ヒロくんお月様とおしゃべり


作・構成:春名康平
 
 

お月様が大好きなヒロくんは、毎晩毎晩空にポッカリ浮かんだお月さんとお話をしています。
最初にお話をしたのは、夏に家族で行ったキャンプの時です。
山のキャンプ場は、夜空がとてもきれいです。
お星様も名古屋の家で見るのとは比べ物にならないほど、
キラキラとそして沢山きらめいていました。
そんな数えられない程の星の真ん中で、お月様は眩しいほど輝いています。
すると・・・「ヒロくんこんばんは、私が夜の世界の王様の月じゃよ」と、突然お月様が話し掛けてきたのです。
「お母さん、今、お月様が僕に何かお話ししてくれたよ」
お母さんは「あらっそうかしら」って聞こえなかったみたいです、
妹のまあちゃんも「わたし何も聞こえなかったよ〜」って言います。
でもお父さんだけは「こんなに眩しくてきれいだから、お月様の声が聞こえるかもしれないね、
お父さんも子供の頃に、お月さんの声を聞いた事があるよ」と言ってくれました。

すると、また声が聞こえてきました。
「ヒロくん、私の声は誰にでも聞こえるというわけじゃないんだよ、
私の事を大好きな子供たちだけに聞こえるんじゃ、ヒロくんも心の中で私に話し掛けてごらん」
ヒロくんは目を閉じて、心の中で
「お月さん、はじめまして、よろしくおねがいします」と、大きな声で叫びました。
すると「(笑い)ちゃんと聞こえたぞ、こちらこそよろしく」お月様が答えてくれたのです。
「ヒロくんともっとお話ししたいけれど、明日はハイキングに行くんじゃろ、早く寝ないと朝寝坊しちゃうぞ。」
「お月様はどうして知ってるの?」
「世界中の良い子の事を、お空から見てるからね。それじゃあおやすみ」
と言って、雲のかげに隠れてしまいました。

ヒロくんはテントの中に入って眠ろうとしましたが、胸がドキドキしてなかなか寝付けません。お
月様の青い光が、いつまでもヒロくんのテントを照らしていました。



 

キャンプから帰ってきたヒロくんは、2階の窓から空を眺め、
今夜もお月さんとお話しをしています。
キャンプ場のように沢山の星たちを従えていないものの、
お月さんだけは夜の空の王様らしく、誇らしげに輝いています。
だけどちょっと気になる事があります。このあいだキャンプ場で会ったお月様は
とてもスマートだったのに、このところちょっとおなかが出て来たような気がするのです。
そういえば、夏にお父さんが「ビール飲みすぎちゃったなぁ」って、
出っ張ったおなかをポンポン叩いていたのを思い出しました。

ヒロくんは思い切ってお月さんに聞いてみる事にしました。
このあいだお月様に教えてもらったとおり、目を閉じて心の中でお話しします。
「お月さん、最近おなかが出てきたみたいだけど、ビール飲みすぎたの?」
お月様は大笑いです。
「いやいや心配してくれているのに、笑ってはいかんかったな、わしは、
29日と半日かけて細くなったりまぁるくなったりすんじゃよ。
キャンプ場で会った時には半月といって、スイカを半分に切ったようなかたちだったじゃろ、
これからもっともっとおなかが出てきて、
最後にはヒロくんが大好きなサッカーのボールのように真ん丸になるんじゃ。
丸くなったら、今度は少しずつお腹が引っ込んで、スマートになるから心配いらないんじゃよ」
「ずっとずっと細くなっちゃって、最後はどうなっちゃうの?」
「お空から消えてしまうかな」
「じゃぁ、もうお月様とは会えないの?」
「いやいや、一日だけお休みさせてもらうけど、また次の日には会えるから大丈夫」
「あぁよかった。びっくりしちゃったよ」
「そうそう、スマートになったら、太陽くんと追いかけっこをしようって約束しておるから、
昼間にお空に昇っておるぞ(笑い)」
またまた大笑いしたお月様は、随分丸くなった姿で、お空の真ん中へとゆっくり昇って行きました。
 



