山本喜之さん
この地方の原植生は気候からみて、暖帯林の照葉樹林帯に属し、ヤブツバキ・シイノキ・カシ・クス・アオキ・ヒサカキなどの常緑広葉樹を主な組成種とする植生域と考えれる。しかし、長い歴史の中で森林の伐採が繰り返されるなど人為的影響を受け、山地においてもアカマツ林(アカマツ−モチツツジ群集)・コナラ林(コナラ−クリ群集)植林(スギ・ヒノキ・クロマツ群落)などの代償植生となっている。自然植生に近い常緑広葉樹林は、わずかに社寺林、古い屋敷林や山地の一部に面影を残すに過ぎない。
南川幸氏の調査によると本市における自然植生として次の6群落が確認されている。
保存樹
市では緑豊かな都市づくりが強力に推進され、古木・大木を保存樹に指定し、その保護に努めている。その数は49種、983本である。(参考 指定の基準 高さ1.5mでの幹の周囲1.2m以上。樹高12m以上のもの)
常緑樹 落葉樹
| 常緑樹 | 落葉樹 | ||
|---|---|---|---|
| クロガネモチ | 170 | アベマキ | 79 |
| ツブラジイ | 117 | ムクノキ | 71 |
| クスノキ | 109 | エノキ | 52 |
| シラカシ | 59 | ヤマザクラ | 50 |
| ヒノキ | 54 | イチョウ | 29 |
| クロマツ | 47 | ケヤキ | 11 |
| アラカシ | 31 | トウカエデ | 10 |
| ツクバネガシ | 22 | コナラ | 9 |
以上常緑樹8種、落葉樹8種で920本(93.6パーセント)に達し、残りは33種で63本(6.4パーセント)に過ぎない。
本数は少ないが注目したい植物としては次のものがある。
常緑樹:ヤマモモ・イチイガシ・ウラジロガシ・タラヨウ・カゴノキ・タブノキ
落葉樹:イヌシデ・ボダイジュ
保存樹には植栽されたものも多いが、この地域の自然植生の構成種と考えられる常緑樹のクロガネモチ・ツブラジイ・クスノキ・シシカシ・アラカシ・ツクバネガシで508本(52パーセント)、落葉樹のムクノキ・エノキ・ケヤキが134本(13.6パーセント)を占めている。
以下、保存樹の代表的なものを紹介する。

ムクノキ Aphananthe aspera (ニレ科)
市内でごく普通に見られる落葉高木。
下市場町伊藤英美氏宅のムクノキは市内第1の巨木である。
最近、樹勢が衰えてきたのが惜しまれる。
イチョウ Ginkgo bilaba (イチョウ科)
中国に野生していたといわれる大高木。
現在は日本、韓国、中国に栽培され、野生らしいものは見あたらない。
西尾町のイチョウは保存樹中第2位の巨木で偉容を誇っている。
ツブラジイ Castanopsis cuspidate (ブナ科)
ツブラジイとは丸い実(つぶらな実)のシイの意味か。コジイともいう。神社、仏閣に巨木が多く見られるのは、伐採を免れ保護温存されたことを物語っている。
西尾町の内津川沿いにシイノキ林があり、大小、数10本(うち9本が保存樹)のツブラジイが群生し、ヤブツバキ・サカキ・アラカシなどとともに常緑広葉樹を主体とし、一部にコナラ・アベマキ・アカマツを混じているものの、自然林的な植生を見ることができる。
高木層はツブラジイの優占度が高く、その樹冠がむくむくと盛り上り重なり合うさまは壮観である。こうした林は是非とも保護したいものである。
クロガネモチ Ilex rotunda (
モチノキ科)
雌雄異株、雌株は多くの赤い実をつけ美観を呈する。その上、樹容も整い庭木として賞用されている。屋敷や社寺境内に多くの古木が保護温存されている。保存樹中、本数も最も多い。熊野町小沢氏宅の尾張名所図会に記載されている木と伝えられる名木をはじめ、旧家や寺社に偉容を誇るもの、奇形を呈するものなど多くの古木がある。
カゴノキ Actinodaphe lanciforia (クスノキ科)
本市では保存樹の1本のみが確認されている。暖地に自生する常緑高木、樹皮は灰黒色であるが、点々と薄片となってはげ落ち、あとが白く鹿の子模様を呈する。カノコギともいう。

希少な木本植物
市内に自生する木本植物で希少なものには、モンゴリナラ・ウラジロガシ・イチイガシ・タブノキ・ヒカゲツツジ・ハナイカダ・シデコブシなどがある。このうち特に特異な分布を示し、市内自生植物中、第1級的価値をもつ、シデコブシについて紹介する。
シデコブシ Magnolia stellata (モクレン科)
別名ヒメコブシ。庭木としてよく植栽されている。春、小枝の先に淡紅色で香りのよい美花をつける。以前は中国原産といわれていたが、これは誤りである。この植物は岐阜県東濃地方から、本市をはじめ渥美郡中部にかけての愛知県東部地域と兵庫県の一部のみに自生し、他では見られない。渥美郡渥美町の自生地は昭和45年、国の天然記念物に指定された。
市内では廻間町、西尾町の山間湿地に自生の群落があり、春、山を美花で飾る景観は見事である。市内の自生植物中、最も貴重な存在価値をもつこの植物の自生地は、是非とも保存の方途を考えたいものである。
以上、市指定の保存樹の概要と代表的なもの5種と自生種として注目すべき植物、シデコブシについて紹介した。このほか市内には内々神社社そうをはじめ多くの社寺林があり、この地方の原植生の面影を残しているが、今回はその紹介を割愛した。
春日井市は都市化が急速に進み、自然も失われつつある。私たちは先人の残した林や古木を大切にし、市民の誓い「みんなで緑を育て自然を守ろう」が単にかけ声だけに終ることなく、全市民が自然愛護の心情を深め、その力を結集して緑豊かな都市づくりを進めたいものである。