イヤミな奴ですが、原作を知る者として一言二言・・・いや、○○言を論います。ネタバレ御免・・・。 まず1999年夏、闇市場に支配され経済破綻状態のロシア情勢と、エリツィンの後を受けた現ロシア大統領の急死に伴う「新・大統領選挙」が冒頭で語られますが。 カリブ海、カーク・タイコス諸島で釣り船業を営む主人公の生活点景と、彼の幼少期から従軍、そしてCIA入局のエピソードが描かれますが。 台頭目覚しい極右政党UPFと、次期大統領は確実と目される指導者イゴール・コマロフが、密かに記した原作での重要なキー・ワードともいえる「黒い宣言集」は?。 門外不出の「黒い宣言集」が、在露英国大使館職員セリア・ストーンに届けられた経緯は?。 UPFの“闇の資金源”ロシア・ドルゴルキイ・マフィアとの関連は?。「黒い宣言集」に記されたコマロフの真の意図とは?。 UPF警護隊長アナトーリィ・グリシンと、彼が率いる「黒の警護隊」の存在は?。 「黒い宣言集」紛失の責を問われ行われたコマロフの秘書、ニキータ・イワノヴィッチ・アコポフ殺人は?。それに続く第二、第三の殺人は?。 CIA工作員だった主人公が、米ソ冷戦時代に徴募した、GT・ライサンダー、オリオン、デルポイ、ペガサスら資産の運用エピソード、その末路は?。 並行して描かれる、CIA工作員で「裏切り者」のオールドリッチ・エイムズが犯した、冷戦時代の愚行エピソードと、主人公との対比は?。 冷戦時代、オマーンで主人公に「偶然」命を救われるチェチェン人KGB大尉、オマール・グナイェフとのエピソードは?。 裏切り者エイムズや、その上司ケン・マルグルーに代表される上層部の官僚指向に苛まれ疲弊する、冷戦時代末期のCIA内部事情エピソードは?。 これも並行して描かれる、国内に潜む米資産を始末するよう命じられたアナトーリィ・グリシンKGB大佐、後のUPF警護隊長と主人公との因縁エピソードは?。 「黒い宣言集」がコマロフの野望を記したものと確認されながら、英米両政府の「何もしない」決定に苦悩するSIS長官ヘンリー・クームズ卿や、現役情報機関関係者たちが選んだ方法は?。 「黒い宣言集」に遭遇する、引退した英スパイマスターのナイジェル・アーヴィン卿と、彼がUPFから感じ取った脅威を「知る人ぞ知る」筋に伝える場となるNGO、リンカーン評議会は? コマロフが「ロシア人の象徴=イコン」たらんとする野望を抱くと看破したナイジェル教は、コマロフ排除だけではロシアの混沌は収まらない・・・と評議会面々に説くくだりは?。 ナイジェル卿の意図に賛同し、コマロフ阻止計画の資金協力を決意する評議会のメンバー、ソール・ネイサンスンは?。 4人の資産を失い、上層部との軋轢に耐えながらも「裏切り者」の存在を知り、その愚行を放置したケン・マルグルーに4発の鉄拳を振るった後、CIAを去った主人公のエピソードは?。 ナイジェル卿とは冷戦時代の盟友であり、そして主人公の上司だった元CIA工作担当副長官ケアリー・ジョーダンから「作戦実行者候補」として、ジェンソン・モンクの存在を示唆されるくだりは?。 以上が原作上巻で書かれ、ドラマのDISC-1で描かれてない、又は変更が加えられた主要場面・登場人物です。1999年時点での出来事と、冷戦終結前のエピソードが目まぐるしく入れ替わる綴られ方が用いられてます。 以下、原作下巻では1999年秋以降の流れに一本化されます。 ナイジェル卿の要請でロシア行きを決断した主人公が、英国古城で受ける「再起プログラム」のくだりは?。 主人公がロシアで最初に接触する、チェチェン・マフィアの親分に変貌したオマール・グナイェフとの再会、そしてロシア国内での隠密活動支援を依頼するくだりは?。 グナイェフの庇護を受け、主人公が次に接触する、全ロシア正教会総主教アレクシー二世。同時に綴られる、教会が過去から現在に至るまでその時代の為政者から受けた迫害の歴史は?。 教会に潜むダブルスパイ、総主教の従者兼執事のマクシム・クリモフスキー司祭と、その行動は?。 主人公の在露を知ったグリシンが採った、排除行動とその顛末は。 