「誰だ、貴様」

「お前こそ何者だ」


「「……………………………………」」

鬱蒼と茂った森の中
人が立ち入る事もない山の奥深くで

一組の男女が互いを睨み合っていた――












森の中の一軒家2











「師匠! 師匠っ!! どこだ! さっさと出て来い!!!!」


苛立ちを抑える事もなくずかずかと山小屋といった風貌の小屋の中を歩き回る

今日は久しぶりの町への外出日
ずっと欲しかった洋服のメーカーが一番近い町から2つほど離れた町に行商に来ているのだ
しかも今日だけの限定販売の洋服が沢山あるらしい


(これは是非行かねば…)と思い、あらかじめ場所をネットで調べて
今日という日だけは絶対に町への買出しに行くといっておいたのだが――



「どこだ!!! 出て来い!! 今ならまだ許してやる余地もある!」




肝心の師匠が消えてしまった

朝食が終わり片付けをしている時、ふと目を放した隙、それもほんの10数秒の間

なにやらよからぬ気配が背後でしたので、皿を置いて振り返ったところ既にソコにあるべきはずの人影がなかった



一番近い町への買い物なら一人でも行けるのだが、今回行商人が来ているのはその町のさらに2個隣の町
距離的にいえばここからなら、およそ150km程

一人で行けない距離ではないのだが―― 何分道がよく分からないのだ

ここに来てから師匠に教わったのはこの森一帯の地形と、近隣の町への道のみ


その先がどうなっているのか、そこまでどうやっていけばいいのかすら分からないのだ

さらに自分は… 自分で言うのもなんだがあまり方向感覚に自信がない
例え無事に目的の町に辿り着けたとしても、帰ってこれる自身がまったくなかったりする


「だから師匠に今日は絶対に一緒に買い物に行くぞ! 絶対だ!! 拒否権はないぞ!!!」
とずっと言って朝から目を離さなかったというのに……


(なんという不覚……)

あの師匠相手に10秒も目を離してしまうとは

こんな事なら師匠も一緒に片付けさせればよかった等と今更になって反省してしまう

つい、今日は付き合ってくれるのだから片づけくらいは自分がしないとと思ってしまった先ほどの自分が
あまりに愚かで憎らしく思えてくる


あの師匠に隙を見せる、それ即ち飢えた猛獣を獲物がいっぱいいる森の中に解き放つのと同じなのだ

飢えた猛獣はそれ自身に他を捕食する能力を有していたらどうするか――
答えは簡単、どこまでも自分の欲求を満たしつくすまでのを駆け回るのである


例えて妙
この山小屋は四方を半径100km以上の森に覆われている
まさに師匠という暇を持て余し野を駆け回ることに喜びを感じる猛獣を森に放ってしまったのだ


すでに悔恨の言葉も出ない……



師匠の姿が消えてすぐに家の中、家の回り全部調べたのだが時既に遅くというか予想通り師匠の姿はソコにはない

元々が出不精でさらにあまり大規模な町には出たがらない師匠の事だ

近隣の町への買出しくらいなら、ついでに自分の趣味の品を見に行ったりするついでにちょくちょく行っているのだが
どうもそれ以外の町へ出ようとはしない というか出るのをすっごい嫌がる

それをなんとか頼み倒して約束を取り付けたというのに……



「……………………フッ そうか そうなのだな師匠!! いくら疎いといわれる私でも分かってしまったよ
 つまり師匠…いや貴様はぁぁぁぁぁあああ」


すぅっと大きく息を吸い込んで、まるでこの森全てに響かせるかのように


『見つけ次第ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっったいにぃいい!!!! 殺す!!!!!!!』



高々と腕を振り上げながら宣言したその言葉に森の動物達はいっせいに慌てだし、鳥は逃げるように飛びだし
声の波動が森の中を漣のように縦横無尽に駆け抜けていった―――














そんなこんながあって、「師匠を探して買い物に連衡しようツアー」から
「師匠を見つけ出し次第磔刑に処す『サーチアンドデストロイ』ツアー」にその趣旨が変わった頃

森を彷徨い歩いていた私の目の前になにやら妙竹林な格好をした生物が現れた。


がさり、という音とともに現れたソレと視線が噛み合う

長身美麗…と言えるのだろう
丹精に整った顔つきにしっかりポマードでも効かせてあるのか、バリバリまで固められたオールバックの髪の毛
長身の割りに細いと言った印象を与えない引き締まった体躯、それでいてスラリっとした印象を与えているのが小憎たらしい
森の中を一人でずっと歩いてきたのか、その手には必要最小限の飲み水と食料
それなのに服には汚れ一つ、傷一つついていない
さらにその纏うオーラも淀みがほとんどなくよく練磨された達人のものである事が見て取れる


