三代目編
親友の変わり果てた姿に、ガッシュは悲痛な声音でその名を呼んだ。
自分は、一面真っ白なこの光景を、触れると冷たく解けてしまうものを、親友にも味合わせてあげたかっただけだと言うのに。
強く抱き締めてやりたかったが、そんなことをしては益々重症になることは目に見えている。
「大丈夫なのだ、バルカン!清麿ならきっと助けてくれるのだ!!」
今は嘆いている暇などない。バルカンの製作者である清麿なら、きっとバルカンを治してくれるはずだ。
ガッシュはバルカンに労わりの言葉を掛けると、その身体を慎重に両手で包んだ。
家にいるはずの清麿の元へ、一刻も早く連れて行かなければならない。
まだ布団を被って寝ている最中の清麿を叩き起こし、重症のバルカンを掲げると、清麿は渋々ながらもベッドから出てくれた。
寝惚け眼ながらもガッシュなどより余程頼りになる視線で、バルカンの全身を眺め見る。
「…何やった」
「ウヌウ。バルカンにも、雪遊びをさせてあげたのだ」
「それだな」
清麿の手の内にある、全身がくたくたに緩んでしまったバルカンを、ガッシュは涙の溜まった瞳で見詰める。
自分の失態でバルカンを危険な状態に追い遣ってしまったのだろうか。
守り切ることのできなかった一代目、二代目のバルカン300。
三代目を手にしたとき、今度こそは何があっても守り抜くと誓った自分自身で、バルカンを傷付けるなんて。
清麿は宥めるように、ガッシュの頭に手を載せた。
「大丈夫だ。時間は掛かるが、直る」
清麿の言葉に、ガッシュは伏せていた顔を勢いよく持ち上げる。その言葉に偽りがないことを確かめたくて、声を張り上げた。
「本当か?!バルカンは治るのだな!」
「ああ。でも、暫くはそっとしておかないとダメだ」
歓喜に満ちた瞳で、ガッシュは思わず清麿の手にあるバルカンに手を伸ばしかけていた。それを、清麿がやんわりと押し止める。
ガッシュは慌てて手を引っ込め、代わりに清麿に質問を投げ掛けた。
「どうすればいいのだ?」
「暖かいところに暫く置いとけばいい。――ただ、ガッシュ」
清麿が口調を改める。
空気が、ぴんと糸を張り詰めたような緊張感を纏うのを肌で感じ、ガッシュは背筋を伸ばした。
「バルカンは水に弱い。雪は水でできているんだから、あんまり雪の中に連れて行くな」
「ウヌ…」
「バルカンが大事ならな」
「大事に決まっている!バルカンは、清麿の次に大切な親友なのだ!」
ガッシュの宣言に、清麿は一瞬目を瞠った後、微苦笑を浮かべ、そうかとだけ答えた。
「では、早速暖かいところに連れてやらねばの。どこがよいかの」
「暖房の前でいいだろ。ただし、あんまり近付け過ぎると燃えるから、気を付けろよ」
「わかったのだ」
階下にある暖房の前に連れて行くため、清麿の手からバルカンを受け取ろうとすると、逆にその手を掴まれた。
清麿は、水を吸って普段よりボリュームをなくしたガッシュの髪を一房、指で摘む。水分を絞るように、毛先まで指を滑らせる。
「お前も、濡れ過ぎ」
「ウヌ。私は平気なのだ」
「風邪でも引かれたらどうすんだ」
清麿はガッシュの脇の下から腕を回し、ガッシュをひょいと抱え上げた。反対の手には、崩さないように慎重にバルカンを載せている。
「風呂沸かしてやるから入れ」
「ウヌウ。朝からか?」
「バルカンも大人しく治療受けるんだから、お前も大人しくやっとけ」
「わかったのだ」
清麿が大切にバルカンを運んでくれるものだから、ガッシュは素直に従った。
バルカンは時間が掛かるけど、清麿が治してくれるから。
自分も、清麿が治してくれるのだろう。
END
あとがき
髪の雫を取るシーンって好きです。
でも、本当は攻めが受けにするのが好きなんですが。
まあ、でもガ清では、ガッシュが清麿に施す図がちょっと想像できないんですよね。
髪の毛を引っこ抜いてしまいそうで。