第5話  薪ストーブ



 高原の冬は早い。標高1,100メートルにある私の別荘では、10月の初め頃から早くもストーブを焚き始めました。
めらめらと絶えず姿を変えながら燃え続ける神秘的な炎。じっと見ていると心が炎の中へ溶け込んでゆくような心地よい安らぎを覚え何時まで見ていても飽きることがありません。

炎の神秘的な魅力。いつまで見ていても見飽きることが無い。

 最近、冷暖房や燃料は、殆んどが電気や石油ガスに変わってしまい、住宅地では、公害だダイオキシンだと火を焚くことは落ち葉焚きさえ許されなくなってしまいました。それでも、人の炎に対する憧れの心は変わること無く、別荘地の多くの家に暖炉やストーブが作られ、庭に沢山の薪が積まれているのをあちこちで見かけます。
 我が家にもオランダ製のEFEL Harmony3 がリビングの正面にでんと据え付けられこのストーブが家全体を温める仕組みになっています。本格的な暖房設備としての薪ストーブを使うのは初めての経験で、何冊もストーブや薪に関する本を読んだり、関連ウエブサイトに目を通したり夢中になって勉強しました。
 薪ストーブと言っても、結構複雑な構造になっていて、ずぶの素人である私にはとてもメンテナンスなど無理と判断、先ずは、昨冬使ったままになっていたストーブの煙突掃除と整備を専門業者にお願いしました。

リビングの正面に置かれたオランダ製の薪ストーブEFEL Harmony3

 真っ先に煙突掃除のことが頭に浮かび、ストーブの調製と煙突の掃除をお願いしたのには大きな訳があります。私が子どもの頃、燃料の主力は、薪や藁で、かまどや風呂は、みな薪や藁を焚いていました。我が家では、風呂(底が釜になった五右衛門風呂でした)を沸かすのは私の担当で夕方になると風呂桶に水を入れ藁を燃やして風呂を沸かしていました。ご承知のように、薪と違って藁は直ぐ燃えてしまうので絶えず補充する必要があり風呂が沸くまで焚口から離れることができません。夏などは大変忍耐の要る仕事でした。ついつい、早く任務が終了するようにと大量の藁を押し込んでしまうこともありました。
 そんなある日、私は恐ろしい経験をしてしまいました。
 「何をしたの。」
と、母が血相を変えてすっ飛んできました。
煙突がごーごーと凄いうなり声を上げ回りが明るくなるほど真っ赤に焼けていました。煙突火災です。よく火事にならなかったものだと今でも思い出すとぞっとします。木だけでできたこの別荘、火がついたらひとたまりも無いでしょう。読んだ本やウエブサイトでもやはり煙突火災の危険については触れてありました。

雪が積もっても取りに行きやすいよう玄関の前に薪小屋を作った。

 次は、薪の調達です。流石寒冷の地、薪はどこででも売っていました。ホームセンターはいうに及ばず近くのスーパーでも売っていました。薪を1本や2本買ってどうするのかと思いますが1本幾らという値段がついた薪も積んでありました。普通は束単位で買うようで殆んどが束にして売っています。この束も規格があって、1束は、22センチの針金の輪に薪をぎっしり詰めたもので1束に8本から9本の薪が入っていました。また木によっても値段が違い、ナラが一番薪に適しているとのことで値段も高くなっています。1束500円前後というのが一般的な価格のようです。
 10月に入り、実際に薪を使うようになって分かったことですが、一日中暖房を切らすことが出来ないため思っていたより沢山の薪が必要だということです。もっとも冬の間の滞在日数にもよりますが、1束幾らの薪を使っていたのでは暖房費が嵩み過ぎます。なんとか経済的に薪を手に入れる方法をと思い目下勉強中ですが、森林組合などで原木を買い、自分で薪を作るのが一番のようです。
 隣町の森林組合に問い合わせたところ、運賃は別でナラが1トン1万3千円、その他の広葉樹だと1トン1万円とのことでした。1トンがどの位の薪の量になるのか全く見当もつきませんが先ずは体験と思っています。斧は友人がプレゼントしてくれましたし、エンジンつきのチェーンソーを持っていますので来年は薪作りに挑戦してみようと思っています。
 今年の冬は、前住んでおられた方が準備された残りが結構ありましたので、何とか間に合いそうです。しかし薪が家の壁際に積んであり、壁と薪の間には、蟻の巣があったり、リスがどんぐりの貯蔵場所を作ったり、風通しが悪く湿っていて下の方は腐っていたりしていましたので家と離れた所に薪小屋を作りました。風通しのいい場所で、雪が降っても取りに行きやすい場所をと思い、玄関のポーチの前に作りました。幅2間、奥行3尺、つまり畳2枚を並べた広さで高さ約1.5メートル。薪を2列に積める様にし、大きめに作った積もりですが、いざ薪を使い始めるともっと大きな薪小屋が必要なようです。
 雪国での初めての冬、いろいろ新しい体験が待っているようです。


2006/12/11
Revised 2007/04/11

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