もあ★はっぴぃ







 チャイムの音が響いた。スリッパでパタパタと足音を立てながら、玄関へ出迎えに行く。鍵を開ければ、何やら思い詰めた様子の旦那様が佇んでいた。
「おかえり。どうした、ガッシュ」
「ウヌ。今日、会社で教えて貰ったのだが…」
 ガッシュは脱いだ靴を律儀に揃えてから、その場で正座をする。玄関の、玄関マットの上で。行儀がいいのか、悪いのか、微妙なところだ。
「同僚の者が言っておった。私達は、まだ本当の夫婦ではないらしいのだ」
「はあ?」
「まだすべきことを済ませておらぬ者同士は、真の夫婦ではないのだ」
 額に汗さえ浮かべながら、何を言うのか。
 確かに式は挙げていないが、婚姻届をきっちり役所に届けてある。大体、今時真の夫婦であるとかないとか、どこの誰が言い出したのだ。
「ヨソはヨソ、うちはうちなんだからほっておけよ、そんなの」
「ウヌウ。しかし、同僚で結婚をしている者は皆、『しんこんしょや』というものを済ませているらしいぞ」
 清麿は思わずぴかぴかに磨かれた廊下に足を滑らせかけた。
「『しんこんしょや』では、ウェディングドレスのままのお嫁さんをお姫さま抱っこでベッドに運ぶのが憧れらしのだ。さすがに借り物の衣装でそれはまずいが、できたら萌えるよなーと言っておった」
 ガッシュは、しかし、ウェディングドレスでは寝にくいのではないか、と小首を傾げる。
 清麿は実に穏やか…いや、静かな声でガッシュの名を呼んだ。その中に空恐ろしいもの感じ、恐る恐る顔を上げれば、以外にも柔和な表情を浮かべていた。
 清麿はついキッチンから持って来てしまっていたお玉をガッシュに向ける。勢いよく突きつけられたそれに、ガッシュは剣の切っ先でも向けられたような心地になった。
「それを言った奴を、こんどうちに連れて来い」
「…ウヌ…わ、わかったのだ……」
 怯えるガッシュに背を向けて、清麿は肌身離さず持っている赤い本を両腕に包んだ。子どもに余計なことを教える馬鹿を、熱いザケルで歓迎してやる。
 赤い本が異様に強い光を持つのを、ガッシュは目撃してしまった。







あとがき
 お玉持つ清麿が書きたかった(それだけ)。
 ガッシュの職業は王様です。毎日人間界から魔界にお仕事に出てます。でも同僚って誰だろう(笑)。
 お玉持つ清麿は可愛いと思う(しつこい)。


イロモノ部屋