そう、そこまではいいのだ

何を隠そう私も美麗な男子は大好きなのだ メンクイというなかれ
女たるものやはり美しいものは美しいのだ

しかし! しかしである!!


バランスの取れた端正な顔つき 色が白い綺麗な肌 よく引き締まった体躯
とてもすばらしいものを持っている、持っているというのにっ!!





………ナニその格好





素敵なはずの青年は、その妙な格好により私の中での評価は一気にストップ安へと到達していたのだ



黒のスラックスを穿きこなし、コートを纏ったその格好


(…なぜだ なぜなのだ……)


しかしそのコートは激しく胸元が開いており、襟首のところから襟周りを一周しさらに前面部へとふぁさーっと伸びる
ふわふわな羽 手首にも同じくふわふわな羽
さらにその下は何も着てないという裸体


確かにまだ暑いけどさ… 私もTシャツに軽いパンツってラフな格好だけどさ……


なんで裸コート! しかもでこの十字の刺青はなんだっ


さぁ今すぐ説明しろ、300字以内で! わかりやすく!! なんで君はそんな服を着ているのかっ!!! 
さぁ早く! 早く!! ハリー! ハリー! ハリー! ハリー!! ハリー!!! ハリー!!!!




そんな事が頭の中をぐるぐる回っていた私に気づいたのであろうか
目の前の生もの、訂正黒服のふぁーのついた男がゆっくりと口を開きかける


私も負けじと声を上げる


そう、この男に先手を与えてはいけないっと、心のどこかで警鐘が鳴り響いている



「誰だ、貴様」

「お前こそ何者だ」


ほぼ同時に発せられた言葉はあまりにも刺々しくて、


「貴様が名乗れ」

「いや、お前が先だ」


「断る」

「ならこっちもお断りだ」



「「……………………………………」」




お互いに平行線を辿り続けていた――



















「……そうか客人だったのか それは失礼した」

「いや、こちらこそすまなかった この森の中で他の人間に出会うと思っていなかったのでな」


黒いふぁーの男、――あの後クロロと名乗った青年はあの平行線を辿り続けていた応酬に自ら折れたかのように終止符を打った

それは即ち自分からの名前の告白と目的の告白である


私も師匠のあの事(今思い出しても怒りがわいて出る)があったためか少し意固地になりすぎていたのを反省

今はこうして彼を山小屋へと招待し、お茶を共にしているのである


普段から客人以外を見る事のない森の中ゆえ、今まで一度も見た事がなかったクロロは、
禁猟指定の保護動物を狩るハンターか私達の噂をどこかで聞きつけてきた賞金首ハンター
だと思っていたのだが――



