ぷっぷー
どどどどどどどどど
ざわざわ
がらがらがら
ぶおーん
街は動き続ける、そこに一人の異なるものが混じったとしても
あたしの立っている街は大きい
大通りにいるので街の全貌は見渡せないが、あちこちから見えるビル郡と活気付いた通りを見るだけでもかなりの大きさの街っぽい
「んー、あたしがいるのは街の真ん中から少し外れたくらいかなー」
メインストリートと思しき大通りが、ビル郡に向かっていることから、それは確かなことだろう
とりあえず、あたしのとるべき行動はっと…
まずは情報収集ねっ
はさらなる情報を得るために、街の中心に向け移動を開始した
は『普通』の女の子である
何が普通の定義かはわからないが、ごく一般的な容姿、身体能力、知能から言っても普通であるといえる
ちょっと幼い時に、人とは違う体験をたくさんしてきたが、それでも普通である
普通であるということは、とても大変なことだ
普通の基準がない以上、なにをしても周りの人と調和していなければいけない
それが普通の定義
大多数の人は、人の群れの中じゃないと生きていけない
ゆえに、人は異端ではなく、普通であろうとする
は『 普通 』だ
ただ、人よりほんのちょっとお節介で、人よりちょっと優しくて、強い子
それが であり、
の最大の力である
まずその違和感に気づいたのは、歩き出して数歩も行かないうちだった
周りの人の身長が異様に高い
初めは道すがる人を数人見ただけで、たまたま背が高い人がいっぱい通ったんだなー程度に思っていたのだが
どうもその見解は間違えっぽい
道行く人すべてが大きいのだ
の身長と比較すると…うわっ、2m50cm以上ある人たちばっかり…
正直ありえない
一瞬巨人の世界に迷い込んでしまった錯覚…
人も大きければ、様々な物も大きい
車、人、家、みーんな、みーんなが知っているサイズの1,5倍以上あるのだ
「なにこれ…」
なにかがおかしい
ここは現実で、あたしがここにいるのも現実
でもこの場所が、いやこの世界そのものが現実であるのに現実でないような不思議な感覚
「あ…」
もしかして…
ふと、浮かんだその考えを、できれば違っていてほしいという願いを込めてー…
はブティックらしき店のショーウィンドーを覗き込んだ
「…………うそ」
そこに写っていたのは、 ではなかった
深黒に光る黒髪を髪の辺りで揃え、きょろきょろっとした目で、こちらを覗き返してるその顔は…
のよく知る人物のものだった
いや、だからこそよく知っているというべきだろうか
「もしかして、ちっちゃい時の…あたし?」
この髪型に思い当たる節がある
たしか11か12歳のときにしていた髪型だ
身長は平均より低め、ちんまりとした体と、あどけなさのこりまくりの顔があたしを覗き返している
変わってない部分といえば、胸元に光る銀のロザリオくらい
それ以外の部分は、さっきまでのの姿とはぜんぜん違うものだった
その鏡に映った姿が信じられなくて、ぺたぺたと胸元を触ってみると案の定胸がぺったんこになっていた
ちょっと悲しい;
「あー、やっぱりこれも現実なんだ…」
正直ありえない
今日この台詞は何回目だろうか
ありえないことが多すぎる
鏡の中の自分はの学校の制服を着ており、周囲から完全に浮いてしまっているように見える
あー、さっきから周りの視線を感じる原因はこれかぁ
そりゃ、こんな年端も行かない子供が、こんな格好で大通りを一人でうろついてたら不自然だよねー
の学校は、ミッション制の流れを汲んでおり、その制服はシックな色使いのワンピース
着る人が着れば、控えめにも、ある意味目立つ服装にもなるのだが…
今のあたしの格好は完全に浮いちゃってる
しかもなんか、あたしの記憶にある11,12歳のころの顔より若干整っているような気がしないでもないけどー
まぁ気にしないでおこうっ
まだまだ考えることはたくさんあるしね
突然自分が見知らぬ場所に移動していた、さらに幼い頃の自分になっていた
夢…じゃないからぁ
夢ではないのは先ほどのロザリオの痛みがいまだ主張し続けている
まるで、これが夢で思うことは危険であると、忠告するかのように
とするとー、んー、ただ場所が違っていたってわけじゃなくて、さらに過去に戻っちゃったーとか言う展開でもないしー
すでにあたしの頭の中ではある仮説がたっていた
「ここは…違う世界?」
ありえない事だけど、そう考えると全てがしっくりくる
が見たこともない周りの景色と人々
