第36話 山荘の四季



 歳をとると兎角季節感が薄らぎ、暑さ寒さにも鈍感になってきます。特に、温暖な地域で一年を通じて空調の効いた環境の中緑に囲まれて過ごしている私にとっては四季の変化に疎くなるのは当然のことかも知れません。しかし、標高1100メートルの高原にある山荘の四季は、季節の変わり目にはっきりとした区切りをつけて見せてくれます。
 3月も半ばを過ぎると夜の冷え込みは未だ厳しいものの日差しも強まりめっきり春めいてきます。庭を横切るせせらぎも雪解け水を集め春の到来を知らせてくれます。それでも、高原の自然は厳しく、庭の木々が芽吹き始め春を実感できるのは5月に入ってからになります。とにかく5月に入るまでは油断できません。私が自動車の冬タイヤを夏用のタイヤに交換するのも4月の終わりころになってからです。
 四季の区切りがはっきりしているとは言え、庭の木々が葉を付けている期間はわずか半年。この半年の間に春夏秋が駆け足で通り過ぎて行く感じ。夏が一番長く、その夏の前後に瞬く間に過ぎてしまう短い春と秋がくっついている感じだ。木々が葉を付け始める頃、先ずシャクナゲの花が咲き、続いてレンゲツツジの花が咲く。私の山荘の庭には、シャクナゲの木が一本ある以外殆んどがレンゲツツジなのでレンゲツツジの花が咲く時期には庭中がレンゲツツジの花で覆われたようで実に美しい。レンゲツツジの花が終わる頃には、もう夏だ。避暑に来る人たちで賑わい、別荘地が一番活気づく数か月が始まります。


木々が芽吹き始め、雪解け水を集めた庭のせせらぎの音が春の到来を告げる。


6月に入ると一斉にレンゲツツジが咲き始める。


夏、陽の光がまぶしい。


高原の秋は短い。あっという間に山々を彩り過ぎ去ってゆく。


冬が始まる。標高1100メートル、高原の冬は長い。


氷点下14度。周りは白一色。


幻想的な炎のショーを繰り広げてくれる山荘の薪ストーブ。

 避暑の人たちで賑わった夏が終わると秋が急ぎ足でやってきて瞬く間に通り過ぎて行ってしまいます。木々は一斉に紅葉し、あっという間に葉を落としてしまう。山荘の庭が一番絵になるカラフルな季節です。ベランダに置いたリクライニングチェアーに腰掛けて、ひらひらと風に舞いながら散る落ち葉を眺めて過ごす時間が私は大好きです。この落葉の季節は、私にとって一年中で一番大変な季節でもあります。夏の間精一杯茂り枝に付けた葉が一斉に散るのですから落ち葉の量も半端ではありません。この落葉を片付ける作業は結構重労働です。落葉焚きなどという風流な言葉がありますが、火災予防のため焚火は一切禁止されているので焼却するわけにもゆきません。もたもたしていると雪の季節が来てしまいます。雪が乗ったらもう落ち葉掃除はできません。折角丹精込めた苔庭が台無しになってしまいます。
 いよいよ一番長い冬がやってきます。私は、冬の山荘も大好きで毎月やって来ます。周りの景色を深々と包んだ雪が全ての音を吸い取ってしまう静寂の中で何も考えずぼんやりと薪ストーブの炎を眺めながら過ごす時間はこの上もない安らぎを与えてくれます。


2011/10/03