の手記 another story1〜
バシュ!バシュ!バシュ!!
たて続けに発射された三本の矢が的の真ん中を打ち抜く
風に緋色の髪が舞う
「すごいじゃん 〜」
「あはは ありがとうミズシー^^」
私、=は振り返り、親友のミズシ=ウォルターに声をかける
、今度のダンサー試験受けるんだって?」
「うん!ミズシもバードの試験受けるんだよね?」
ミズシーが頷きながら
「ああ!やっと俺も見習い職から卒業だな」
「受かったら、だけどねv」
「そうだったな、あははは」



フレイヤ世界において職業と言うものは多々存在する
パン屋 宿屋 食堂など 国が管理するものから個人で経営してるものまで様々だ
これらの職業はその筋のものに弟子入りするなり独自で修行するなりで就くことができる
国が管理するもの意外は特に決まった職業認定もなく、ちゃんとした職業に就いて見えるかは結果次第で明確ではない
それに対し、国が管理し認定した冒険者たちはそれぞれが特殊な職業に就くことができ、最初認定された冒険者はノービス(初心者)と名付けられる
そこから己で修練し通称【見習い】と呼ばれる職業に就くことができる
その際も職業ごとによって試験があるが、ちゃんと修練した冒険者にとってはどれもたやすく、まずその職業になれないということはない
稀にその体質からほかの職業を進められたり、初心者のまま冒険者として生きていくっという者もあらわれる
見習いとなった冒険者たちは、さらにそこで職業ごとの修練を積み、試験を受け合格すれば特化職業と呼ばれる職業に就くことができる
ダンサーとバードは見習い職のアーチャー(弓手)からの派生特化職業で、アーチャーからなれるもう一方の職業、狩り重視のハンターと違い、敵を翻弄し仲間を援護することに長けた職業である
男性ならバード 女性ならダンサーと呼ばれ、身につけることのできる技能も少しずつ変わってくるのだ

アーチャー練習所を出たところでミズシと別れ、夕暮れの道を帰路につく

「ただいま〜っと」
プロンテラ裏通り、路地裏の一軒家 そこが私の城
一軒家といえば響きはいいが、実際は最低限の生活用具が置いてあるだけの小さな部屋
プロンテラに出てきてから知り合った、アリスさん親子の家の倉庫を格安で間借りしている
「あらあらぁ、さんおかえりなさぁい〜」
母屋のほうからアリスさんがやってきてほんわかとした声をかけてくれる
「ただいま戻りましたっ っとリアちゃんも帰ってきたようですね」
「あ! ちゃん〜お母さんただいまっ」
リアちゃんはアリスさんの娘さんで、今は王立剣士学校に通っている
年は12、私より4つ下だが、しっかりしていて母親と二人支えあって生きている
「じゃあご飯の支度しちゃいますねぇ〜 今日はさんも一緒に食べましょう^^」
「ありがとうございます」
そう言いアリスさんは母屋のほうへと戻っていった

ちゃんは今度のダンサー試験受けるんだよね?」
「うん、そうだよ〜」
「すごいなぁ 私も早く騎士になりたいよっ」
「あは でもリアちゃん剣士学校でも有名じゃない 最年少騎士有力候補でしょ?」
「まだわかんないけどね〜 早く騎士になってばんばん稼いでお母さんを楽にさせてあげるんだっ そしてお姉ちゃんを探すの〜」
リミちゃんの言うお姉ちゃんとは、本当の姉のことではないらしい
アリスさんが病気で危なかったときに、身を挺して助けてくれたプリーストさんのことらしかった
どういう経緯かは聞いていないが、少しの間ここにいてその後旅に出てしまったらしい
「今頃どこにいるんだろうなぁ・・」
「早く見つかるといいね^^」
「うん!」

