〜の手記1〜
連続空間世界となっているRagnarokの世界の大規模移民計画・・
Ragnarokの世界は多次元空間に広がっており、同じような世界だけど微妙に違う世界が多々存在する。
そのような世界の行き来をすることは本来不可能であった。
しかし一年前、ミッドガルド王国にてRagnarok世界において最も神に近く世界を行き来することができる存在『管理者』と協力することによって、ワープポータルの魔法式を応用した世界間移住魔法式、通称リープポータルが完成した。
他世界とコンタクトできるリープと呼ばれる魔法装置で移住先の世界の様子は事細かに調べられており、またその世界の管理者とは事前に打ち合わせも済んでいた。
当初移住を望む者達が非常に多く、参加希望者に対して書類審査があったほどだ。
しかしそううまくいくはずもなく、空間移動をする際、本人の意思・人格はうまく送れることは確認されていたが、幾度かの実験において持ち物が世界を渡る際消滅してしまったり記憶が一部欠如してしまうなどの問題点が出てきた。
神に近い存在にありながら幾たびかの失態を犯し続けていた管理者に対する国民の信頼の薄さもあいまって、当初は盛り上がりを見せていたが徐々に参加者の数が減って行き、いざ移住を始めるぞ!ット言う時には当初の参加者の1/10以下の人数になっていた。
なんとか安全の確認が取れ持ち物もうまく送れるように管理者が魔法式を直し、一年越しの計画である世界間移住計画は実行されたのである。
=、私はIRIS世界でプリーストの職業についていた。
毎日教会へ行き雑用から説法、相談に来た人たちの相手をして日々を過ごし、時には自らの法力を高めるためダンジョンに篭ったりする生活。
今ではかなり易しくなったが、以前のプリースト採用試験はとても難しくアコライトからプリーストになれるものは極わずかであり、アコライト時代のあまりのつらさに耐えかねて教会を出るものも多々いたほどだ。
友人達の力も借りて何とかプリースト転職でき、プロンテラ教会に入ることが許された。
小さいころからの夢の職業・・私がまだ子供の頃のお話。
子供の頃の私はやんちゃで男勝りまさにお転婆の典型のような女の子、いつも近所に住んでいた同い年の男の子を引き釣り回してプロンテラの町の中を駆け回って遊ぶ。
男の子の方もいつも無茶なことを言う私にいつも付き合ったくれた。
そんなある日最近街の外で「アンノウン」といわれるモンスターが多々見かけられていると言う情報があった。
「アンノウン」とは管理者が番号をつけ管理しているモンスターとは違い、チートと言われる邪法・異次元からランダムにモンスターを呼び出すことができる古木の枝と呼ばれる物の使用・世界の歪みなどによって発生する、未管理の番号のないモンスターの事を指す。
大人達から街の外には出ないように!ット言われていたのだが、小さかった私にとって「アンノウン」と言う存在はあまりにも魅力的であり、恐怖よりも好奇心の方が勝った。
「大人に街の外に出ちゃいけない、って言われてるよー。ねぇ、やめようよぅ・・」と私をと酔うとする男の子を半ば強引に連れ出し、兵士の目を掻い潜って街の外へと探検に出かけた。
周りには数多の冒険者達、屈強な肉体の剣士・旅をする弓手・自然の精霊に働きかけ影響力を生み出すことができる魔法士・・
出たときは「アンノウン」に対する多少の恐怖があったがコレだけの人がいれば大丈夫だろうと言う安堵感が私を包んだ。
人ごみを離れ森のほうへ歩いていく、まだまだ人々がたくさんいる地域からはさほど離れていない、私も外のモンスターに対する恐怖があったためこのあたりなら安全だろうっと思い木陰に座って休憩を取ろうとした・・そのとき!
ドンッ!!
突然の横からの衝撃、何があったのかとふと横を見ると私を突き飛ばした男の子と今にも刃物を振り下ろそうとしているゴブリンの姿が見えた・・
ガスッ!
