「魚の形の北海道」
 
 

作:吉橋猛美
構成:春名康平
 

 みなさんは北海道へ行ったことはありますか?
 そうです、私たちが住んでいる日本の一番北にあるのが北海道です。
今日のお話しは、おとうさんやおかあさんに北海道の地図を見せてもらいながら聞いて下さいね。
 
みなさん、地図の準備はできましたか?
 さて、北海道の形って何かに似ていると思いませんか?
 なんとなく少し太ったお魚にも似ているんじゃないですか?
 もう少し見ていると、きれいな熱帯魚にも見えてきましたよ。
 それでは、北海道がどうしてお魚の形に生まれたかという、お話しをしましょう。

 むかしむかしの北海道は、今のような形ではなくて、とても格好悪い形をしていました。
 そして山がいっぱいあって、どの山にもみんな神様が住んでいました。
 大雪山(だいせつざん)という山には一番偉い女神様、羊蹄山(ようていざん)には一番
きれいな女神様、また駒ヶ岳(こまがたけ)には一番力持ちの男の神様、
阿寒(あかん)にはとても仲の良い兄弟の神様たち、
そしてニセコと樽前山(たるまえさん)にはいたずら好きの神様と、
それぞれ背格好も性格も全然違う神様たちが、
仲良く助け合いながら、大昔の北海道を治めていたのです。
 
山の周りには村がいくつもあって、人々は山の神様に守られて、平和に暮らしていました。
だけど、村には掟があって、毎年若い青年ひとりと娘ひとりが
神様の中でも一番偉い大雪山の神様にお礼をするために、ささげられました。
 これまでにひとりとして、帰ってきた者はいませんから、家族や村の人たちは、
とても悲しい思いでふたりとお別れをしました。
 
青年の名前は「コウ」娘の名前は「ハル」といいます。
 ふたりは歩きながらいろんな事を考えました。
神様に会ったらすぐに食べられてしまうかもしれない・・・、
いや優しい神様だからきっとそんな事をする訳はない・・・怖さと寒さで体が震えます。
 やがて、どこまでも続くまっすぐな道の向こうに、ふたりの姿は見えなくなりました。


 私たちが住んでいる日本の一番北にある北海道、
むかしむかしの北海道には沢山の神様がいて、その神様たちに守られて人々は暮らしていました。
 だけど、そのお礼に毎年若い青年と娘を神様に捧げなければなりませんでした。
また今年も、村から選ばれた二人の若者が、
一番偉い大雪山の神様の元へ捧げられました。
 
コウとハルは励まし合いながら、やっと大雪山のてっぺんまでたどり着きました。
そこにはふたりと同じ位の背格好の若者が何組もいます、
どうやら他の村から神様に捧げられるためにやって来た若者のようです。
 
みんな口々に「死ぬまで働かされるらしいよ」とか
「私たちを三日三晩釜茹でにして神様が食べるんですって」と、恐い事ばかり話します。
 だけど引き返す訳にはいきません。
村の人たちがこれからも平和に暮らせるように、コウとハルは来たのですから。
 
やがてあたり一面、目も眩むほどの眩しい光に包まれました、
そしてしばらくすると、「みなさんよくいらっしゃいました、さぁ目を開けて下さい」
見るととても優しそうな女神様が微笑んでいます、ハルのお母さんにもどこか似ている顔立ちです。
 「さぁ、ゆっくり暖まって下さいね」と、谷あいの温泉に案内してくれました。
 「きっとこのまま釜茹でにされてしまうんだ」と、泣きじゃくってる声も聞こえます。
コウとハルはあの優しそうな女神様が、自分たちを食べてしまうなんて、とても信じられません。
 
すっかり暖まった頃、岩の向こうから女神様の声がしました。
「さぁ皆さんおなかもすいているでしょう。」今度はほら穴の中へと案内されて行きました。
奥の部屋には美味しそうな料理が並んでいます。
 
女神様はみんなに向かって言いました
「昔、この山を鬼が支配していた頃は、村から来た若者たちを食べてしまっていたんです。
でも今は私たち神が治めています。皆さんには元の村へ帰ってもらっても良いのですが、
きっと村の人に叱られるでしょう、
ですから皆さんの村よりもっと豊かで新しい町を用意しました。
これからはそこで仲良くお暮らしなさい」
 そう言ったかと思うと、女神様はスッと消えてしまいました。
 