「いっただっきまーす」
「いただきます」
「いただきますぅ〜」
神への賛辞の後、三者三様の挨拶をし夕食に取り掛かる
暖かいシチューが冷えていた体に温もりを与えてくれる
「がつがつがつがつ・・」
「もう ちょっとはゆっくり食べなさい」
「だって〜 今日もトレーニングでもうへとへと〜 お腹だってぐーぐーだもん」
そう言い残しリミちゃんは、また夕食へと没頭していった
「ごめんなさいねぇ 騒がしくてぇ」
「いえいえ このくらいの方がなんか暖かくていいです^^」
「そういってもらえると助かるわぁ ほらっ こぼれてるわよっ」
「あうう がつがつがつ」
多少こぼれても気にする様子などないようでリアちゃんは食に没頭している
「まったく しょうのない子ねぇ(苦笑」
アリスさんがリアちゃんの服を拭いてやる
いつもはしっかりしていて母親を支えているリアちゃんだが、こういったときは子供っぽくなる
(いや、これが本来のリアちゃんなのかもしれないなぁ)
しっかりしているとはいえ12歳 まだまだ甘えたいときもあるのだろう
「ごっちそうさま〜」
賑やかだった団欒も終わり、私は自室へと戻ることにする
ちゃん こっち泊まっていかないのぉ?」
リアちゃんが引き止めるが、さすがにこう何度もお邪魔していては悪いので引き上げることにする
「ごめんね ちょっと試験の勉強とかしないとなの〜」
「そっかぁ〜 がんばってねっ」
にまっとリアちゃんが笑い、送り出してくれる
以前から一緒にすまないかと言う誘いは受けているのだが、いくらなんでもそこまで甘えるわけにも行かない
格安で部屋を間借りして、時々ご飯もいただいているのだ
それだけでもおつりがくるほど助かっている
部屋に入り、術式ランプを燈す
火の精霊に働きかける術式を施した、魔力が少しでもあるものなら誰でも操れる代物だ
媒介はブルージェムストーンのかけら 一個入れるだけで、1ヶ月は明かりが切れることはない
ベッドに仰向けになって思想に耽る
(もうすぐダンサーかぁ… やっと目標に一歩近づいたよ お父さん…)


…4年前、ミッドガルド王国コモド自治区
「お医者さん!おいしゃさんはいませんかっ!?」
まだ開拓が始ったばかりのコモド地域では腕利きの医者なんていない
それでも少女は力いっぱい声をあげ探し回る
「お父さんが!お父さんが怪我してるんです!!お医者さんはいらっしゃいませんか!?」
むなしく響きわたる声
コモドにいた王都プロンテラからの駐在医師は、その少女の父親の状態を見ておてあげだった
「これは…俺には無理だ…… 教会の上級プリーストでさえ難しいかもしれん」
医師の言葉を聴き、有無を言わず私は町へ飛び出した

消えかけの希望を信じて…

事の始まりは、一時間前
本来浜辺に上がってくることのない半漁人が偶然町の中に現れたのだ
私は怯え逃げ出すこともできずにいた
振り下ろされる槍 飛び散る血飛沫 私が血に染まる
…父親の血に
私を庇って刺された父親は重体 すぐに冒険者たちによって半漁人は掃討されたが、その中に父親を癒すことができるものはいなかった
医者もおてあげ もう望みはコモドにプリーストが来ていることだけだった
「だれか!だれかぁ・・ はぁっはぁ」
長時間走り回っているせいで酸欠状態に陥り、私は力尽きて浜辺にしゃがみこむ
しかしそうしているうちにも父親の死は近づいていく
残された力を振り絞り立ち上がりかけた その時
「どうしましたっ? どなたかお探しのようでしたが…」
ふいにかけられる声
はっとして振り向いたその先には、見たこともない服装の若い女性が一人
「うっ…うっ… おとうさんがぁ おとうさんがぁあ……」
「怪我でもしたの?」
「ぐすん… お父さんがね お父さんがねっ もんすたーに・・・怪我させられちゃったの・・・ 町の・・・お医者さんじゃ無理だって・・・ プリースト様を探してたのっ・・・」
女性はコクリと頷く
「案内してっ はやくっ!」
はっとして走り出す

