想い/オモイ?







 清麿は赤い本を手に取り、持ち上げてみた。
「お、…もい……」
 幼児の小さな手で掴むのは難しく、両腕で抱き込むように抱えあげたのだが、すぐに限界が来てどさっと手から落と
してしまう。
 重い、のだ。ハードカバーで大型で、おまけにこんなに厚いのでは重いに決まっている。読めるページは僅かなのだ
から、もっと薄くてもよいのではなかろうか。何なら、ルーズリーフ型(ルーズリーフのように、増えたぶんをファイルに
綴じていく形式)でも。…少し間抜けであることは否めないが。
 などと、ちょっぴり思考を現実逃避という庭で遊ばせてやっていたのだが、それを捕まえ通常の位置に戻す。改めて
、どうしようかと頭を捻った。
「ウヌ。私に任せるのだ、清麿!」
 ガッシュが妙にゴキゲンな声を上げ、どんと己の胸を叩いて見せた。
「お前が持つか?」
「もちろんだ」
 こう重くては持ち歩くことも叶わないが、家に放置していい物ではない。こうなったら、戦闘の際は何とか策を練るとし
て、普段は力持ちのガッシュに持っていて貰うしかないだろう。清麿はそう結論付けた。
「じゃあ、頼む」
「ウヌv」
 やはり気持ちが悪いほどゴキゲンで返事を返し、ガッシュは手を伸ばす。その手が当然赤い本の下へと向かうと疑っ
ていなかった清麿は、予想外の手の動きに目を瞠った。
「うわっ!」
 途端に感じた浮遊感に、不安定な体勢を立て直そうと、反射的に手が支えを求める。目の前の首に腕を絡めて、何と
か安定感を手に入れる。
 漸く落ち着き安堵の息を吐いてから、はたと我が身を省みた。
 ガッシュは清麿の背中と膝裏に腕を回し、軽々と持ち上げている。俗に言う、お姫さま抱っこである。
「………………おい、待て」
「ウヌウ。安心するがよいぞ、清麿!私がちゃんと、エス、エス、エスカ、……カート…?」
「エスコートか?」
「ウヌ!そのエスをするのだ!」
 結局言えてない。その上、この状況でエスコートは少々意味がずれているのではないか。正しい日本語の用法を。
 どっと疲れが出て、とりあえず床に下ろすよう言おうと口を開いた清麿の腹の上に、何か質量のある物が落とされた。
一瞬息が詰まり、発声が阻まれる。
「ぐはっ」
「本も、清麿も、私が責任を持って運ぶからの」
 質量のある落下物は赤い本だった。確かにこれなら、ガッシュは清麿ごと赤い本も運ぶことになる。だが、
「本だけでいいんだ、本だけで!」
「ウヌウ、遠慮するでない」
 全くしていない。大体、清麿の小さな身体では運べないからガッシュに任せたというのに、清麿の腹に乗せていては
結局重たいではないか(本末転倒)。
 抗議を無視して、ガッシュは清麿を抱えたまま駆け出した。清麿は赤い本を落さないよう、両腕で抱えなおす。
「では、公園に遊びに行こうぞ!」
「誰が行くかっ!」
「行くのだ!!」
 どれだけ口で拒否しようが、お姫さま抱っこをされ両腕が塞がっていては抵抗のしようがない。ガッシュの為すがまま
、階段を経て玄関へと連行されてしまう。
「行ってきますなのだ!」
 そう一言叫ぶと、ガッシュは玄関を飛び出した。





 えんど





 幼児清麿モエ。


イロモノ部屋