若者たちは、女神様に言われたとおり、新しい町に住みました、
そこには前の年やその前の年に山へ行った若者も暮らしていました。
やがて若者たちに子供が生まれ、町はどんどん大きくなりました。
それが今の札幌や旭川になったのです。



 
 さて今日は、北海道がどうしてお魚の形に生まれたかという、お話しをしましょう。 
 私たちが住んでいる日本の一番北にある北海道、
むかしむかしの北海道には沢山の神様がいて、
その神様たちに守られて人々は暮らしていました。
 
ある年の3月の中頃、ちょうど今位の時期、
北海道をを治めている神様たちが集まりました。
 雲の神様が「空から見ると、北海道の形って格好悪いぞ」って笑うので、
何とかしようという相談をするためです。
 
「月の形がいいんじゃないか」「いやでも月は毎日形を変えるけど、どの月にするんだい?」
「私は満月がいいな」「いや私は半月」「三日月がいいんではないですか」
 ・・・・なかなかまとまりません。
そこへ、海の神様がやってきました。
 「遅れて申し訳ない、これはおみやげだ、みんなで食べてくれ」
 海の神様が差し出したのは、とれたての立派な鯛です。
北海道を治めていたのは、みんな山の神様たちですので、鯛を見たことも食べた事もありません。
 ですから鯛の赤くて美しい姿にうっとりと見とれていました。
そして、食べてみてその美味しさにまたまたびっくりです。
 
神様は口を揃えて言いました。
 「北海道は魚の形にしよう、おいしい魚の形にすれば、
他の国から人々がやってきて、もっと豊かで賑やかになるだろう」


 北海道を治める山の神様たちは、なんとか北海道の形を格好良くしようと、
相談をして、海の神様がお土産に持ってきた魚の形にしようと決まりました。
 
さっそく大はりきりで仕事を始めました。
 ある山の神様は大きな噴火を起こして、邪魔な所を吹き飛ばします。
 ある山の神様は溶岩を流して、地面の形を整えました。
 またある山の神様は、風の神様に頼んで火山灰を遠くまで飛ばしてもらったり、
海の神様に頼んで波で余分な土地を削ってもらったりと、
それぞれにいろいろと工夫をして魚の形を作っていきました。

 ただ、うまく魚の形になっているかどうかは、空の上から見ないとわかりません。
 そこで、だいたい出来上った所で一度雲の神様に見てもらう事にしました。
 山の神様がみんな集まって待っていると、ゆっくりと雲の神様がやって来ました。
 「雲の神様、そこから見ると魚の形に見えますか?」
 「いやぁ、随分格好良くなりましたねぇ、でもこれが魚の形かい?
なんだか違うような気もするけどなぁ。
じゃぁちょっと待っててくださいよ、お〜い太陽の神様、
そこから見ると魚の形にみえるかい?」
 「そうだなぁ、魚と言うよりも、私の仲間の星に見えるけどなぁ」
 「あぁ、わかったわかった、しっぽがないからおかしいんだよ」
 山の神様たちは額を寄せて相談しました、
そして左の下にしっぽを付ける事に決めました。


  北海道を治める山の神様たちは、北海道を魚の形にしようと思いましたが、
うっかりしっぽを作るのを忘れてしまいました。
 そこでしっぽを作るのは力持ちの駒ヶ岳の神様が買って出ました。
駒ヶ岳の神様は太い綱をブーンと飛ばして、隣の津軽の国の山にかけると、
力いっぱい引っ張りました。
 すると津軽の国は半分ちぎれて、どんどん引き寄せられ、
とうとう北海道にくっついてしっぽが出来上がりました。
 
空の上から雲の神様の声がします「今度はなかなかいいんじゃない、
だけど山を削って余った土があっちこっちにあってみっともないなぁ」
 そこで、いくつか島を作る事にしました。国後島(くなしりとう)や
択捉島(えとろふとう)、利尻島(りしりとう)などはこうして出来たのです。

 さぁもう一度北海道の地図を見てみましょう。
知床と根室半島が口、宗谷岬は背びれ、はらびれはえりも岬、
尾びれは下に曲がっていて、まるで魚が跳ねた時のように見えますね。
 今では雲の神様に「変な形」なんて笑われる事もなく、
山の神様たちはゆっくりと眠っています。
 
 

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