ファブールでのクリスタル攻防戦の後、ローザはゴルベーザに攫われ、捕らわれの身となった。
何よりショックだったのはカインが裏切ったことである。彼はセシルを殺そうとした挙句、クリスタルを奪った。
見たところ、カインはゴルベーザに仕えているようである。一体どうしてこうなったのか、ローザにはさっぱりわからなかった。大の親友であったセシルを殺そうとするなど正気の沙汰ではない。
ローザはゾットの塔と呼ばれる機械仕掛けの塔の最上階に、機械によって身を拘束されていた。そしてゴルベーザに仕えるカインの様子を眺めていた。
カインは時折こちらを見る。そしてカインがローザを気にかけている時はゴルベーザの命令はうわの空になっているようであった。





ある時、ゴルベーザがいない時にカインがローザの元へやってきた。

カイン「ローザ…」
ローザ「カイン!あなた、一体どうしてしまったの?」
カイン「…う…」
ローザ「ここしばらくあなたの様子を見ていたけれど、あなた、ゴルベーザに何か術をかけられているのね?そうでなければあんなことするはずないわ!あんなに仲が良かったセシルを殺そうとするなんて!」

すると、カインは急に怒鳴り出した。

カイン「やめろっ!セシルの話はするな!!」
ローザ「カイン!?」
カイン「ローザ…君にとってセシルと俺はどう違うのだ?」
ローザ「何を言っているの?セシルは私の恋人。そしてあなたは私の恋人の親友であり、私の幼馴染」
カイン「何故セシルなんだ…」
ローザ「え?」
カイン「何故俺でなくセシルなんだっ!!………う…うああああっ!!!!!」
ローザ「カイン、しっかりして!!」

カインは激しく取り乱した。

カイン「ローザ、君には悪いがセシルは生かしてはおけない。いずれこの俺が倒す!」

そう言うと、カインは去って行った。

ローザ「カイン…何を言っているの…?お願い…やめて…」




その後しばらくして、ゴルベーザはセシルの元にスカルミョーネを差し向けた。

ゴルベーザ「スカルミョーネは四天王の1人、存分に楽しませてくれるはずだ、なあ、ローザよ!」
カイン「奴とはこのカインが!」
ゴルベーザ「この間の様な失態を見せておいて何を言う!おまえはローザの見張りをしておればよい」
カイン「は…」

ゴルベーザが去ると、ローザはカインに話しかけた。

ローザ「カイン!お願い!目を覚まして!」
カイン「セシル…奴さえいなければ……………」
ローザ「カイン!!」
カイン「ローザ………ううっ………!!!」

カインはローザの見張りをしながら苦しんでいた。

ローザ・ファレル。バロンの優秀な白魔道士で、国内で高い人気を誇る美女。カインの所属するハイウィンド家とローザのファレル家は昔から交流があり、幼い頃に両親を亡くしたカインと、同じく幼くして父親を亡くしたローザとは親しみ深い間柄であった。そしていつしか、カインはローザに恋するようになった。何も無ければ両家の親交を深めるという意味でも、カインとローザは将来結婚する仲であったかもしれない。セシルの存在さえなければ。
セシルは孤児でありながらバロン王の保護を受けて、実力で飛空挺団「赤い翼」の隊長に選ばれるほど優秀な暗黒騎士だった。そしてそのセシルにローザは惹かれて、セシルの力になりたい一心で白魔道士の道を選んだ。

カインとセシルは親友同士、お互い非常に気の合う仲であったが、ローザがセシルに対して一途な恋心を抱いていると知って以来、カインの心中は穏やかならぬ状態となった。それ以来、カインはローザへの恋心とセシルとの友情との葛藤に悩まされるようになった。
そこへ付け込んだのがゴルベーザである。セシルさえいなければローザは自分に振り向いてくれるかもしれない、いや、そうに決まっていると、ほぼ完全に洗脳されたカインは思い込んでいた。





そうしているうちにゴルベーザはどんどん世界中のクリスタルを集めて行った。残り1つのクリスタルはカインの提案でセシルに取って来させることになった。

カイン「こちらにはこのローザがいます。クリスタルと引き換えに…ということではいかがでしょう」
ゴルベーザ「なるほど…それはよい。奴を始末するのもその時というわけか…」
ローザ「カイン!」
カイン「セシルなんぞより俺の方が上だということを教えてやろう」





セシルが土のクリスタルを取りに行っている間、カインはまたローザの元へ近づいて行った。

ローザ「カイン!お願いだから目を覚まして!…カイン?」

カインは拘束されて動けない状態のローザに接吻をした。

ローザ「!!何をするの!やめて!」
カイン「ローザ…愛している…」
ローザ「カイン…?」
カイン「セシルはいずれこの俺が倒す!そして君を俺のものにする!」
ローザ「カイン…あなたはゴルベーザに完全に操られてしまっているのね…」
カイン「何を言うんだ。奴さえいなければ俺とローザの間に邪魔する者は誰もいなくなる」
ローザ「カイン…私の言葉がどこまであなたの心に届くかわからないけれど、聞いて頂戴。私が愛しているのはセシルよ。あなたは幼馴染としてとても好きだと思っているわ。だからあなたの気持には応えてあげられないの。ごめんなさい」
カイン「それもセシルがいるからだ!奴さえいなければ…いなくなれば…ッ!!…う…うわああああ!!!!!」
ローザ「カイン…」