「それでディランはどこにいる? ……ぉ この紅茶結構いけるな」


目の前でおいしそうにクッキーにぱくつきながら紅茶を啜っている青年はどうやらディランに用事のある客のようであった


「そうだろう その紅茶は私がこの森で摘んでしっかり発酵させたものだからなっ」

「ふむ… これだけの味、専門店でも早々お目にかかれないな」

「そうかっ!? あ、もうなくなっているじゃないか おかわりをついできてやろう
 土産代わりに葉っぱも少し持って帰れるように用意しておこうか?」

「ああ、助かる っと、ディランが今どこにいるか知っているか?」

「ああ、そうだったな 君はディランの客人であったな それがだな……」


各額云々と今朝の出来事をまるで愚痴を掃けるように青年へとぶちまける

「……というわけなんだ すまないが今の師匠の場所は私には分からないが…
 多分晩飯の匂いに釣られてどこからかひょっこり戻ってくるだろう」

「ハハ 君にとっては災難だったな そういえば君の名前まだ聞いていなかったんだが… 聞いてもいいかい?」

「ああ、それは失礼した。 久々の客人だったのでな、つい我を忘れて話しにのめりこみすぎていた 非礼を詫びる
 すまない
 私の名前は= と呼んでかまわないぞ」


…か 先ほど紹介したと思うが、こうしてきちんとレディーに名乗られた以上返さないわけにはいかないな
 オレはクロロ クロロ=ルシルフルだ クロロでかまわない」

「挨拶が遅れてすまなかったなクロロ、あらためて当医院へようこそ
 何もないところだが精一杯のもてなしはする ゆっくりしていってくれ」

「ありがと それでオレはどうすればいい? 時間が合わないようなら出直してくるが」

「いや、それには及ばない。 折角師匠を訪ね遠路はるばるお越しになられたのだ。
 師匠が戻ってくるまでここで寛いでいてくれ といっても何もない山小屋だがな」

「構わない それよりのことが知りたいんだが いいか?」

「わ、私のことなんて聞いても面白くないぞっ!? …だが、師匠の責任は弟子である私の責任でもある
 可能な限りは答えよう」

「なぜ師匠なんだ? ディラン=カーチスは弟子を取らず一匹狼でずっと活動をしていると耳に挟んでいたんだが」

「詳しい事はいえないが、私がこの山小屋に来たときから師匠はずっと師匠だぞ?
 とはいえ昔の事を話したがらないから詳しくは知らないがな ……こんなのでいいか?」

「いや、十分興味深い が弟子になった経緯とか教えてもらえるか?」

「そうだな… あれは―――」



クロロのその言葉に私の思考が休息に過去へと遡る

それはほんの数年前の出来事





森の中で叫ぶ声、それは私の声だった

そこがどこなのか、なぜ自分がそこにいるのかもまったく分からなかった

ただここがどことも知れぬ森の中で、自分が確かにそこに存在しているということだけが私が私である証拠だった

鳥が飛び立つ音に怯え、獣がどこかで遠吠えする声に震え、得体の知れない何かが地面を揺るがしている音に絶望していた

そこには何一つ自分の味方となるものはなかった、自分が知っている生き物すらいなかった


ただあるのは大気と森と空と雲と大地

それだけが私が知っている唯一のものだった


まだ幼かった私が、このハンターでさえも明確な目的がないと近寄らないとされる森の中で生きていけるはずもなく


「グァアッォォオアオアオアオアオァオアオアオアッッッゥゥゥッ!!!」


野獣に追われ、必死で逃げ、それでも追いつかれて

その牙が私の頭を砕こうとしたところに


「なんだこの生もの? 新手の魔獣か?」


全然優しくない救いの天使ならぬ、白衣のオヤジが現れたのだった―――




そんなわけで私はこのオヤジ、ディラン=カーチスと名乗った白衣のオヤジに命の危機を助けられたのであった


贅沢だとは分かっているが幼心に思ったものだ
どうしてこの白衣のオヤジが白馬に乗った王子様ではなかったのだろうと


まぁそんな幻想全力全開で打ち砕かれて砕け散っていたわけだが――


でも、あの時ディランが助けてくれなかったら私はあのまま獣のお腹にダイブインしていたし


それになにより―――

にこっと作りなれない歪な笑顔を浮かべながら「お前行く当てないなら、うちで飼ってやらんこともないぞ?」
という厭味たっぷりの言葉と、がしがしと乱暴に髪の毛を撫でるゴツゴツした手が私は凄く好きだった

