いちばんすき



※注意
このお話は未来の魔界でのお話です。
ガッシュが王様、清麿が教育係(実質雑用係)、
ゼオンが雑用係の雑用係、です。







 チッと遠慮も何もなく舌打ちをする。肘を付き、状態を斜めに傾けている姿勢からして、既に人の話を聞くものではない。その顔に浮かぶのは、苛立ちを隠そうともしない表情。
 清麿は嘆息し、継ごうとしていた言葉を呑み込んだ。
「聞く気、ゼロだな」
「…下らねえんだよ」
 普段以上に低く抑えた声で、ゼオンは吐き捨てる。清麿はその様子にもう一度息を吐くと、仕上げた書類を捲くって次のものへペンを乗せた。
「言っておくけど、ガッシュの話を出したのはお前が先なんだからな」
 いつものように山と溜まった書類を片付けるべく執務室篭りを続ける中、清麿の言葉に口数少なく答えていたゼオンが、「アレはどうだったんだ?」と口にした。ゼオンの言うアレ、とはこの世界の王を指す。王の名を直接呼ぶことをゼオンは嫌っていた。
 話を振られた清麿は、頭の中で再生される懐かしい思い出を、心に浮かんだ柔らかい感情を乗せて語った。気付いて見れば、ゼオンの至極つまらなそうな面持ちがあったわけである。
 聞く気がないのならば、わざわざ自らガッシュの話題を持ち出したりしなければよいものを。
 そりゃあ、ガッシュのこととなると親バカのように語ってしまうという自覚は、清麿にだってある。それは他者が楽しめるものとは言い難いこともわかっている。
 …………。
 後ろめたいとは言わないが己の非も多少感ぜられ、清麿は正面の様子を伺った。いつも通りの無表情だが、その中に確かな不機嫌の色を見て取れるのは、付き合いの長さを物語っているのだろうか。
 ぱっきり。
 軽い音を立てて、ゼオンの羽ペンの先端が折れた。ゼオンに意識の全てを集中していた清麿は過度に反応し、思わず身を引いてしまう。
 ゼオンは再び舌打ちをすると、使い物にならなくなった羽ペンを放り投げた。
「お前らの甘ったるい関係を見てると、胸焼けがする」
「だったら、」
「だが、」
 清麿が接続詞の次に「ガッシュの話をしなければいいだろ」と続けるのを待たず、ゼオンは言葉を継いだ。苦々しいものを口に含んで、それでもそれを吐き出そうとしない、そんな口調で。
「お前が1番嬉しそうな顔をするのは、アレのことを話すときだろう」
 清麿は目を瞠った。
 ゼオンがガッシュによい感情を抱いていないことは、清麿にもわかっている。彼が常々公言している馬鹿とは生理的に合わないという個人的性格事情も勿論あるのだが、もうひとつ。
 ガッシュとゼオンの間には、清麿と言う存在がいる。
 ゼオンが消しきれないわだかまりは、それに由来する。そのゼオンが、どんな複雑な心境で自らガッシュの話を切り出したのか。
「だって、ガッシュは別だから」
「…………」
「そういうのとは違う。全く別の…。次元が違う」
 美味く言い表すことができない。魔物とパートナー、一対一、その関係を。幾千、幾万通りの組み合わせがあっても、一通りしか成立しない。運命以上に運命的な繋がりを持つガッシュとは、どんな存在とも比べることはできない。
「ほら、お前とデュフォーだって」
「俺とあいつがお前らのように馴れ合うと思うか?」
「いや、それはないだろうな」
 思わず想像しかけたゼオンとデュフォーの仲良し風景にしっかりデリートをかける。
 ゼオンは腹立たしげに新たなペンと書類の束を引き寄せた。乱暴に扱われたそれらが、近くに置いてあったインク瓶を弾く。蓋は閉じてあったため中身が飛び散ることはなかったが、勢いをつけたそれはテーブルの上を滑り、床へ落下した。
 ころころと床を転がっていくインク瓶の行方を目で追い掛けながら、清麿は込み上げる笑いを止めるのに必死だった。
 器用な癖に不器用なゼオンの心持ちを想像すると、おかしくて仕方がない。恐らく不本意であろう言動を取って、それでいて子どものように拗ねて見せる。大人なのか子どもなのか。
 カワイイな、と思う。
 インク瓶はゼオンの椅子の脚にぶつかり、移動を止める。清麿は立ち上がり、ゼオンの元へと脚を進めた
 腰を屈め、インク瓶へ手を伸ばす。インク瓶に指先が触れ、二人の距離が最も縮まるとき。下へ向けた清麿の頭が、ゼオンの耳元すぐ横を通り過ぎるその一瞬。
 清麿の呟きがゼオンの耳を掠っていった。
「でも、いちばん好きなのはゼオンだけどな」
 清麿はインク瓶を拾い上げると、そのまま何事もなかったように積に着いた。元の位置に瓶を戻せば、カコンと乾いた音が鳴る。その音を耳に、清麿はゼオンの表情を上目で覗いた。
 いよいよ堪えきれずに、清麿は吹き出してしまった。
 ひどく戸惑ったように視線を彷徨わせながら、口元を引き結んでいる。結ぶということは、緩みかけているのだ、ゼオンの唇は。
 溢れそうになる感情を、自身では制御できずにいる。
 このまま笑い続ければ、きっとゼオンは怒って口を聞いてくれなくなるだろう。黙々と仕事だけを行って。わかっているのに、清麿は笑いを抑えることができなかった。
「お前、何を笑っている」
「いや、ゼオンって…」
「何だ」
「カワイイな〜って」
 大きく見開かれれば、ゼオンの瞳はガッシュのそれにとても近いものになるのだと、清麿は改めて知ることができた。





 えんど






 あとがき
 初ゼオ清です。只今ゼオ清大ブーム(IN管理者)です。いや、本命はガ清ですよ?多分…。
 ゼオ清と言ったら普通は殺伐としたものになるのでしょうが、そこはほら、私ラブ話書きですので。
 シリアスも書いてみたいですね。でも、シリアスと打とうとしてシリアルと打ってしまう私は相当シリアス慣れしない人間であるのでどーも…。


イロモノ部屋