〜の手記2〜
「ん・・」
ふっと目が覚めた
まるで夢から醒めたようなかんかく
周りの景色が徐々に明らかになる
周りには見慣れた町並みが広がる、昔から住み慣れたプロンテラの町だ
しかしそこには妙な違和感がある
なんだろう・・
あるべきはずのものがそこにないといった感じ
「んー・・・・・あっ!」
ふと気づく
そこが自分の住み慣れた町ではあるが別のものであると言うこと
外見はまったく一緒だが住んでる人、周りの環境などが全然違う
「そうだ・・私フレイヤに移住したんだった・・・」
改めて自分を見てみる
特に異常はないし、持ち物等も無事のようだ
とはいっても、持ってた物のほとんどは向こうで捌いていたので何もなかったりする
お金はこちらの世界に影響を与えてしまうため持ち込めず、まさに着の身着のままの格好でこの世界に降り立った
自分の装備品以外に持ってきたものと言えば、古ぼけた日記帳くらい
昔から大事にしているもので、一見古いだけの日記帳に見えるがそのページは終わりを知らず永遠に書き込み続けられるという代物
骨董品の露店で偶然見つけ、格安で譲ってもらったものだ
以後大事にしてこれだけはどうしても手放す気になれなかったのだ
「人すくな〜・・」
首都プロンテラといえば中央通りは常に人でごった返してとてもじゃないが歩けたものではないというのが私のイメージだけど・・だれもいないなぁ
たまにすれ違うのは新しく冒険を始めようとするノービスか私と一緒でアイリスから移住してきた人だけだ
もちろん商人の数が少ないため露店もまばら
「どうしよう・・」
とりあえず住む場所がないことには生きていけない
お金は無一文なので稼がないと・・
ふと、横を見ると小さい女の子が私の方をじっと見ている
「どうかしたの?」
女の子は者言いたげな顔で私の顔をじっと見ていたが、意を決したように
「あのねっあのねっ、おねーちゃんプリースト様だよね?」
懸命に少女が喋る
「そうですよ、一様プリーストです」
微笑みながら答える
「あのね・・私のおかーさん病気なの!お医者さんに見てもらったけどよくならないの!お医者さんがね、プリースト様ならなんとかなるかもしれないって言ったの。おねーちゃん、おかーさん助けて欲しいの!」
涙声になりながら賢明に訴え続ける女の子
ふと、私の中の記憶が甦る
小さい頃のあの記憶・・
「うん、わかったわ。案内して!」
「うんっ」
とてとてと走る少女の後を追いかけながら見慣れた町並みを走る
私が前の世界で以前住んでいたあたりの小さな家
女の子に続いて家の中に入るとベッドで苦しそうにしている女性が見えた
「・・・はぁ、はぁ・・・・・痛っ!」
「おかーさん、大丈夫!?今ね、私ね、プリ様連れてきたんだよっ。おかーさんスグ良くなるよっ」
女の子を脇にどかせ女性を見る
見ると言ってもただ目で見るのではなく、法力を使い心を見る
「・・いけないっ、早く処置しないと!」
私の目に見えたのは暗い影に飲まれようとする女性の姿
これは死を暗示する景色
即座に私は来る途中に買っておいたポーションを調合しそこに力を注ぎ込む
彼女にそのポーションを飲ませることで進行を遅くする
懐からブルージェムストーンと呼ばれる魔法触媒石を取り出し、私のありったけの力を彼女に注ぎ込む
あとは彼女の体力がどれだけ持つかっ・・
「おかーさん・・がんばって!リアも応援してるよっ」
女の子が母親の手を握り締めながら必死に語りかけている
ふっと、母親の息が治り私の力を素直に受け止めてくれるようになる
パリィーン!
澄んだ乾いた音がして私の手に収まっていたブルージェムストーンが砕け散る
ブルージェムストーンはその役割を終えたときに砕けるのだ。。即ち彼女が助かったことを意味している
母親の手が動き娘の頭をなでる
意識はないはずだから無意識の行動だろう
「ねぇ、おねーちゃん。おかーさんモウ大丈夫なの?」
「うん、モウ大丈夫だよ。スグに目を覚ますよ」
「わーい!ありがとうおねーちゃん」
女の子が涙声を出しながら私に飛びついてくる
・・・バタッ!
