時刻は既に夜半過ぎ、丑三つ時も迫ろうという時間帯
は一冊の教科書と格闘していた
『 Heart of My Sword 』
「『田子の浦に うち出でてみれば 白妙の ふじのたかねに 雪はふりつつ』
っと
ふわぁ〜あっ やっと終わったよぅ…」
古文の藤崎先生宿題だしすぎぃ;
の通っている高校の古文の先生、藤崎武雄はとにかく宿題をたくさん出すことで有名だ
それはもちろん生徒達のためを思ってのことだが、…無愛想な態度から評判はあまりよろしくない
は今年高校に入学したばかりの15歳
一般的な容姿と、日本人特有の肩から覗く艶のある黒髪
ただ年相応の女の子の身長と比べるとすこーし小く、小学生に間違われることもしばしば
趣味は読書、小説書き
神話や古代書が好きだが、それと成績は決して結びついてないのが悩みどころ
今はジャンプで連載中のとある漫画にはまっている、いち腐女子である
「あー、今日はDream進めれなかったじゃないっ」
時間も既に遅いし、ここから書き始めたら明日起きれなくなってしまう
泣く泣く続きを書くのを諦め、日課の今日の占いのサイトを巡回する
結構あたってることが多く、ここのサイトはのお気に入りの一つだ
「あたしの星座は…っと」
『6位 全ては貴方しだい』
…ナニコノ適当な言葉はっ!
順位も可もなく不可もなくな位置だし、本文がまた適当すぎる…
まぁ、占いだしあんまり気にしないでいっか
が唯一その占いで気になったのは、ラッキーアイテムが銀のロザリオだったことだけ
銀のロザリオって…
丁度あたしの首元にも、しなやかに光る銀のロザリオが光っている
特に敬虔なクリスチャンというわけでもないあたしだが、このロザリオは気に入って子供のころからつけている愛用品だ
考古学を営む父が、以前海外の土産にとくれたものだった
これってもってる人絶対に少ないよねぇ…
いつも思うのだが、最近の占いのラッキーアイテムはそろえるのが困難なものが多すぎると思う
「昨日の夾花のラッキーアイテムなんて、消火器だったし…」
の婦女子友達の夾花の昨日のラッキーアイテムは消火器だった
ぶつくさ言いながらも信じ込んでいる夾花は、学校の休み時間中消火器の周りをうろうろしていたところ、
憧れの先輩に声をかけられたそうだ
ある意味このサイトは凄いと思うんだけど…
今日の占いの結果は抽象的過ぎて良くわからない
いつもかなり的確なことを指摘しているそのサイトにしては、今日の占いはわからなすぎだった
ボーンボーンボーン
廊下から鐘の音が聞こえる
回数は3回、つまり…
「やっばぁ! もう3時だしっ 明日起きれなかったら洒落にならないよう」
そう、明日の一限が藤崎の古文なのだ
遅刻などしようものなら、宿題は受け取ってもらえないどころか、熨斗がついて戻ってくるだろう
今やり終えた宿題も全て無駄になってしまうし、これ以上増やされたらそれこそ週末遊びにいけなくなってしまう
…それだけは避けねばならない
結論
寝よう
猫をあしらった抱き枕を抱えながら手招きをしているように見えるお布団へ
「…ん?」
なんだろ
なんかビリッってきたような気がしたけど…静電気かな?
ふとなにやら違和感を感じたが、特に気にすることなくは布団へと潜り込んだ
―――ココはどこ?
あたりは一面の白
目を開けてみているのか、目を瞑ったままなのかさえもわからない
足元を見てみる、何もない、浮いているのか立っているのかすらわからない
焦燥
喜び
嫌悪
微笑み
妬み
嬉しい
怒り
愛…
感覚が世界と同化する感覚
自分が自分じゃないような、でもやっぱり自分、それでいてそこ全体が自分のよう
―――これはユメ?
返答はない
闇より深い白、白というより無
深い虚無
ここに自分はあるのに、何もないかんじ
分岐点、通過点、ターニングポイント…
ここは道しるべのない分かれ道
―――だれかいるの?
「―――・――・――−−――」
ノイズとも声とも聞き取れるよな不思議な おと
「――みち―び・・世―か」
中性的でノイズのかかったようなくぐもった声は、耳を通じることなく頭に直接響く
よく聞き取れない
「導かれた…世界、あな―た―せか―・、
―
ひと・――ら・―――・話
擬―」
かろうじて聞き取れた単語をつなぎ合わせても、言葉の意味すらわからない
―――あなたはだれ?
問いかけた質問に
声がやみ
ふいに
視界が暗転する
「あなたは導かれた世界で何を、…いや、それは貴方にしかわからない
私はただ導くだけ」
遠くどこかでそう声がこたえた
フラッシュバック
視界が暗転し、バックファイアのように強烈な光があたしの眼光を焼く
眩しいとかそういう次元ではなく、まさに眼を焼く光
さらにブラックアウト、意識が闇にオチ、元の体と同化する感触
ざわざわざわ…
どこからか雑踏が聞こえる
なんだろうこれ…
ベッドで寝てるはずなのに……
ふっと視界に明りが灯る
眼に映るは人、人、人
頭の中がぐちゃぐちゃだ
今、あたしは雑踏犇く街の中に立っている
「ここはどこ?」
答えはない
「あたしはどうしちゃったの?」
返答なし
「じゃあ、これは夢?」
夢のような感じだが…頭の片隅で何かが警鐘を鳴らしている
否、これは夢じゃない
白昼夢
回想夢
予知夢
訂正夢
悪夢
願望夢
わからない…
何もわからない……
頭に浮かんでは消える不思議な文字の群れ
自分は確かにここに居るはずなのに、酷く気配が薄い
チャリーン
「?」
胸元で父親に貰ったロザリオが光る
ぎゅっとそれを握ると、
「痛っ」
チクリと角が指に突き刺さる
滲み出る赤い血
ああ、
そうか
コレハ現実ナンダ
夢でもなんでもない、ただの非日常的な出来事なんだ
あたしは何故かはしらないけど、この街の大通りに立っている
家でもなんでもない、ただよく知らない場所にあたしが立っていて、それが夢でもなんでもないこと
それが答えだった
結論に至った瞬間から頭の中でなり続けていた警鐘はやみ、頭の中が澄み渡っている
何かから開放されたかのように澄み渡る頭の中
の意識は自分の置かれている状況把握のために急速に動き出した