自分が幼くなっていたこと
そして…、自分の中の何かが違ってきているということ
それら全てが頭の中で結びついた答えが…
異世界トリップ
ならば、
今がすべきこと
がなすべきこと
やっぱり情報収集ねっ
異世界トリップ?してしまったのはしょうがない
なんとなくだけど、もう元の世界?には戻れないような直感もある
なら、ここがどこなのか?どういう場所なのかを把握するのが先だ
いろいろ考えるのは、情報がいっぱい出てきてからでいい
当初の予定をこなす為、立ち止まっていた歩みを再び動かし始めた
未知の待つ、街の中央部に向けて
ディスカ王国、その首都大都市レオ
通称眠らない街
昼には昼の、夜には夜の産業で一日中賑わい、その人の流れはとどまることを知らない街だ
「あー、もうっ、やっぱりネテロの話なんて聞きにいくんじゃなかったわさ」
数日前、一仕事終えた後に久しぶりにネテロから、うまい酒が入ったから一緒に飲まないかと誘われた
普段ならいくこともないが、一応は心源流の師匠
たまには顔を覗かせてやってもいいなと思ったのが運のツキだった
「やっぱりあの爺さんは食えないわさ」
久しぶりにネテロと会ったとき、もう一人の懐かしい知人も来ていた
『占星術師 ディラン=カーチス』
その業界では知る人がいないほどの有名人
本業は占星術師であるが、医者もやっているという変わった爺さんである
ディランとあったときも確かこんなのだったわよね…
とある件でディランと知り合い、占星術で占ってもらったところ、ある行動をしないと大事なものを失うと出たらしいのだ
一応教えられたとおり、いろいろ苦労しながらも対策をとったのだが…
あわれあたしのグラちゃんは傷物になってしまったの…ヨヨヨ
そのことでディランに文句を言ったら、本当はかなりの数が消えてしまう運命だったのを、一個の傷だけですんだのだからよかったではないか
ホッホッホー、という事だった
まぁ、この時点であたしの中での食えない爺さんランキング、栄光の第二位になったわけだけど
言うまでもなく、不動の第一位はネテロ
この順番だけは永久に変わらない気がするわさ
で、結局数日前のネテロ達との飲み会も、ディランの占星術というネタ?で盛り上がった
ネテロも近いうちに、面白い逸材達と出会い、さらにその先では激しい戦いが待っている、ということだった
まぁネテロは何言われても笑ってるだろうけどね
多分、明日あなたは死にますって言われても、いつもと同じ笑顔だろう
そういう人間だ、ネテロと言う人間は
あたしの結果は…、また前と似たような内容だった
ただ今回のはただの破壊ではなくて、ネテロと似て、大切なものに、大事なものに出会うだろう
という内容だった
まぁその先もつらつらとあったわけだけど、たいした内容じゃないし
ただちょっと気になったのが、いつも結構抽象的なことしか言わないディランの占星術が、妙に具体的な事まで言っていた点だ
すなわち、今日から一週間以内に、ここ眠らない街レオでその大切なものとやらに出会うということだった
まぁ、レオは宝石でも有名な街だから、一週間のんびりするのも悪くないわね
そんなことを考えながら、表通りから行きつけの裏通りの宝石店へと向かっていった
今の自分の姿じゃ目立ってしょうがないので、一本奥まった道を黙々と進む
裏通りという風体もあってか、あんまりよろしくない感じの人たちから声を掛けられまくるので俯きながら早足気味に
あー、もう表通りに行ったら人目がすごいし、裏に行ったら裏で何で目立つのよー;
ふと顔を上げると、もう少し先に大通りと裏通りの分岐点が見えた
やっぱり、人目がすごいけど…、こんな空気じゃないだけ表通りのほうがましかぁ
もう何回声を掛けられたのやら…;
早くいこっと
駆け足気味だったのをさらに加速し、大通りとの分岐点へ向かう
にはその先にある光しか見えていなかった
さらに、俯き気味に走っていたため、不意に出てきた人影にまったく気づくことなくぶつかって言った
「うわわっ」
ドシーン
まるで何かに弾き飛ばされたかのようにあたしの身体が中を舞う
「あいたたたたた…」
「ちょっとあんた!どこ見て歩いてるんだわさ!!」
…わさ?
痛むお尻を摩りながら、俯き気味だった視線を上のほうへ上げていくと…
今度こそあたしの動きは完全に固まった
「ちょっとなにかいいなさいよ!って、かわいい子じゃない。なんでこんなところにいたの?」
目の前の人物は…
「ビスケット…クルーガー…」