ざあー、ざざーん ざああ

ギィぎぎぃぎぃ…


船は進む、波を掻き分け、船を軋ませ、ただ目的地へと風を受けて―



「潮風が気持ちいい…」


ばっさばっさとあおられる私の髪の下には、一枚の大きなマフラーがはためいていた。



















「そういえば、カイトさんってなんでこの街にいたんですか?」

お互いの身辺事情の説明も終わり、ホテルの人に女用の服を持って来て貰うように頼んでから
紅茶を飲んでたときに不意に思い出したこと。


さっき聞いたハンターの職業内容を聞いた限り、きっとこの街にも何か目的があってきていたんだと思う。

できれば一緒に行動する身として、何ができるわけじゃないけれど、今何をしているのか知りたかった。


「ん、ああ ちと人を探しててな」


「えぇっと、ザバン市でしたっけ で探してるんですか?」


「いや、さっきハンター見習いって言ったろ? 一応ライセンスは持っているんだが、まだ師匠に認めてもらってなくてな。
 その最終試験が「彼を探し当てること」なのさ これがどんな狩りより難しい」


「じゃあ今はそのカイトさんの「師匠」を探して旅してるんですね」


「ああ この近くの島に師匠の生まれ故郷がある そこに何か手がかりがないかと思って向かってる途中だ」


「早く、師匠さん見つかるといいですね」


「あの人は自分が補足されたと思ったらすぐに逃げるから、なかなか足取りが掴めない。
 なんか足取りのヒントでも掴めればいいんだがな」





ちょうど紅茶を飲み終えるころ、ホテルの人に頼んでおいた服が届いた。


カイトさんに「どんな服がいいんだ?」と聞かれたが、こっちの服はよく分からないし
買ってもらっちゃうことになるのでとりあえず贅沢は言えない。


まぁ、見えないしこっちのメーカーとかわかんないんだけど…


とりあえず安くて暖かそうな上着を1枚と、下着を頼んだ。


なにせこっちに来たときの格好はパジャマ。

それも既に右半身が袖の部分からばっさり無くなってしまっているので使えない。


シャツとズボンはカイトさんのを借りてるけど(かなりだぼだぼ)

とりあえずかなり寒いので、暖かそうな上着は必需品。


ズボンは足首でかなりの長さを折り曲げ、上着のシャツは太ももが隠れるほどの長さだったので
とりあえずズボンの中にいれておく、そこに上着を羽織って完成なのだ。



…暑くないのか?」


今がいつの時期かは分からないけど―

とりあえず今の私の上着はもこもこのフードがついたふわふわ毛糸の厚手のカーディガン


「うーん、まだちょっと首元が寒い…かも」


「……正気か? 長袖シャツ一枚でも少し汗ばむくらいなんだが」


「私なんか極度に寒いのが苦手な見たいで… 真夏でも長袖と上着は手放せません」


「…………」


「なんでそこで黙るんですかっ しょうがないじゃないですか、寒がりなんだからっ」


「いや…、寒がりってレベルじゃないと思うが… まぁいいこれ巻いとけば多少はましだろ」


と言い終わるのが早いか否か、

あたしの首筋にふわっと暖かいものが巻かれる。


「マフラー?」

ふわりと巻かれたマフラーはその長さの割りに、手で触れてみるとふわりと軽い。

ふわっとした羽のような感じだけど、しっかりとあたしの首を包み込んでいてくれるようなマフラー。

かなり暖かいし、気持ちがいい。


「ジンさんから預かってたものだが ああ、ジンさんっていうのはオレの師匠の名前な。
 もう返さなくていいって言われてるし、オレもマフラーはほとんど巻かないからな。
 にやるよ」


「え、でも大事なものなんじゃないんですかっ?!」


「オレが巻くより似合ってるし、マフラーもやっぱり使ってもらったほうが嬉しいだろう」


「じゃあ…お借りしちゃいます」


首元に巻かれたマフラーからは先程までカイトさんが握っていた体温が残っていて、それがとても心地よかった―
















そんなこんながあり、私とカイトさんはジンさんの手がかりを見つけるために、

くじら島とよばれるジンさんの生まれ故郷へと船で向かっていたのだった。


「おーいっ! もうちょっとしたら嵐の中を通るらしいから、そろそろ船室に戻ってこいよー」

「はーいっ」


海風に名残を残しながらも、「結構でかい嵐だから注意しろよー」「危なかったらしっかり兄ちゃんに捕まってな」
とかとか船員さん達の言葉を聞きながらカイトさんの待つ船室へと戻っていった。










……って、揺れすぎ!! 船飛んでるしっ!!!

こんなに嵐が凄いものだとは思わなかった。

ちょっと船が揺れたりするだけ位だと思ってたのに、まるで暴れ馬に乗っているみたいに激しい。

「うわわっ! 飛んでる!! 飛んでるしっ…あむぐっ」

「そんなに慌てて喋ってると舌噛むぞ…って遅かったか 大丈夫か?」

「らいじょうぶでふ〜…」

脳内がぐわんぐわんとシェイクされる。

「カ、カイトさんはなんで平気なんですかー?」

「慣れだな そのうちも慣れる」

「こんなの慣れたくないですっ…ってうわわわーっ!」

また船が飛んだよ!

着水と同時に激しく傾き、ぎゅっと握っている柱から手が離れそうになる。


あっ、というか離れた。

「きゃああああああーっ…ってあれ?」

宙に舞う自分を想像していた私の身体を暖かい温もりが包む。

「大丈夫そうじゃないな しっかり捕まってろ」

「えっえっえええー!!」

もしかして私今カイトさんに抱きかかえられてる?!

背中に回された手がぎゅっとなって、あたしの顔にカイトさんの体温が直接伝わる。

ふわりと漂うカイトさんに匂い、暖かくて逞しい胸板。

時々頬にかかるカイトさんのさらっとしたいい匂いのする髪の毛。

しっかりと握られた手から伝わるしっとりとした温もり。


先程まで嵐で凄く騒がしく高鳴っていた私の心は、
今はただカイトさんの匂いと温もりに包まれ違う意味で胸が高鳴りっぱなしだった。










「そろそろ嵐抜けるぞーって、お楽しみ中だったか?」

様子を見にやってきた船長が二人の様子を見てそう呟く。

腰を下ろし眠っている男と、その膝に抱きかかえられ眠っている少女。


「まぁもう嵐もこないだろうし、くじら島に着くまでゆっくり眠っときな」

がちゃりと船長は再び船室の扉を閉める。


うっすらと開かれた男の瞳は、船長が立ち去ったのを見届けると、また眠りへと落ちていった。

















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