寒天様は神様です

H.16.08.24

 皆さんお元気でお過ごしでしょうか。夏早々から次々と台風が日本列島を襲い、過去にない暑い日が続いた今年の夏。これも地球温暖化の影響でしょうか。それでも、「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」と藤原敏行が歌ったように、いつの間にか秋風の吹く季節になり、朝夕はめっきり過ごしやすくなってきました。いよいよ食欲の秋、スポーツの秋の到来、皆さんもいろいろ楽しい行楽の計画を立てておられるのではないかと思います。
5月に父が入院したことは前回お話しましたが、入院が長引き、父が手のかかる患者であり看護師達が手を焼いていたことと、父の退院後のケアーについて指導を受けたり実習したりするための病院通いに時間を取られ「近況報告」も長いブランクが出来てしまいました。 そのような状況の中ではありますが、私どもも身体の修理保守に努めながら何とか老人家庭を維持しています。
父は、3ヶ月を超える入院生活を終え8月中旬にやっと退院することが出来ました。しかし、今回の入院は、過去の入院と違い、私たち生活を大きく変えざるを得ない事態になってしまいました。過去数年、誤嚥が原因の肺炎で入退院を繰り返してきた父は、誤嚥がひどくなり遂に口からの飲食が不可能になってしまいました。

胃瘻カテーテルボタン型
栄養補給の方法としてはいろいろな方法があり、最初に点滴による血管からの栄養補給が行われました。口から飲食をしなくなったことで誤嚥による肺炎は無くなり、父の体調は次第に回復し退院も可能な状態になってきました。しかし、点滴を家庭で行うことは不可能で、退院し家に帰ることを前提とした栄養補給方としては不適切な方法でした。そこで、次に経管栄養に切り替えることになりました。経管栄養は、鼻の穴を経由して胃に管を通し栄養剤を直接胃に流し込む方法です。しかし、この方法は、簡単に管を抜くことが出来、眠っている時に無意識で抜いてしまうことも度々。抜けばまた通せばいいわけですが、病院では、管を通す度に正確に胃の所定の位置に挿入されているかどうかレントゲン写真で確認していました。間違えて肺に挿入してしまう場合があるからだそうです。肺に栄養剤を流し込んだらそれこそ大変。また、この方法は、常時管を通したままですから、鼻から喉にかけて大変な不快感を伴い、今後のずっとこうした状態を続けることは実際問題として無理がありました。

胃に取り付けた状態」
最後の方法は、PEG(内視鏡的胃瘻造成術)で、胃に胃瘻と呼ばれる瘻孔を作り、そこからカテーテル(管)で胃に直接栄養剤を流し込む方法でした。写真でお分かりになると思いますが、胃からお腹の外側に穴を開け管を作ってしまうわけです。丁度ピアスの穴を開けるのと同じで、胃カメラで見ながら胃の内側からプチッと体外に穴を開け管を通して固定するだけの簡単な手術です。以後は、この管にイルリガートル(点滴の時に使う液体をホタポタと落とす器具)やシリンジ(注射器の様な注入器)を使って栄養剤を直接胃に補給すればいいわけです。
これで、一件落着。父の希望通り家での介護が出来ると思ったのはあまい考えでした。胃瘻から栄養剤を入れる作業は大変な覚悟を必要とするものでした。父が一日に必要とするカロリーは、800kカロリーで、1パック200kカロリーの栄養剤を100ccの水で薄め一回1パック一日4回イルリガートルで点滴と同じように胃に落とし込むわけですが、1パックを落とすのに3時間以上かけて欲しいとのこと。こうなると、一日12時間以上を栄養補給に費やさなければならないことになります。時間も時間ですが、血管への点滴と違って、栄養補給のカテーテルは簡単に抜けてしまう仕組み。ちょっと寝返りをしたり、不用意に動かした手が引っかかったりしただけで抜けてしまうことが度々、時には自分で抜いてしまうこともありますし常に注意している必要がありました。後で聞いた話では、我が家の裏の奥さんは、父親の胃瘻からの栄養補給に一日16時間を費やされたとのことでした。病院にいる間はまだしも、家に帰ってからもこんなことでは、一人付きっ切りで何もできません。
胃瘻からの栄養補給にはもう一つ困った問題がありました。高カロリーの栄養剤を直接胃に流し込むため入れた栄養剤が胃腸を素通りして出てきたのではないかと思えるほどひどい下痢便になってしまうことでした。

こんな感じ
排便があるとおむつの隙間から流れ出し衣類は勿論寝具まで汚してしまうありさま。自分の家で起きることであれば対応の方法はあるものの通院など外出の折にこうした事態が発生すればどうすればいいのだろうか。こうした状態は、一時的なものではなくずっと続くわけですから私にとっては大変な問題でした。病棟主治医もいろいろ工夫してくれたようですが下痢が治まる気配はなく退院の日が近づいてきました。
何かいい方策はないものか。インターネットで関係のあるサイトを片っ端から読み漁りました。そして、遂に発見しました。下痢を防ぐのみならず、栄養剤の補給時間を大幅に短縮できる夢のような話です。この方法は、固形化栄養と呼ばれ液体栄養剤を寒天で固形化して注入するという方法で、考え出されてから間も無く普及途上の栄養補給方法でした。固形化栄養に適切な寒天を介護用寒天として開発したメーカー伊那食品工業の名古屋支店が偶然小牧市内に有ったこともあり同支店を訪問し製品や研究結果についての話をいろいろうかがい益々自信を深めました。病院側の協力で早速固形化栄養への切り替えが行われました。成果は上々、水のような下痢便は固形化し、1パック3時間以上かけて落とし込んでいた栄養剤は、プラスチックシリンジ(注射器様の注入器)を使ってわずか10分足らずの時間で注入を終えることが出来るようになりました。
正に、私にとっては「寒天様は、神様です。」の心境でした。お盆前に父は退院して来ましたが現在のところ一日4回の栄養補給に限って言えば然程の負担を感じることなく処理することが出来ています。しかし、身の回りの世話一式が私たち夫婦の背中に圧し掛かっていますので終日父の介護のために過ごしているような感じがします。もし、寒天様のお助けが無かったらいったいどうなっていたのか考えるだけでもぞっとします。
父も弱ってきました。今回の入院が長かったこともありついに歩くことが出来なくなってしまいました。また、口を全く使わなくなったからなのか声が出なくなり、あれだけ能弁だった父が全く無口になってしまいました。人生の黄昏に向かって歩み続けている父をできるだけ身近に置いてできるだけの面倒は見てやりたいと思っています。
まだまだ昼間は暑い日が続いています。皆さんもお身体には十分気をつけお過ごし下さい。

それでは、また!!!

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