その時は白馬の王子様じゃなかったけど、この白衣のオヤジに拾われてよかった――
なんて思ってたりもしたのだ

その後その幻想すらあっさり砕け散ったがな


それは普段のディランの様子を見ていれば分かってもらえると思う















「……というわけだ。 命を助けてもらったり生きていくための知恵は教えてもらったが
 それ以外は碌な出会いじゃなかったな」

過去の記憶を要所要所掻い摘まみつつクロロに説明する。

その度クロロは「ああ」とか「ふむ」とか相槌を打ちながら、口元にはずっと微笑を浮かべていた。


「そうかー。 いや、いい話を聞けて面白かったよ」

「そうか? 大して面白くもないと思うのだが… まぁでも楽しんでいただけたのならよしとしよう
 そろそろ晩飯の支度に取り掛からねばならないが、もう質問はいいか?」

「…あと1つだけ 、お前はディランの技術を継承しているのか?」

それは今までの軽い喋りとは違ったなにやら含みを含んだ言葉

言葉の端々から今までの質問の時とは違う言葉の裏に秘められた言葉が感じ取れる


その言葉にすっとという一人の女としてではなく、ディランの弟子という一つの私に切り替わる

「…それは私の技術をどうにかするつもり、の言葉なのか?」

「返答次第では容赦はせぬ」と言った意味合いを含めつつ、クロロへと質問を質問で返す
場の空気が張り詰めていくのが肌を通じてはっきりと感じられる

突き刺すような視線、突き刺されるようなオーラ

お互いに言葉もなく、ただ相手の出方を伺い睨み合う


どれほど続いて静寂だったのか、やがてクロロがふぅっと息を吐くと共に場の張り詰めた空気は一気に霧散する

「この小屋の主がいない時にそういう話をするのはマナー違反だったな すまない
 今の質問は取り消す」

「こちらこそ答えられなくてすまない。 一応あれでも私の師匠だからな。 簡単に情報を喋るわけにはいかない」

「気にしないでくれ。 それより晩飯の支度何か手伝う事あるか? オレにできる事があるのなら手伝おう …今の詫びもかねてな」

「助かる では、ここから北に5kmほどいったところにある川から何か魚を数匹捕まえてきてはくれないか?
 私は少し離れた畑に行って野菜を取ってくる」

「わかった、どんな魚を取ってくればいいんだ?」

「…大丈夫 いけばわかる それよりも、道中危険な魔獣が出るからがぶりとやられないように」

「……わかった」

今度は先ほどよりも小声で、自分の先ほどの申し出を少し悔やむかのように呟いたクロロは、森の中を涙を流しながら北へ駆け抜けていった





その道中見た事もないような念を持った魔獣に散々からかわれたり、川についたらついたでうようよいる巨大魚の捕獲に
凄く手間取ったりして、山小屋に辿り着いた頃にはその顔に疲労が色濃く根付いていたというのはまた余談









-

「さてと、出来上がったぞ」

窓辺には夕闇が沈み行く森が映し出されている中、次々と運ばれてくる料理をクロロはせっせと並べたりしていた。

「量多くないか?」

じとーっと注がれるクロロの視線の先には、およそ3人で食べるとは思えない量の料理が陳列している

別にそこに置かれた料理がまずそうということではない、いやむしろかなりうまそうなのだが―――


(どうみても量が… ってか確実に10人前はあるぞこれ……)


冷や汗たらーっと流しているクロロを横目に、はさらに料理をクロロへと手渡していく。


「あー、ちょーっとだけ作りすぎてしまった 久方ぶりに師匠以外と食事をするのだ
 張り切らねば損というものだろう? それに自分で言うのもなんだが私の料理は結構評判がいいぞ?」


「これでちょっと…か」


さらに増え続ける皿にクロロは軽く眩暈を覚えつつも、出てくる料理の見事さにずっと目を奪われ続けていたのであった―――









-

「さてと、じゃあいただくとしよう いただきます」

「…いただきます て、お前の師匠待たなくていいのか?」

「ああ、捨て置いて構わん 腹がすいたらどこからか沸いて出るだろう」

「沸いてでるって …なかなか酷い扱いだな? よ」

「ほら 言ったとおりだろ?」

さも当然というように、クロロが唖然と突然現れた人物に視線を向ける中、私は言い放った。


「クロロ君か、初めましてかな。 話の事は大体想像がつくけど、
 とりあえず飯冷めないうちに食っちまおう。 話はそれからな」

「…あ、ああ」


平然と食卓に加わる師匠、既にそれを予見しておいて師匠の分の皿と箸、お茶は入れてある。


「また腕を上げたな。 さすがオレの弟子だ」

はっはっはーと笑う師匠。

ちょっとまて、あなたは何か忘れてはいないか師匠。


「ところで師匠… 飯の前にちと話があるのだが」

「ん? なんだ言ってみぃ」

あいもかわらずとぼけた口調の師匠、…一遍本気で怒らないとどうにもならないのか、コヤツは


「あぁ、それなら言わせてもらうが師匠!! 今朝私は散々言ったよな! 今日は出かけたいから一緒についてきてくれと
 絶対にどこかへふらりと行かないようにと!!!! 師匠も了承したから覚えてる…よな?」

