世界に平和が訪れた後、スタンとルーティは結婚した。ルーティはスタンと二人で孤児院を運営することにした。クレスタの街で自分を育ててくれた孤児院を引き継いだのである。子供達の世話をしながらも平和な毎日を送っていた。しかしルーティはスタンに対して不満があった。かつて共に旅をしていた頃からそうだったが、スタンは寝起きが悪い。毎朝起こすのに苦労する。

ルーティ「スタン…スタン!起きなさい!」
スタン「う~ん…」
ルーティ「も~う!どうしてそんなに寝起きが悪いのよっ!」

バキッ!

スタン「痛っ!何するんだよ!」
ルーティ「いつまでも寝てるあんたが悪いのよ。さ、起きなさい」

ルーティ(まったく…なんとかならないものかしら?)



ルーティがひそかに頭を悩ませていたある日、スタンの妹のリリスが訪ねてきた。

リリス「ルーティお義姉様、お久しぶりです。兄はどうしてますか?」
ルーティ「まだ寝てるわよ。まったくも~!リリス、今まであいつを起こすのに苛立ったりしたことない?いっつも寝坊して、早起きしたためしがないんだから」
リリス「それなら私に任せて下さい!」

リリスは厨房からお玉とフライパンを持ち出すとスタンの部屋に行った。スタンはまだぐーぐー寝ている。そこでリリスはフライパンを思いっきりお玉で叩いた。



死 者 の 目 覚 め ~ っ ! ! ! ! !



スタン「うわっ!」

お玉とフライパンの大音響が家の外まで響き渡り、スタンは目を覚まさずにはいられなかった。

リリス「ルーティお義姉様、これが私の目覚まし奥義『死者の目覚め』です!これを使えば寝起きの悪い兄も一発で起きます!」
ルーティ「これはいいわね」
リリス「私からお義姉様へ伝授しますわ」
スタン「リリス…?遊びにきたのか」
リリス「そうよ。お兄ちゃん、久しぶり!」

リリスはしばらくスタンとルーティの孤児院に滞在した。ルーティとリリスは思いの外仲がよかった。リリスはテキパキとルーティの家事を手伝い、子供達の世話もした。

ルーティ「スタン、そこ掃除して!」
リリス「お兄ちゃん!食べたらお皿を流しにまで持ってきてって言ったでしょ!」
ルーティ「スタン、洗濯物干して!この間みたいに下に落としたら怒るわよ!」
リリス「お兄ちゃん、お魚が無いから買ってきて。前みたいに池の魚を勝手に取ったり、マンボウなんか買ってきたりしちゃダメよ!」
ルーティ「スタン!ちゃんと子供達の世話もしてちょうだい!」

ルーティ「スタン!」
リリス「お兄ちゃん!」

スタンはしばらくの間、ルーティとリリスにこき使われることになった。一つ用事をこなした先からまた次の用事を言い渡される。ルーティの用事が終わったかと思えば次はリリス。二人がいっぺんに用事を言いつけることも珍しくない。ルーティとリリス二人で結託してスタンを暇にはさせないのである。

スタン「まったく二人共…でもあいつらの仲が悪いよりは仲良しの方がいいか」

スタンはポリポリと頭を掻きながらも家事と子供達の世話にいそしむのであった。





やがてリリスは帰っていき、今度は幼馴染みのバッカスが会いに来た。

バッカス「よう、スカタン!」
スタン「何だよバカッス」
バッカス「俺の名前は『バッカス』だ!」
スタン「俺だって『スカタン』じゃなくて『スタン』だよ!」

一通り悪態をついた後、二人は酒場に飲みに行った。久しぶりの再開に乾杯した後、積もる話を始める。

バッカス「よう、新婚さん、うまくやってるかい?」
スタン「ん?ああ」
バッカス「ったくよお、おまえみたいな鈍感なやつがいっちょ前に嫁さん見つけて結婚するなんてよお」
スタン「何だよ」
バッカス「なあ、おまえ達が結婚したいきさつってのはどんなんだったんだ?結婚するからにはそれなりのラブロマンスがあったんだろ?」
スタンー「んー…」