 
 

いつもお月様とお話しをしているヒロくん。
いつものように2階へ行くと、待ってましたとばかりお月様が話し掛けてきました。
「ヒロくん、今日は私の大変身をお目にかけよう」お月様はいつになく得意げな声で言います。
「今日は日本中の私のファンが見つめているから、張り切ってやらねばな。
ほらお隣のベランダをみてごらん」
見ると、おにいちゃんが天体望遠鏡でお月様を見ています、
おじさんはビデオカメラでお月様を撮っています。
「お月様、いったい何が始まるの?」
「それは見てのお楽しみ、のんびりと私の姿を見ててごらん。おっともう端っこが欠けてきたな」
ヒロくんはびっくりです。さっきまで真ん丸だったお月様の体が、少しづつ削れられていくのです。
「お月様、痛くないの?大丈夫?」
「平気じゃよ、さぁこれからがクライマックスじゃ。しっかり見てておくれよ」
そう言っている間にも、お月様はどんどん小さくなっていきます。
そして、いつも白くきれいなお月様は、不気味に赤く光る恐ろしい姿に変わってしまいました。
ヒロくんは恐る恐る
「お月様、どうしちゃったの?悪魔に呪いをかけられちゃったの」
「大丈夫じゃよ」いつもの元気な声が返ってきました。
「これはね月食と言うんじゃよ。私は太陽くんと違って、自分では光を出さないんじゃ、
だけど光って見えるのは、太陽くんが私にスポットライトを当ててくれてるからなんじゃよ。
でも今夜は、私と太陽くんの間に、ヒロくんが住んでいる地球が入り込んでしまったので、
スポットライトの光が当たらなくなってしまっているんじゃ。」
「本当にびっくりしちゃった。でも楽しかった」
「また来年の7月16日にも、月食があるから楽しみにいてておくれよ」
真ん丸に戻ったお月様は、またいつものように白く優しく光っていました。
 

*2000年7月16日と2001年の1月10日には皆既月食が見られます。
 



 

いつもお月様とお話しをしているヒロくん、今日は朝から大忙しです。
今夜は仲秋の名月、おかあさんは朝からお供えのお団子の準備をしています。
ヒロくんとお父さんは、お供えするススキを庄内川の堤防まで探しにいきましたが、なかなか見つかりません。
「おとうさんが小さい頃は、このへんもススキがいっぱい生えていたんだけどなぁ」
「もっとほかの所も探してみようよ」
お父さんの車であっちこっち探して、やっとススキを見付けた頃には、もう夕暮れが近付いていました。
「おとうさん、早く帰らなきゃ、もっとスピード出してよ」
「だめだめ、満月の夜には交通事故が多いって話を聞いた事があるからね、安全運転でね。」
「へえ〜そうなんだ」
その時です、遠くの方からお月様の声が聞こえてきました。
「私はまだしばらく顔を出さないから、ゆっくりお帰り」ヒロくんはおおきくうなづきました。
ヒロくんがおうちに帰ると、2階の窓の所にはお団子が山のように飾ってあります、
お芋やぶどうもあります。ヒロくんがとってきたススキは、お母さんが団子のお隣に飾ってくれました。
さぁ、いよいよお月様が昇ってきます、今日はなんだかドキドキします。やがて太陽が沈んで、
あたりが暗くなりはじめた時です、東の空から大きくって真ん丸なお月様がゆっくりと顔を出しました。
「やぁ、ヒロくんお待たせ。今日は一年に一度のお祭りだね、いやぁなんだか照れくさいのぉ」
「どうして?」
「今夜は中秋の名月と言ってな、私の姿が一年で一番きれいに見える夜なんだそうじゃ、
ヒロくんが住んでいる日本という国では、もう大昔からこうして中秋の名月を楽しんでくれておるようで、
今夜ばかりは沢山の人たちが私の事を見ていてくれるんじゃよ。
さぁ、みんな呼んできて秋の夜をゆっくりと楽しんでおくれよ」
照れくさそうに笑うお月様の顔が、少し赤くなったような気がしました。
 