「あ…あぁ 覚えてるぞ! もちろん覚えてる!! 忘れるわけがないだろう」


自信満々な口調だが、先ほどまでの完全強気唯我独尊な口調は多少なりをひめ今では口の端がふるふる震えているのが見て取れる。


「ほほぅ? ならば師匠は覚えていて姿をくらましたと? かわいい弟子のたまの頼みよりも大事な事があったと?」

「ほ、ほらあれだ! キツネグマの子供が生まれたんだよ!! 急いで見に行かないと親グマが警戒しちまうだろ?
 それに密漁ハンターにでも見つかったらやばいし!!! 分かるだろ? なっ? そこのあんたもこの一大事が分かるよな!?」


自分では会話を逸らしきれないと踏んだのか、師匠は私の怒りの矛先を必死にクロロの方へと向けようとしている。

「そうだな 確かにソレは一大事だ 急いで見守ってやらないとな」

それに同調したかのようにクロロが師匠へと返す。


(おのれ…いつの間に結託したのだ!!!!)


「だろー、だろー なぁ!! あのかわいさは核弾頭並だぜ!? やっぱ兄ちゃんよく分かってるよ!!
 どこかの大喰らいの馬鹿弟子とは出来が違うな ハハハハハのハー!!!」



ピキ…




壊れる崩れる消える壊れる壊れる懐れるコワレルコワレルこわれルこわれるこわれるコワレル…………


私の中の何かに小気味いい音と共に幾筋もの亀裂が入る。


ああ、そうか こういう師匠だったな 今更ながらに思い知ったよ

まともに追及しようとした私が馬鹿だったと



無言で師匠の前にあった皿を全部下げる。


「おっ、何すンだー 横暴だー!! なァ兄ちゃん そう思うよな? なっ?」

仲間を得て嬉しいのか、しきりにクロロへと助けを求める。

「そうだな、ちょっと横暴すぎると思うぞ?」

それを見ながらなぜかクロロも結託して師匠に相槌を打ちまくっている。

「なぁーそうだよなァ!! 兄ちゃん話が分かって最高だぜ!!! まァ飲め!! がんがんいけェ〜!!!!」

盛り上がる酔っ払い二人。




(大丈夫… まだ耐えられるはずだ 私はこんなところで折れたりするような心など持ち合わせてはいないはず……)


まるで自分に言い聞かせるかのように心の中でその言葉をずっと反芻し続ける。



目の前ではいまだに師匠とクロロが何か結託して騒いでいるが、平常心を呼びかけ続ける私にはそんなもの…効かぬっ!!


とりあえず今は抑えて、作り笑いでも浮かべながらにこーっと師匠の方を振り返る。

後で覚えてろ糞師匠とか思いながらも、とりあえずは師匠のお酒のおかわりでも持ってこようと席を立つと―――




「ったくよぅ! 乳とか尻ばっかり立派に育ちやがって 師匠の言う事は全然聞かねェ弟子になっちまいやがった!!
 …こんなにむだにでかくなりやがって」


スリスリ

師匠の言葉が言い終わるや否や、臀部、所謂お尻に違和感すっごい違和感

うん、これ間違えなくお尻触られてるね …弄られてるね


次第にエスカレートしていくその行為に私の表情は既に凍り付いている。

「どうだ? 兄ちゃん無駄に育ってっだろ?」


ムニュン


ああ、今度は乳か 乳なのか
横合いから伸びてきたクロロの手が私の胸を鷲掴みにしてその感触を楽しむかのように弄っている。


「なかなかいい具合ですね。 感度も割といいみたいだし」


そう言いつつ師匠と同様にエスカレートしていくクロロの指。
胸の感触を楽しみながら、ちょっと硬くなってきた乳首をコリコリってぇ…………


「これでも結構いい声出すぜー 兄ちゃんも聞いてみたいだろ?」

「是非とも」


ああ、確かに少し感じているさ 少し濡れかけているさ
否定はしない 事実だからな

うん、確かに声も出そうなくらい気持ちがいい

うん、このままずっとされててもいい………………ってんなわけあるかぁあああああああああああああああ!!!!







パキン!