ナイジェル卿が放った元SAS隊員シャーランとミッチ、ブライアンによる、UPF機関紙・月刊誌印刷工場設備の破壊工作は?。 主人公の次の接触相手、今も多くの現役軍人の尊敬を集める硬骨漢退役露陸軍大将ニコライ・ニコラーイェフとの面会と、彼が後に執ったコマロフ批判は?。 ナイジェル卿が画策したロシアの王政復古に助言する、英国紋章院のランスロット・プロビン博士は?。 露入りした卿が、アレクシー二世に託した王政復古、教会の復活、コマロフに並び立つ新たな「イコン」の必要性を説くくだりは?。 主人公の次の接触相手、モスコフスキー連邦銀行のユダヤ人頭取レオニード・ベルンシュタインとの面会と、彼が後に影響力を振るう、主要TV局でのUPF広報番組打ち切りは?。 主人公の次の接触相手、モスクワ市警組織犯罪対策本部GUDVの長、ワレンティン・ペトロフスキー民警少将との面会と、後に主人公が示唆した情報に基づくドルゴルキイ・マフィア拠点の一斉検挙は?。 ロシア・ロマノフ王家に繋がる後継者候補を見つけ、ナイジェル卿へ助言するプロビン博士と、ここから編み出される卿の欺瞞工作の布石は?。 再び露入りしたナイジェル卿が、アレクシー二世に2度目の接触をしたことを知るグリシンとの対峙シーンは?。ここでも見られるグナイェフの恩返しは?。 支持率低下に苛まれ、大統領選に危機感を抱きUPF陣営が命じた、黒の警護隊による総主教、退役露陸軍大将、連邦銀行頭取、GUDV本部長への報復処置と顛末は?。 イワン・マルコフ露大統領代行による現政府に防衛活動の対象とされ、先手を打つべくUPF陣営が仕掛けた大晦日のクーデターと、その顛末は?。 黒の警護隊の報復活動で、4人のうちただ一人殺害された、退役露陸軍大将の甥ミーシャ・アンドレーエフ少将と、彼が率いるタマンスカヤ師団戦車隊の活躍は?。 クライマックスで描かれる、主人公とグリシンの対決シーンは?。 一夜の騒動後、秩序を回復してゆく露政情と、王政に向けての展望をアレクシー二世総主教から語られるエピローグは?。 野望の全てと腹心を失い、国外逃亡さえも港湾警察に阻まれたコマロフのエピローグは?。 ナイジェル卿の回想による、一連の欺瞞工作のまとめエピローグは?。 カリブ海の釣り船業に戻った、主人公の短いエピローグは?。 こんな原作ですからドラマのストーリーとは相当異なります。まず女っ気は皆無に等しいので、ロシア連邦保安庁FSB捜査官ソニアやら、モンクの娘なぞ出てきません。 遺伝子操作や、パンデミックネタを捻じ込んだのは今風かもしれませんが、いかにも中途半端。「黒い宣言集」はDISC-2でやっとこさ出てきますが、電子ファイルかね。 かなわぬ恨み言ですが、DVD2枚180分近い映像作品なのですから、整理すれば原作に沿ったツクリも出来たんじゃなかろうかと思います。映画「ジャッカルの日」みたいにね。 原作下巻の中で興味深いくだりは、英国老スパイマスターと、全ロシア正教会総主教の密談でなされる『立憲君主制が独裁政治に対していつも格好の防波堤になってきたという・・・』云々。 ・・・これは、原作者の思考なのか・・・エリザベス英国王を擁く英国人のフォーサイスだからそう考えるのか、歴史的事実なのかは存じ上げませんが、とても興味深い部分ではあります。 余談ですが、明治〜大正〜昭和初期までの「天皇制」は、フォーサイスが述べる「立憲君主制」とは異なる国家体制だったのかどうか。 この歳になって勉強するのは荷が重いテーマではあります。よって、以下・・・・・語尾不鮮明・・・・結論は棚上げします。 英米両政府が関与しない極めて少人数の行動者だけで、超大国の政治体制を左右するっちゅう荒唐無稽なフィクションです。しかし読者にリアリズムを想起させる手腕は、さすがフォーサイスと言わねばなりますまい。 なお、ナイジェル・アービン卿がフォーサイス作品に登場するのは3回目で、スター・システム技法を思わせますが、ど〜かな?。ちなみにイチバン派手な活躍を描いてるのがこれでしょう。 以上、いちフォーサイスファンの戯言でした。