「百聞は一見に如かず」と言う諺がありますが、何事も経験してみないと分からないものですね。薪ストーブを使うことになった頃、未知の世界である薪暖房について私の好奇心は最高潮になっていました。薪ストーブや薪について書いた市販の本は殆ど全て読んでしまったのではないかと思うほど実に沢山の本を読み漁りました。また、インターネット上に流れっている関連情報や話は、これも検索で掛かってきた物は全て読みました。そして、薪の入手方法や薪ストーブのメンテナンス、薪ストーブによる暖房方法など薪ライフについての知識は十分得た積もりで私の薪ストーブライフは始まりました。
薪ストーブの管理で重要な事の一つが煙突掃除です。どの本も煙突掃除は毎年やった方がいい、と言うよりむしろやらなければいけないというような内容が多く、以前にお話したように私自身、子どもの頃、風呂焚きで煙突火災を起こし大変怖い思いをした経験があり、煙突掃除の必要性は十分承知していました。私の場合、冬の間も毎月北軽へ来ますので、10月から翌年の4月一杯までの間に約3トン〜4トンの薪を焚きます。当然煙突には、それなりの量の煤がたまることが予想されます。
最初の冬を終えた頃、私は、まだ張り切っていました。煙突掃除の手ほどきを書いた本を見ながらいろいろ策を練りました。しかし、足を掛ける場所一つ無い滑らかな急角度の屋根、1メートル四方もある大きな煙突の蓋。命綱を付けて屋根に上り、この大きな煙突の蓋を外し・・・と、屋根を見上げながら、イメージトレーニングを何度も繰り返しましたが、なかなか実行に移せません。高齢者と呼ばれる年代の私、当然危険な仕事に対する注意は十二分に必要になってきます。北軽へ来るたびに屋根を見上げてのイメージトレーニングは続きましたが、未だ道具をそろえる段階までは来ていませんでした。そうこうしている間に秋は深まり、再び冬が近づいてきました。
そんなある日、私にとっては、この上も無く嬉しく有難い救いの一言を聞かせてくれた人がありました。北軽のことは熟知しておられるSさんでした。Sさんは、私の別荘を仲介してくださったシバタエステートの社長さんで、北軽で私が最も信頼している人の一人でも有ります。
「煙突掃除は、三年に一度で十分ですよ。」
この一言は、正に神の救いの一言でした。Sさんが言うなら間違いないだろう。今年の煙突掃除は止めっと、あっさり止めることにしてしまいました。Sさんの言葉を信じ、それでも気になりながら、煙突掃除をせずに三度目の冬がが近づいてきました。
サンタクロースも余裕たっぷりで通れる太い煙突
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二階床貫通部分から二重煙突になっている
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一階部分煙突の形状
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二階床貫通部分上の形状
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紙袋の横に穴を開けワイヤーブラシの柄を通し下から掃除
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ブラシを通した穴からこぼれる煤を掃除機で吸い取りながらごしごし
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木の床を付き抜け屋根に抜ける煙突を見ながら、子どもの頃経験した煙突火災の恐怖が何度も脳裏を過ります。やはりやった方がいいのかなあと思いながらもなかなか踏ん切りがつきません。枯葉マークを車に付けている私が、この難儀な仕事を自分やるなんて大変なことだし、もし屋根から落っこちたり怪我でもしたら。まあ、専門業者に任せた方が無難かと、最初の頃の意気込みは何処へやら、私の大脳は、完全に逃げの態勢に入っていました。
佐久へ出かけた折、時々お世話になっている長野総商さんに寄って費用を尋ねて見ました。煙突1メートルにつき5千円とのこと。早速お願いし、煙突掃除の様子も見たかったので、私が滞在している時に来ていただくことにしました。
当日、午前10時頃長野総商の方が二人で来訪、早速掃除が始まりました。先ず、ストーブの上の曲がったところを取り外し、煙突の下から中を覗き汚れ具合を点検、
「あまり汚れていないよ。下からやろうか。」
と二人で掃除の手順を決め
「ちょっと観て御覧なさい。」
と促され私も煙突内の状況を見せてもらいました。煙突の周りが少しざらざらしているだけで私の目には煤が詰まっている様子は全く無し。掃除なんか必要ないのではと思えるほどでした。
クランク状に曲がった部分は取り外して屋外で掃除をし、真っ直ぐの部分は、煤受けの紙袋の横に継ぎ足してゆくブラシの柄を突き通し、ごしごしと上下に擦りながら上のほうへと掃除を進めてゆく。柄を通すために空けた紙袋の穴から煤が漏れないよう一人が電気掃除機を紙袋の穴に当て絶えず吸い取っていました。
実に簡単なもの。ストーブの点検、色の落ちた所はスプレーで塗装し、完了まで約1時間。掃除が終って、煙突の中を見せてもらいましたが、私の目には掃除前とあまり変わったようには見えませんでした。然程、煤は、溜まっていなかったのでしょう。掃除に来られた方は、
「これなら、掃除は、10年に一度でもいいくらいですね。」
と言う私の言葉を打ち消される様子も無く
「よく乾いた薪を使えばそれほど煤は溜まりませんから。煙突を叩いてみて硬い響くような音がすれば大丈夫。煤が溜まってくると重い音がしますから直ぐ分かります。」
と煤のたまり具合を知る方法も教えてくれました。
やはり、何事も実際を見てみないと分からない物ですね。煙突掃除と言うものが少し分かったような気がしています。でも、自分でやってみたらこんなに簡単に出来るかどうかは分かりませんし、状況によってはやり方が変わって来るかも知れません。生兵法は怪我の元、これで分かった積もりになると大間違いかもしれません。でも、これで当分は煙突火災に脅えながら薪ストーブを使うことも無さそうです。