小気味いい音を立ててひび割れていた私の中の何か、つまり理性君が完全に崩壊なされたようだ




(ああ、もう知らぬ これからのことなどもう知らぬ 勝手にしろ馬鹿師匠馬鹿クロロ)
















「…あッ………あふ……………んっ!  ふぁァッ!!」

私の口から熱い吐息が漏れる。
今まで我慢してきたソレは妙に熱をもって私の口から吐き出される

「確かにいい声だ」

クロロの胸を弄っていた手は既に下着の中に進入し、胸を直に弄くっている。



「だろー、普段は無愛想なくせn「なんて言うと思ったか貴様らあぁああああああああっっっっっ!!!!!」……ヤベ」


ガッシャーーーン!!!!


と盛大な音を立てて私の腕がテーブルへと突き刺さる。



「ああ、どうせ無愛想さ! 師匠の言う事はあんまり聞かないさ!! だがな師匠、貴様がソレをいえるとでも思っているのか?
 あとクロロ! 貴様人の柔肌をもてあそんで楽しむとは…その罪万死に値する。 客人といえ覚悟してもらう。
 …………大人しく 死ね」


ソレを知っている師匠は先ほどまでの悪戯を酒に酔っていたとはいえ今は既に後悔し、クロロは分けの分からないまま
ただ呆然とこちらの様子を眺めている。


「あー、兄ちゃんすまねぇ。 あいつの逆鱗に触れちまった。 と、いうわけで一緒に仲良く…死のうや?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 説明、説明を求むっ!!!!」


そんな会話をしながらも、私の拳は次々と逃げ回る二人へと飛来する。

その度に砕け散っていく木の家具、鉄の支柱、金の置物


バキャ! グシャ!! ゴシャアアアアアン!!!!


小気味いい音を立てつつ、部屋にあったもの全てが消し飛んでいく。


ああ、この後掃除が大変だなとか、家具とか直すの大変だろうなーなんて……今の私は微塵も思っちゃいない


さーちあんどですとろーいである

邪魔するものは全部ぶっ飛ばせ、ソレが今の私の状態である


通称バーサーカーモード



全てを破壊しつくす破壊神
まるで暴風が吹き荒れるかのような局地的な災害
通り過ぎた後にはただ粉々に砕かれた無残な物体の破片のみがあたりに散らばる


ソレ即ち狂戦士
全てを薙ぎ払う怒りの権化



「とりあえずだ。 絶対に防御はするな 死ぬぞ」

「…なにっ 凝でもだめなのかっ!?」

「まぁやってみればわかるが…軽く一月は入院コースだな」

飛来する攻撃を避けながらクロロの顔が青ざめる。

「ちょっと待て!! あんたの弟子ってことはも操作系だろうがっ!!! 何でこんな異常な力を持ってる!?
 どうみてもヤバイレベルの強化系能力だぞ!!?」


「兄ちゃんオレの系統まで調べてンのか。 やるねェ ま、俺の仕事内容知ってれば想像は難しくないか」

ひらりと超高速で飛んできた鉄片を避ける。

避けたところに飛来する拳もまたひらりと避ける。

「とりあえず詳しくは言えないが、今のあいつの状態は完全に特質系だ。
 発動条件は完全に『キレること』、以上!!」


「…っ! 特質だと!!! 対処法はっ!?」


「……死ぬか、怒りが収まるまで逃げ続けろ。 今のあいつは言葉も届かない狂戦士だ……とおっ!!」

今度は紙一重で飛来してきた蹴りをかわす。

(ああ、そろそろヤバくなってきたな。 ……これは覚悟を決めるしかないか)


「どんあふざけた……っあっ! 能力…っ………だっ!!!! というかだんだん反応速度と精度が上がってきてないか?」

「ああ、言い忘れてた。 時間がたてばたつほど、相手と相対している時間が長くなればなるほどあいつの威力と精度はどんどん上がっていくぞ?」

「先に言えっっ!!! で、あんたは何度もこんな状態になってるんだろ!!!! 何か手はないのかっ!!!!!」

どんどん倍加する速度と威力と制度。

先ほどまで割りと会話に集中しながらでも避けられた攻撃が、今ではやばいくらいにクロロの身体を掠めている。

紙一重で避けていたというのに、少しだけかすった服は鋭利なドリルで打ち抜かれたかのように跡形もなく消え去っている。


(どんな能力かは分からないが… 確かにヤバい!! まともに食らったら身体に大穴が、例え念でガードしたとしても
 念のガードの上からガード部分を容赦なく破壊…か ふっ…こんな所で蜘蛛が終わるなんて…な)

