購入から15年近く過ぎた今も、この双眼鏡を愛用している。一生に一度しか見られないと言われているホームズ彗星のアウトバーストによる大増光も、この双眼鏡で楽しんでいる。この双眼鏡は、私の星空観望に欠かせない一品である。
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