※この話はTAクリア後の話ですが、TAをプレイしていない人にもなるべくわかるように書いてあります。





セシル達が世界に平和を取り戻してから10数年、世界は再び危機にさらされた。だが、今度はセシルの息子セオドアをはじめとした多くの戦士達の活躍により、また世界は救われた。紆余曲折を経てカインはバロンへ戻り、飛空艇団赤い翼の部隊長となった。長い年月不在にしていたにも拘わらず、カインはバロンの人々の信望厚かった。カインにとっては何故人々がこれほど自分を信頼してくれるのか不思議に思うほどであった。セシルも、ローザも、2人の息子のセオドアも皆、カインには全幅の信頼を置いている。どれだけ長い時が経とうとも変わらず自分を信頼してくれる人々。そんな人々に囲まれてカインは新しい日常を送っていた。

そんなある日、シドがカインの家にやってきた。

カイン「シド?俺の家に来るなんて珍しいな」
シド「なんじゃ?ワシだってセシルやローザのことばっかり気にかけとるわけじゃない。ちゃあんとおまえのことも見とるんだぞ」
カイン「何の用だ?」
シド「たまには一緒に酒でも飲んで話をしようと思ってのう。いいじゃろ?今日はおまえも休暇中だし」
カイン「ああ。構わないが…」

シドは豪酒だった。アルコールの高い酒を次々と飲み干していく。そんなシドとは対照的に、カインは静かに酒を飲んでシドの愚痴につきあっていた。

カイン「シド、飲みすぎじゃないのか?」
シド「なんのこれくらい!まだまだいけるわ!………ふう………思えばおまえさんがバロンへ戻ってくるまで………長かったのう」
カイン「皆、俺を待っていたのか?」
シド「もちろんじゃ」
カイン「俺は…」
シド「のう、カイン、ここだけの話じゃが………ローザのことはもう吹っ切れたのかの?」
カイン「シド…気づいていたのか」
シド「ワシを甘く見るでない!セシルとローザは愛し合っとる、それを傍らで見るおまえの目を見とればわかるもんにはわかるもんじゃ」
カイン「……………」
シド「のう、カイン。恋とはなかなか難しいものじゃ。自分が好きになった相手は自分の親友を慕っている。そういうことはよくあることじゃ。ワシにもそんな頃があった」
カイン「シドにも?」

いかにも恋愛とは無縁そうなシドからそんな話を聞くとは思っていなかったカインは驚いた。

シド「ワシだって娘がおる。若い頃は恋だってした。じゃがな、恋とはなかなか思うようにはいかないものじゃ。仮に1人の女の身近に2人男がおったとする。そのうちどちらが恋愛対象に選ばれるかはわからんものじゃよ。幼馴染みの方が多く時間を共有しておったからといって、女の心を射止めることができるとは限らん」
カイン「俺とローザのことを言っているのか」
シド「いや、一般論じゃ。ワシだって昔は近所のある若い娘に恋をした。その娘をワシを好いてくれた。何もなければその娘と結婚しておったかもしれん。じゃがな、大人になってから現れた全く別の若い男に恋をして、その男を追いかけていきおったんじゃよ」
カイン「シドにもそんな過去が…」
シド「そうじゃ。だからワシにはおまえの気持ちは少しわかるつもりじゃ。ワシと違っておまえは少々一途過ぎたようじゃが」
カイン「シドはその時、どんな気持ちだったんだ?」
シド「確かに悲しかったが、しかしよくあることじゃ。ワシはひたすら酒を飲んで酔っ払って飲み仲間に愚痴をぶちまけてすっきりした後は、ひたすら飛空挺の開発に没頭した。そうすることで失恋の痛手を少しでも思い出さずに済むようにな」
カイン「シドらしいな」
シド「ワシの場合はそれだけで済んだ。じゃがおまえは…」
カイン「俺は、ローザを想う気持ち、セシルを邪魔に思う気持ちをつけ込まれ、2度も操られた。そして試練の山で克服するにも時間がかかった。情けない男だな、俺は」

カインは自嘲気味に笑った。

シド「それだけ本気でローザのことが好きだったんじゃな。おまえは昔からひたすらまっすぐなよい子じゃった。あまりにもひたむきでまっすぐだから、そこをつけ込まれたのだろう。どれだけ失恋を割り切れるかは、どれだけ相手を恋する気持ちが大きかったかにもよる。あまり自分を責めるでない。………ワシこそ、薄々気づいていながらも何もしてやれんですまなかった」
カイン「シドが謝ることじゃない」
シド「いや、ワシがもっと早くに、年長者として、経験者としておまえに話をしてやれば、おまえの心の持ちようも違ったじゃろう。いつもセシルとローザばかり構って、すまなかったな」
カイン「いいんだ…」

カインはしばらく沈黙した後、シドに話しかけた。

カイン「シド…俺は付属品なんだろうか?」
シド「いきなり何を言うんじゃ」
カイン「確かにバロンの皆は俺が戻って喜んでいてくれている。だけどそれは、今まで当然のようにあった存在がいなくなって、それが不満だっただけじゃないのか?セシルもローザも、俺が傍らにいる日常が当たり前のだと思っている。今までずっとそうだったのだからな。だから俺がいない間は寂しさを感じていた。ただ付属品のように、セシルやローザの側に当たり前のように存在するだけの存在、それが俺なのではないかと」
シド「そのように自分を卑下するものじゃあないぞ、カイン。本当にそれだけの感情しか抱いていないのならば10数年もおまえを待っとらんわい」
カイン「俺は…セシルの親友、ローザの幼馴染み、セオドアにとっては父の親友。そういう役割を求められてそれを演じるだけなのか?」
シド「カイン、おまえは他人が期待するであろう態度を予想して、それに縛られ過ぎなんじゃないのか?セシルとローザの関係を見て、黙って片思いを続け、親友として振る舞い続けた。それもいいが、堂々と思いを告げて、恋敵としてセシルと張り合うことだってできたんじゃぞ」
カイン「…!それは…」
シド「まあ、それがおまえの性格なんじゃろうなあ」
カイン「…そうだな。どのみちあれだけローザが深くセシルを愛している以上、俺の入る余地はなかっただろう」
シド「おまえも誰かいい相手を見つけたらどうじゃ?」
カイン「いや…俺はローザ以外の相手を愛することはできそうにもない」
シド「残念じゃのう。おまえに好意を抱いておる女子も少なくないというのに」
カイン「どこにそんな女が?」
シド「鈍いのう」

シドは酒を入ったグラスを一気に飲み干すと、またもう一杯注ぎだした。

シド「カイン、忘れるなよ、おまえは1人ではない。誰にも言えん悩みがあればワシのところへ来い!いくらでも相談に乗ってやる。亀の功より年の功とも言うじゃろ」
カイン「年より扱いされるのは嫌いじゃなかったのか?」
シド「フォッフォッフォ。セオドアも大きくなった。立派に成長しおった。ワシも普段は強がっとるが、歳を感じることは多いんじゃぞ。今度はカイン、おまえの子供の顔を見たいのう」
カイン「無茶言わないでくれ」
シド「おまえがバロンに戻ってきてくれて、ワシも嬉しい。じゃがあまりセシルとローザのことにとらわれ過ぎるんじゃないぞ」
カイン「ああ、もう同じ過ちは繰り返さない」
シド「おまえはまだまだ若い。過去にとらわれ過ぎず、自分だけの新しい人生を見つけるんじゃ」

最後にそう言うと、シドは酔っ払いながら夜の道を帰っていった。





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