既に微妙に意識が上の空になって言ってるクロロ。

既に山小屋は半壊して、辺りの地面や木は容赦なく抉り取られている。


「……あ もしかしたら」

逃げ回りながら何か閃いたのか、ごにょごにょと逃げ回っていたクロロを捕まえディランがなにやら耳打ちをする。

「ほ、本当かっ!! 怪しいところだが…いまはこれしかないな。

 っ!! ■●■■●の新作服、オレは全部持ってるぞぉおおおおおおおおお!!!!!」


持ってるぞー持ってるぞー持ってるぞー…………

森に木霊するクロロの声。

まるでその声が停止の呪文のように


「………………………………」


ピタリとあたりを瓦礫の山へと変えていた暴風の動きが止まった。


「……………ほんとか?」


「ああ! 本当だ!! 既に発売停止になった物まで全部ある!!!!」


「アレとかあるか?」


「ああ、アレもコレもソレも全部ある!! 晩飯を御馳走になった代わりに今度全部持ってくる!!!
 どうせオレにはもう必要がないものだからなっ」


「……交渉成立だクロロ。 今度来る時を楽しみにしている」


やがてその言葉で満足したかのように暴風はその怒りを沈め――

コテンと床に転がった。


つんつんと足でを突っつき反応がないことに安堵の表情を浮かべ、
あのブランドを気に入ったマチとパクノダとシズクが製品全て盗み出していた事に深く感謝をし、
ずたぼろになりながらも何とか生きていられたことに、クロロは大きなため息と共に安堵の声を漏らした―――










-

「あーあ こりゃまたひでぇな」

決して立派とはいえなかった山小屋だが、今では既に見る影どころか跡形すらない。

かろうじて形を残しているのは自分の自室と診察室兼治療室のリビングとの自室くらいか……

台所周りからダイニング、風呂、水周り、客間全てが崩壊している。


ちと調子に乗ってやりすぎてしまったことに少し反省してはいたが、もうなんていう改めて思い知らされた?

クロロには詳しく言ってないが、のあの状態はヤバすぎるのだ。

とにかくヤバイ、なにがヤバイってあの攻撃力とその拳が宿す能力が曲者なのだ。

いつまでたっても切れないスタミナに、対峙すればするほどより精度、威力、速度を増していく暴風。
何よりやばいのは…あの全てを粉砕する能力、あれは拳の周りのオーラが微妙に振動し
さらに螺旋状に巻きついて高速で動いている。
生身で食らったら間違えなく大穴が空く、というか一度空けられた。

さらに凝で防御しても、防御した部位から振動が念を伝い身体に伝わりその部分を容赦なく破壊する。
腕に当たったのならその部分の骨は跡形もなく粉微塵になっているだろう、というかなった。


それほど厄介な能力だが、その発生条件との精神力の強さ故に発動する事は極稀で
さらに使い終わった後は大抵何日か眠りっぱなしになる。

(まぁ何日か眠りっぱなしになるのは、対象を全部抹消してからだからあんまり関係がないんだがな……)

自分の弟子ながら恐ろしすぎる。


とはいえその原因の9割はディランとか客人の悪戯が発端だから、ある意味自業自得なのだが


「ま、寝顔はかわいいわな」


呆然とを抱えながら家の惨状を眺めるディランの横で、まるでありえないものを見たといった表情で
クロロは呆然との方を眺め続けていた。






それは興味の視線だったのか、ただ今の平和を噛み締める安堵の視線だったのか―――




















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森シリーズ第2弾!!
今度のお客人はクロロさんでした。
とはいえクロロっぽさがあまり出てないようなっ。
ま、まぁその辺りは置いといて。
やー、なんかはちゃめちゃ痛快コメディーになってますねぇ。

ちなみに=(デフォルトネーム)の
ヒイラギの英名であるhollyを少しもじったものだったりします。

次回は誰が山小屋を訪ねてくるのか
……というか山小屋ほぼ全壊しちゃったんだよね