スタンはどう説明したものかと頭を悩ませた。

スタン「ルーティは前から俺のことが好きだったらしいんだ。で、俺もルーティのことが好きだった。世界に平和を取り戻した後、俺達は二人で旅に出た。二人きりの旅はとても楽しかったよ。それで――」
バッカス「それで?」
スタン「気がついたら結婚してたんだ」
バッカス「何だそりゃ!」
スタン「うん、気がついたらこういうことになっててさ~」
バッカス「どういうことだ!肝心のプロポーズの部分を省くんじゃねえ!」
スタン「俺はプロポーズしたつもりはなかったんだけどな。ただルーティとずっと一緒にいたくて、思ったことをそのまま言ったら『あんた、口説いてる?』って言われたんだ。いつの間にかプロポーズしちゃったみたいでさ~」
バッカス「そんなんありか!?それで夫婦仲うまくいくものなのか?」
スタン「それは大丈夫だよ。俺は今でもルーティのことは大好きだよ」
バッカス「ああっ!この天然があ~!」





バッカスと夜遅くまで飲んだ後、スタンは暗い夜道を家に向かって歩いた。まだ酔いは残っている。少々足元がふらつく。そうやって歩いていると、横道から女が現れて声をかけてきた。

「ねえ、お兄さん、今夜一晩あたしと遊ばない?」
スタン「ごめん。俺は結婚してるんだ」
「あら、そんなのどうでもいいじゃない?あたしと遊びましょうよ。浮気なんて誰でもやってるわよ」

女は強引にスタンに言い寄ってくる。スタンは困った顔で拒絶した。すると女は挑発してきた。

「それとも何?奥さんが怖いの?」

スタンは目をぱちくりとさせた。その後にっこりと笑う。

スタン「違うよ。俺は奥さんが――ルーティが大好きだから。誰よりも大好きだから。だから浮気なんてできないんだよ」

スタンは満面の笑みで答えた。暗い夜道でもまるで太陽の光が照らしてるかのような笑顔。その健全な明るさを見て女は引き下がった。

「やだ、のろけられちゃった」





スタンとルーティの孤児院はもう灯りが消え、皆、寝静まっていた。そんな中スタンは部屋へ行くとルーティはまだ起きて待っていた。ルーティはいつもと違う雰囲気でベッドに座っている。

スタン「ルーティ、ただいま」
ルーティ「お帰りなさい」
スタン「どうしたんだ?なんかいつもと雰囲気が違うぞ」
ルーティ「スタン…」

窓からは月の光が差し込む。月明かりに浮かび上がるルーティの顔は誰よりも美しい。いつもは強気で勝気なルーティだが今は穏やかで落ち着いて、大人の女性の雰囲気を醸し出していた。

ルーティ「あのね、スタン。実は…」

ルーティはお腹に手を当てた。

ルーティ「私達の子供ができたみたいなの」
スタン「ええっ!?」

スタンは驚いてしばらく慌てふためいた後、喜んでルーティを抱きしめた。

スタン「そっか~。俺達の子供ができたんだな!」
ルーティ「スタン…」

二人はしばらく抱き合っていた。

スタン「それじゃあこれからは今まで以上に大切な身体だ!ルーティ、無理はするなよ。家事も子供達の世話もぜーんぶ俺がやるからさ!何でも俺がやるから!」
ルーティ「フフッ」
スタン「そうだ、俺達の子の名前決めなきゃ!そうだな…男の子だったら『カイル』だ!」
ルーティ「じゃあ女の子だったら?」
スタン「え?女の子だったら………何にしよう」
ルーティ「赤ちゃんが生まれるまでに二人で考えましょう」
スタン「そうだな。俺達の子だ、二人で大切に育てよう」





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