−Silvester−













12月31日。
『Glanz』に集まった一同は壁にかけられた時計を息をつめて見守っていた。
「3・2・1」
オーナーであるガッシュの声が響く。
「0!」
長い秒針が12を指した途端
「Happy new year!!」
パンッ、パパンッ!
クラッカーの音と同時に細く縮れたさまざまな色の紙が辺りを飛びかう。


事の始まりは28日だった。
もう閉店時間も間際になり、
その日の最後の客が帰ったのを見届けたガッシュがおもむろに口を開いた。
「皆、大晦日の予定はどうなっておるのかの?」
「予定?」
何を突然
その場にいた従業員全員の思いを代表して清麿が眉を寄せ首を傾げる。
「ウヌ」
ガッシュは一つ頷く。
「もし空いてるようなら皆で集まって新年を祝いたいと思ったのだ」
「集まるって、…どこになんだ?」
ウォンレイの問いにガッシュは下をゆびさす。
「ここに、か…?」
清麿はガッシュの言わんとするところを察する。
「駄目かの?」
「私は平気だが?」
「僕も多分…大丈夫だと思う」
ウォンレイとアリシエは快諾を示す。
「集まるのは夜なんだろ?…だったら俺も平気だな。…レイラも平気だろ?」
「ええ」
アルベールにレイラもガッシュの案に頷く。
「ウルルは?」
「良いんじゃないか」
厨房から出てきたウルルも賛成の意をしめす。
ブラゴは何も言わないが反対しないところを見ると
ガッシュの案に賛成なのだろう。
残るは……
「清麿、……駄目かの?」
全員の目が、チーフバーテンダーに集まる。
「俺が決めることじゃないだろ?」
良いんじゃないか、別に。
そして、満場一致で大晦日
『Glanz』に集まり新年パーティをやるはこびとなったのだ。
「そうだ。一応知らせとくか…」
ある二人の人物が清麿の脳裏に浮かびあがり、清麿は携帯を取り出し
暫く逡巡したが、やがて一通ずつメールを出した。


「清麿っ」
ガッシュの音頭で乾杯をして一通り挨拶を互いに言い終わったあと
清麿がカクテルを出すことになり、人数分のグラスを用意していると
ガッシュが声をかけてきた。
「何だ?」
「今年もよろしくなのだ」
「…あぁ、よろしくな」
にっこり笑うガッシュに清麿も笑みを返す。
カタン 扉が開く音がした。
誰だろう、そんなことを思いガッシュがそちらに首をめぐらすと
そこには思いがけない人物がいた。
「ゼオン!?」
予想外の人物に全員が驚く。
だが、ただ一人清麿だけは「おー、来た来た」と暢気に彼に向かい手をふっていた。
「清麿!?」
これは一体!?
信じられないと言わんばかりのガッシュに清麿は
「俺が知らせたんだ。新年パーティやるから来ないかって」
あっけらかんと、そう言った。
「そういうわけだ」
ゼオンはガッシュを見下して笑う。
立っているゼオンと座っているガッシュなので態勢的にそうなったのだとは
思うが、それだけではないとガッシュは本能的に悟った。
(私だって清麿に携帯アドレスを教えてないのに、なぜゼオンのアドレスを清麿は知っておるのだ!?)
キッとゼオンを下からガッシュは睨む。
だがゼオンはそれを軽く受け流し清麿の前に座った。
アルベールは肩肘をついて面白そうに
アリシエとウルル、レイラは興味深げに
ウォンレイははらはらと心配そうに
ブラゴは両手を組んでまったく興味なさげに
ゼオンとガッシュと清麿の三人を見守る。
そしてそんな中、また扉が開いた。
彼は黙ったまま中に入っていくとゼオンの横に立ち、
肩にのせていた花束を清麿に渡した。
流石の清麿もこれには驚く。
「明けましておめでとう」
「あ、あぁ…おめでとう」
これは俺に?
そう視線で問うと彼は頷いた。
「ありがとう」
驚きながらも礼を言うと、彼は何も言わずゼオンの横へ座る。
ゼオンが低い声を出す。
それは自分の隣へ座った彼に向かって、だ。
「何でお前がここいる?…デュフォー」
彼は、ゼオンの会社で社長であるゼオンの秘書を務めているデュフォーだった。
「呼ばれた」
簡潔に、デュフォーは答える。
「清麿にか?」
アルベールが口をはさんだ。
そしてデュフォーはそれに頷く。
ちっと舌打ちするゼオン、清麿がデュフォーのアドレスも知っていたという事実に
驚愕し衝撃を受けるガッシュ。何を考えているのか解らないデュフォー。
そしてその三人に好意以上のものをよせられていて、それに気付かない清麿。
この微妙な四画関係を見て、残りの五名は
また今年も騒がしくなりそうだな…と確信めいたことを思い
お互いに頷きあった。








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 今年もよろしくお願いします。
 ちなみに『Silvester』とはドイツ語で「大晦日」
 『Glanz』はガッシュが経営する店の名前で
 これもドイツ語で「光」という意味があります。



 メール等でいつもお世話になりまくっている琥時さんから、素敵なバーテンダーのお話を貰っちゃいました。
 お店のオーナー→ガッシュ。清麿→チーフバーテンダー。ゼオン→お客さん(会社の社長さん)。デュフォー→ゼオンの秘書。
 という、メールで盛り上がった設定のお話です。
 琥時さん、素晴らしいお年玉をありがとうございました!
 お花を贈るっていう行為をナチュラルにこなしちゃうデュフォーが最高です。
 清麿にメルアドを教えてもらえてないガッシュも最高ですっ。(笑)



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