ゴルベーザの術が解け、一旦正気に戻ったカインであったが、その直後セシルとローザが熱い口づけを交わすのを見て、嫉妬の感情が再び心の底で燻ぶっているのを感じた。しかしカインは、結局それまでの自分の所業は操られていたということで片づけられ、ローザに対しても「君に側にいて欲しかった」としか想いを告げることができなかった。そしてその後の旅の道中、彼は必死に理性で心の底にわだかまる嫉妬の感情を抑えようとしていた。しかし――闇のクリスタルを入手した時、再びゴルベーザの魔の手が忍び寄り、カインは再び操られてしまった。

その後驚愕の事実が判明する。実はゴルベーザもゼムスという悪しき心の持ち主のテレパシーによって操られていたのだ。ゴルベーザの術が解けると同時にカインもようやく本当に正気に戻るが、その時のカインの心境は心の隙を付け込まれ2度も操られた屈辱でいっぱいであった。
全ての元凶であるゼムスとの決着はセシル、カイン、エッジの3人で行くことにしたが、ローザとリディアも無理やりついてきた。そして、自らの心の中を整理する為にも、カインはある夜、ローザと2人で話がしたいと申し出た。





カイン「ローザ…今回のことは本当にすまなかった…2度も操られたのはひとえに俺の心の弱さにある」
ローザ「ゴルベーザだって心を操られていたのよ。仕方がないわ」
カイン「違うんだ、ローザ。俺は…」

カインは思い切って告白した。

カイン「ローザ、俺は君のことが好きだ。愛している。だから君がセシルと恋人同士になったことは俺にとって苦痛でたまらなかった。セシルとはとてもうまが合うし、本来友人としては何の問題もなかったはずだ。…君がセシルに恋をしなければ」
ローザ「カイン…」
カイン「また、セシルさえいなければ俺と君は恋人同士になれたかもしれない。俺達の家系は昔から交流があった。縁談の話が出てもおかしくなかっただろう。ローザ、君がセシルに恋をしなければ、セシルさえいなければ俺達は………そこをゴルベーザに付け込まれたんだ」
ローザ「………それでセシルを殺そうとしたのね………」

カインは苦悩の表情になった。

カイン「ああ…その通りだ…セシルさえいなくなれば君が振り向いてくれると完全に思い込んでいたんだ…俺は…俺はあっ!!」


ダンッ


カインはテーブルを思いっきり叩きつけた。

ローザ「カイン」

ローザはカインの手の上に自分の手をそっと置いた。

ローザ「私だってあなたの気持ちに全く気づかなかったわけじゃないわ。あなたの様子を見て、なんとなくだけれど、気づいてはいたの。だけれど…私はやっぱりセシルを愛している。この気持ちは永遠に変わらないわ。もし仮にセシルが病気や事故で死んでしまったとしても私は一生未亡人としてセシルを一途に慕いながら過ごすつもり。私には愛する人が死んでしまったからといって新しく他の男を愛することはできないわ。私はそれくらい、本気でセシルを愛しているの。…ごめんなさい…私はあなたをとても苦しめるようなことを言っているわね…」

カイン「いや…構わない。お互いの気持ちをはっきりさせて、きちんと頭の整理をしたくて君と話をしようとしたんだからな」
ローザ「そうね…あなたは本来とても冷静で理性的な人だと思うわ。でも…だからわかって頂戴。愛する人を殺されて、その殺した張本人を愛することなんてできるわけないでしょう?そんなことになったら私はとても悲しいし、きっとあなたを憎むわ。そんなことをして私を手に入れようとしても………あなたが求めているのはそんな関係じゃないわよね?」

カイン「ああ…その通りだ…俺は健全な形で君と愛し合いたかった。そしてセシルとも良き友人でありたかった。それが俺が望んだ関係だ」
ローザ「でも私はセシルに恋をしてしまった。その私にあなたは恋をしてしまった。………恋って厄介なものよね。恋のおかげで人間関係が崩れることはたくさんあるわ…」

ローザはカインから離れ、窓から夜空を眺めた。

ローザ「セシルが孤児としてバロンに来たのは運命だったのよ。だから『もしセシルがいなかったら』、なんて考えてもダメよ。セシルはそうあるべくしてバロン王に拾われた。そして私達の前に現れた。そしてあなたと親友同士になり私とは恋人同士になった」
カイン「………」
ローザ「もしこの戦いから生きて帰れたら私はセシルと結婚するわ」
カイン「そうか…ローザ、君の気持はわかった。もういい。俺は俺の道を生きていくとしよう」
ローザ「ありがとう、カイン」





その後、セシル達は見事ゼムス、ゼロムスを倒した。そしてセシルとローザは結婚し、カインは試練の山で己自身を克服する修業に励む。
いつかバロンに戻れる日が来る、その時まで…





戻る