男の子の身体にゴブリンの刃物が食い込む
ムネカラチガアフレル
チノニオイガアフレル・・
倒れながら私は一部始終を見ていた。男の子が血を抜き出しながら倒れるその瞬間まで・・
すぐさま異変を感じ取った冒険者達が集まりアンノウンは排除された。
私は意識はしっかりしていたが、自分が自分じゃないような感覚に包まれていて、スグには何が起こっているのか理解できなかった
「おい・・まだ子供だぜ」「かわいそうになぁ・・」
と言う声が聞こえる。
「いやぁ・・・・いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
自分の目の前で起こった出来事を理解した私は力の限り泣き叫んだ・・
すぐに兵士が駆けつけてきてくれて、薬による治療・アコライトによる癒しの法術を試みてくれたが、あまりにも傷が深く出血も多いため当時の医療技術・法術式では彼をどうすることも出来なかった。
ダレもが諦めかけたそんな折、一人の女性が彼の傍に近寄った。
一見冒険者風に成り立ちをしているが、濃紺の法衣のようなものをまとっておりアコライトに近いように見えた。
彼女は手を男の子の上にかざし、聞いたこともないような魔法式を詠唱していく
彼女の手のひらからはアコライトのヒールとは違う不思議な優しい光が発せられ、彼の傷を癒していった。
「もう大丈夫ですよ、間に合ってよかった・・」
微笑みながら彼女は安堵のため息をこぼす。
誰しもが唖然としている中で、
「処置をしただけなのできちんとした教会の医療施設に運んであげて下さいな」
と言いながら、何事もなかったかのように人ごみの中へと消えていってしまった。
「・・・は!この少年を早くプロンテラ教会へ!!」
完全に目の前の光景に飲まれていた人々の中で、兵士が気を取り戻し冒険者達に声をかけていく。
私は運ばれていく男の子を見ながら、彼を癒してくれた濃紺の不思議な法衣を来た女の人のことを何度も何度も思い出していた・・
教会の医師たちやアコライトは兵士の話を聞くと、皆信じられないといったような表情を浮かべ、シカシ目の前にある事実を受け入れようと必死だったようだ。
後から聞いた話だと処置は完璧でなにもやることがなかったとか・・
私はしばらくの間、完全に塞ぎこんでしまった
自分のせいで彼を死なせかけたこと、彼が庇ってくれたこと・・
様々なことが脳裏に浮かび、消えていく
コワレカケタ私の心を救ってくれたのは退院した彼の笑顔だった
私のせいで死に掛けたのに、私に対して笑顔で接してくれる・・
そんな彼の笑顔を見て、涙があふれ、私の心に一筋の明かりが燈る
「生きててよかった・・・・・ごめんね・・」
それは私の心の声
私の言いたかったこと
「君が気にすることないよ、僕は君が無事だったことが一番嬉しい」
彼の言葉が私の心の楔を抜いていく
彼の姿にあのときの女性の姿が被る
・
・
この事件の数ヵ月後に男の子は商人の父親の仕事の都合でモロクへと移り住んでいった。
あの女性の職業もわかった
『プリースト』
アコライトから転職できる職業
まだ当時は数が少なく強力な法力を身に着けたものしかなれない治療のスペシャリスト
その法力の数々は人を癒すだけでなく、病を治療したり、ヒールじゃ蘇生できないような傷まで瞬時に治してしまう神の力を行使するもの
私のとってそれは憧れの存在であり、また目標となっていった
「あの女性のように困っている人、救いを求めている人たちを救いたい」
その思いは日に日にまして行き、12歳になった日に決心を決め、プロンテラ大聖堂にアコライト見習いとしてはいり、13歳で教会付けのアコライトになった。
そして、16歳の初月に念願のプリーストへと転職することができた。
しかし、転職した頃にはすでに多数のプリーストたちがおり、自分の力が発揮できる場面がほとんどなかった。
教会での仕事もこなしつつ不死の者達を浄化させるための力を身につけていた私は、徐々に癒しを行使する力よりも、退魔を念頭に置いた退魔士としての力を高めていき、日々癒しよりも不死の者達を浄化させるために走り回っていた
しかし時折ふと思う。
自分は本当にこんなことがしたかったのかと・・。
たしかに、人は助けているしプリーストとしての能力も高くなってきた。
でも、何かが違う・・小さい頃に見たあの人の顔が浮かぶ
自分が思い描いていたやりたいことと何か違うということを・・
そんな折発表されたこの移住計画
教会付けのプリーストはこの計画には参加できない
対象となるのは冒険者達である
教会としても自分達が育て上げてきたプリーストたちを手放したくはないのだろう、その計画について話すことすら禁じられていた
私はこの計画を耳にしたときとある決心を固めていた
即ち教会を出て移住すること
自由に世界を旅すること
冒険者ながらの仕事をしていた私は、教会の目の届かないような場所で困っている人たちは一杯いることを知っている。
そういう人たちを助けながら世界を自由に巡ってみる。
それが今の私のやりたいこと
小さい頃に見たプリーストの女性のように
昔、思い描いたことを実現するために…