*今年の仲秋の名月はあさって9月24日(金)です。みなさんもお月様を見ましょう。
*今年の中秋の名月は満月にはなりません、9月24日は月齢14で、翌日の25日が満月です。
*満月の夜には交通事故や犯罪が増えると言われています。交通事故については「うっかり事故」
 が多いという調査結果も報告されています。(現在調査を進めている警察署もあります)
 



 
 

いつもお月様とお話しをしているヒロくん、今日はお月様と会うのが待ち遠しくてしかたありません。
お誕生日のプレゼントに天体望遠鏡を買ってもらったのです。
はりきって望遠鏡を構えていると、東の空からお月様がいつものようにゆっくりと昇ってきました。
望遠鏡をじっと覗くヒロくん、だけど・・・・白くてスベスベお肌だと思ってたお月様が、
望遠鏡で見ると、デコボコでまるで岩のかたまりのようです。
「ヒロくん、お誕生日おめでとう。とうとう望遠鏡を買ってもらったね」
お月様がにっこりと話し掛けてくれました。
「うん、お月様がすぐそばにいるように見えるよ、だけどお顔にいっぱい怪我してるみたいだよ」
「これはクレーターと言ってね、隕石がぶつかった跡なんじゃよ。」
「じゃあやっぱり怪我しちゃったんだね」
「こんなのは痛くも痒くもないんじゃ、さぁもっとよーくみてごらん」
「黒〜く見える所は?」
「あぁ、これは海じゃね。でも地球の海のように水はないんじゃけどな。もちろん山も沢山あるぞ、
やっぱり草も木もはえてないはげ山じゃけどな。」
「へ〜なんか変なの」
「いやぁそれは反対じゃ、広〜い宇宙から見れば、地球のように青い海があって、
緑の大地があって、生き物たちが楽しく生活している星なんてのは聞いた事がない、まさに奇跡じゃね。
ここから見る地球は実にきれいじゃよ。これからも美しい地球を大切にしなくてはいかんよ。」

ヒロくんは望遠鏡を覗きながらお月様と夢中になってお話しをしました。
お月様が生まれた時の事や地球から人間がやってきた時の事、楽しいお話しばかりです。
やがて、お月様の声が少しずつ遠く小さくなっていくのに気が付きました。
「お月様、なんだか声が小さくなってきたよ」
「私の声は小さな子供にしか聞こえないんじゃよ、今日ヒロくんはお誕生日を迎えて、ひとつ大人に近付いたじゃろ、
それで私の声が聞こえなくなってきたんじゃよ。
さぁて、私の仕事もそろそろおしまい、これからはお友達や家族といっぱいお話しをして、
私よりもずっと大きくなっておくれ。」
それっきりお月様の声は聞こえなくなりました。
空にはいつもと同じお月様がポッカリ浮かんでいました。



 

この作品は、たまたま父親のところに作品を取りに行く事を忘れていたため
あわてて自分で作ったものです。

9月の放送という事もあり、月を題材にしてみました。
秋の夜、きれいな満月を見ていると、月が何か話し掛けてくるような気がします
ひょっとしたら私たちも子供の頃には月と話しができたのかも・・・そんな事も感じます

月を会話をできる子供を主役に仕立てる事によって
これを聞いた(読んだ)子供たちにも、秋の夜空を見ながら夢を抱いて欲しいと思います。
また、月に関する科学や習慣の雑学もおりこんでみました。

家族でのんびりと月を眺める時間をぜひ作って下さい。


 

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