「あれ?おねーちゃんどうしたの?ねぇおねーちゃん、おねーちゃん、おねー・・・」
私の意識はそこで完全に途絶えた
「・・・・ぅ」
「あっ、おかーさんおねーちゃん気づいたみたいだよっ!」
近くで女の子っぽい声がする
ここはどこだろう・・
目を開けていくとうっすら見える見慣れぬ光景と女の子
「あれ・・?ここは・・・・・」
徐々にはっきりしていく意識・・・そうだ
私はここに女の子の母親を治療にきたんだっけ
あまりにも母親が危険な状態だったため、普通は自然の精霊と神の力を借りて行う『高位リザレクション』を自分の力を触媒にしてやったんだっけ・・
魔法式の詠唱が無くなり、効果が即効性で強力になる代わりに自分の命を削る方法であり、教会では一様知識としては学べるが禁呪とされ絶対に使わないように教えられている
しかし、実は私はこの方法を結構使っていたりする
退魔の仕事をしているとき、ダンジョン等の場所ではすぐに治療しないとアンデッドの呪いにかかってしまい蘇生が不可能となる
そのような時私はこの方法で傷を癒していた
教会では認められていないが、教会についていないプリーストはこの方法を多々使用する
そうしないと生きていけないという場面が多いからだ
だが、今回は母親の病があまりにも酷く母親自身が衰弱していたため、法力だけでなく私自身の精神力、生命力、気力等ほとんどを費やしてしまった
精神力、生命力、気力をほとんど失った私は女の子の衝撃に耐え切れずに倒れてしまったらしかった
「あら、目が醒めたのね。よかったわぁ」
のんびりとした女性の声が聞こえる
顔を向けると彼女の母親も脇に立っていた
彼女が寝ているときは気づかなかったが一児の母の割には若く見え、美人と言える顔立ちの女性であった
「私・・どれくらい眠っていたんですか?」
母親が手を顔に当てて思い出すように答えた
「うーん・・三日くらいだったかしらぁ」
「え!三日も私寝てたんですか・・」
さっきの出来事がついさっきのように思える
「私はあの後すぐに目が覚めたんですけど、起きたらこの娘が「おねーちゃんが倒れたー!」って騒いでいまして・・詳しい話は娘から聞きました。まったく見知らぬ他人である私のためにお体を痛めてまで助けてくださったこと・・本当に感謝しております」
深々とお辞儀をされ、私は少し戸惑いと気恥ずかしさに包まれる
「いえ、助かってなによりです^^それに倒れたのは私の力が弱かっただけでお母様のせいではありませんわ^^」
「ありがとうございます・・何度お礼を言っても足りないくらいです」
「お気になさらずに^^」
言って立ち上がろうとしたが脚にまったく力が入らないすぐに倒れてしまう
よほど力を使い切ってしまったようだ
「あっ、まだ寝ていてください。まだ顔色が悪いですし」
何とか立ち上がろうと試みる
常に集中していれば歩くくらいなら何とかなりそうだ
「いえ、でもご迷惑をおかけしちゃいますので・・私はこれでお暇させていただきます」
てとてとと扉へ歩いていく私に女の子の手がはっしっと伸びる
「はうっ〜」
女の子の力すら振りほどくことが出来なくその場にへたり込んでしまう
「おねーちゃん無理しちゃダメ、ちゃんと治るまでうちにいるの〜」
母親と女の子に抱えられてベッドに戻されてしまった
「そうですよ、きちんと治るまで是非うちに泊まっていってください。たいしたことは出来ませんがしばらくお泊りになっていってください。そうじゃないと私の気がすみません」
優しい口調でそう諭されてしまうとサスガに断りにくい
それに私の身体もまだ全然動けるような状態ではないので、この親子の御好意をありがたく受け取ることにする
「ありがとうございます、しらばくの間御厄介になります」
こうして私のフレイヤでの生活が始まった |