「こっち!」
少女に連れられて走り出す
「疾風よ舞え!Increase Agility !」
二人を魔法の風が覆い、少女と女性が風のような速度で走り抜けていく
すれ違う冒険者たちは一様に「?」のエモーションを出していた・・・

「ここだよっ おとうさん!プリ様連れてきたよっ!」
私も少女に続いて部屋に入ってくる
・・ すまない・・・ 親父さんは今、亡くなった・・・・・・」
医師が少女に最後の言葉を言い渡す
絶望の言葉を
「えっ・・・ うそ・・・ うそだよね! おじさんうそだよね!?」
医師に飛び掛り少女は暴れる
私は少女の父親のそばにより確認する
目で見、心で見る
(心停止からまだそんなにたってないっ!まだ大丈夫っ)
「どいてっ!まだ助かるわ!」
医師と少女を退かせ、術式に入る
(まずは傷を・・・)
「癒し給え!」
父親の傷が一瞬光に包まれすぐに消える 傷跡一つ残さずに・・・
(よしっこれで止血は大丈夫っ)
医師と少女は驚きで目を丸くしたまま女性の行為に集中している
「あなたっ お父さんの手を握ってて頂戴」
「えっ えっ?う、うん わかった!」
「お父さんが無事よくなるように願っててね^^」
微笑み女性が言う
「神よっ!あなたの親愛なる使途を すべての穢れから守り その内なる力を貸し与え給え! Basilica! Meditatio!!」
父親の周りに置いた、いろいろとりどりの結晶が輝き 彼女たちを包む
少女に手をかける
「治癒の神よっ!我が身体を寄代にし うつしよにその力を! 自然界の精霊よ 我が命に従い 彼の者に癒しの力をっ!
生きるべき力をあたえんっ! Resurrection!」
やわらかい光が少女に伝わり父親に流れていく
(あったかい・・・)

やがて、父親の土気色の顔が少しずつ生気づいてくる
辺りを包んでいた光が消えた
「もう大丈夫 あとはゆっくり休んでいればすぐよくなるわ^^」
女性は微笑み、驚きの表情をしている二人の横を通り過ぎて宵闇の中へと消えていった
銀に光る髪の靡きを残して…

「すーっ すーっ・・・」
やがて父親から柔らかい寝息が聞こえてきた

女性が誰だったのか、どんな人物だったのかは未だにわからない
王都から駆けつけてきてくれた医師も、話を聞いた教会のプリーストでさえ信じられないと言う顔をするばかり
父親を診ていた医師は、王都プロンテラ王宮に使えたことのあるほどの腕前だったらしく、記録の正しさは証明されていた
つまり…『彼女の父親は実際に心臓が停止し人間として活動が止まっていたのだ…』

私は今でもふと思う
もしかしたら、彼女は神の使いか悪魔だったのかもしれないと…
もう一度彼女に会いたい…たとえ魔物でも神であっても会ってお礼がしたい……
それが私が旅に出るきっかけだったのだ

彼女の言ったとおり父親は一週間ほどで完全に動けるようになった
本人曰く、怪我をする前よりも力が漲っているそうだ

それから二ヵ月後、私はコモドを出た
ちっちゃいころからの夢だった、憧れのダンサーになるために…
手先が器用だったことも相成って、アーチャーの試験はすぐに合格できた
父親も見聞を広めて来い!といって快諾してくれたし町の人総出で御祝いしてくれた
プロンテラでアリスさん親子と出会い、アーチャー試験場でミズシと出会い、今こうしてダンサーになろうとしている
いつかこのまま進んでいったら彼女に会えるだろうか…
いや!絶対に会う!会ってお礼を言うの!
ふっと意識が戻る
目から涙が溢れている 悲しくない それはうれしい涙
彼女に一歩近づけた喜び
「私はダンサーになるっ!絶対に試験に受かって彼女を見つけ出すんだ!」
天に拳を突き上げ、そこにある何かを握り締める

明日はダンサー試験当日
早めにベッドに入り眠りにつく
緊張と興奮と明日からの新しい日々に胸を躍らせながら…