※これは以前FF5Webアンソロジーに投稿したものです。一応バツファリでエンディング後の話。





サーゲイトからの使者


 
 ここはカルナックの宿屋の一室。バッツとファリスが泊まっている部屋である。
 世界に平和を取り戻した後、バッツは再び旅に出、ファリスは一旦王女としてタイクーンに戻ったが、やはり王女の生活は彼女に合わなかった。そして秘かに惹かれ合っていたバッツと結婚し、国を出ることにしたのである。
 バッツとファリスは結婚後、気の赴くままに世界中を旅していた。そして今はカルナックに来ていたのである。カルナック女王の容態を見に行きながらも少しずつ国が復興していることに安心する2人。そして現在、宿屋でくつろいでいた。
「カルナックもだいぶ安定してきたし、次はどこへ行こうかな?」
「バッツ、どこへでもおまえの好きなところへ行けばいいぜ」
「たまにはファリスが行きたいところへ行ったっていいんだぜ」
「んー…俺は…そうだな…久しぶりに海へ行きたいかな。船に乗りたい」
 結婚してからもファリスの言葉遣いや服装は相変わらずだった。だがバッツは特にそれを気にする様子はなく、どこで船に乗ろうかと考えていた。
 その時、宿の主人がバッツに面会人だと伝えてきた。バッツとファリスは一体誰だろうと思い、客の名を尋ねると、サーゲイトからの使者だという。
「サーゲイトの使者が俺に何の用だろう?」
 疑問に思いながらもバッツは使者を部屋に通した。
「世界に平和を取り戻した光の四戦士であるバッツ・クラウザー殿、そしてファリス・シェルヴィッツことサリサ王女、お初にお目にかかります。今日はあなた方に折り入ってお願いがございまして」
「俺達に何の用だ?サーゲイトで何かあったのか?」
「はい…」
 そう言うと、使者はいきなりバッツ達の前で土下座をした。
「バッツ殿!お願いでございます!どうかサーゲイトの王になっていただけませぬか!」
「何だって?」
 バッツもファリスもびっくり仰天した。使者は言葉を続ける。
「現在サーゲイトは後継ぎが誰もいない状態です。このままでは国として成り立ちません!」
「そういえば…」
 サーゲイトにはゼザが王として統治していたが、後継ぎがいない状態で亡くなってしまったのだった。使者は、今度はゼザについて延々と語り始めた。
「今は亡きゼザ王は非常にストイックな御方でしてなあ。我々臣下の者がどれだけ王妃を迎えるように進言申し上げても全くその気になられなかったのです。王たるもの、お世継ぎのこともお考え遊ばせと口をすっぱくして申し上げていたのですが、とうとうエクスデスとの戦いの最中で…それについてはバッツ達もご存じの通りでございます。うっ…うっ…」
「う〜ん、確かになあ。俺は王族じゃないからあまり気にしたこともなかったけど、やっぱり国が存続するのに世継ぎって大事だよな。それなのにあんなに自己犠牲的なことやって…ゼザのやつ…」
「そうなのです!今我々は国の存続の危機に瀕しているのです!だからこそここは世界を救った英雄であるバッツ殿を国王としてお迎えしたいのです!ゼザ王もガラフ王も暁の四戦士でありました。新たな光の四戦士であるバッツ殿も世界を救った英雄として国王になる資格は十分にございますぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は王だなんてそんな柄じゃない」
「そう仰ると思いました。しかしですな、我々としても御国の存亡の為、そう簡単に引き下がるわけにはいかないのでございます。こう申し上げては何ですが、バッツ殿、実はあなたは光の四戦士の中でただ1人平民の出であることに秘かに引け目を感じてはいないのですか?」
「うっ…!!」
 バッツは痛いところをつかれた。
「『ガラフ王』、『レナ王女』、『サリサ王女』、『クルル王女』。皆王家の出である中であなただけがただの『バッツ殿』」
「……………」
「それも我がサーゲイトの王となれば新たにバッツ王と呼ばれるようになるのですぞ!さあ、我がサーゲイトの地に新たに『バッツ王国』を作り上げようではありませんか!」
「ちょ、やめろ、そのネーミング」
 サーゲイトからの使者は両手を広げ延々と演説を繰り広げ始めた。バッツは秘かに思っていた『自分だけ庶民』について容赦なく指摘され、凹んでいた。そしてそんなバッツをファリスは憐れむような目で見た。
「バッツ殿は既にサリサ王女という奥方を迎えられておりますから私共としては非常に安心なのでございますよ」
「げっ!俺は嫌だぜ!せっかく王女の暮らしが嫌になって出てきたのになんで王妃にならなきゃいけないんだ!」
「サリサ王女、そのようなことは言わずにサーゲイトへ起こし下さいませ。あなた方クラウザー夫妻をお迎えし、新たに『バッツ王国』として生まれ変わるのが我々の願いなのでございます!」
「だから、なんなんだよ、そのネーミングは!俺の名前が国の名前だなんて恥ずかしいにも程がある!」
「よいではないですか。世界を救った英雄の名前が国名として残るなんて素晴らしいことですぞ。各国にもあのバッツ・クラウザーが王として統治している国としてすぐに知られることとなりましょう。わかりやすくていいではないですか」
「よくねえよ!」
 バッツは怒りだした。
「そ、そのようなことを仰らずに、どうか今一度お考え下さいませ!あなたは世界を救った英雄として我々サーゲイトを見捨てるのでございますか?我々には他にあてがないのでございます!バッツ殿、これは何より身分に関するコンプレックス払拭のチャンスでございますぞ!」
「う、うるさいな!俺は権力なんかに興味ないんだよ」
「どうか我々サーゲイトの者を見捨てないで下されー!」
 そう言うと使者は必死に土下座をして頼みこんだ。
「いや、だけどな、イマイチ礼儀がなってないし」
「ハッ!どうかお気に障ったのならお詫び申し上げます!しかし他にバッツ殿の気をひけそうなことがございませんでして…」
「いいんだよ!俺は!一生平民のただのバッツで!」
「本当によいのでございますか?」

 バッツとサーゲイトの使者はしばらく押し問答をしていた。使者はなかなか引き下がらない。それをファリスは呆れて眺めていた。確かにバッツ以外はものの見事に王族がそろっている。5人中4人が王族という事実をバッツはひそかに気にしていたようだ。ファリスからすれば海賊の頭領をやっていた自分などもいるのだからそんなものは関係ないと思ったが、しかし対外的には、彼女は『サリサ王女』として扱われているのだった。
 いずれにしてもバッツが王になるのはファリスも反対だった。バッツもファリスも自由きままな暮らしが好きだ。2人で自由に生きていきたい。ファリスはサーゲイトの使者の話を遮って話し出した。
「なあ、悪いが俺もバッツも王座だとか権力だとかそんなものには興味ねえ。他をあたれよ。国の中から適当に誰か選んだらどうだ?1つの国なんだから1人くらい誰か人望があるヤツいるだろう」
「それが…エクスデスとの戦いにより人材不足で…」
「それに俺もバッツもサーゲイトのことは元々そんなに詳しくない。後継ぎなら国内で探した方がいいぜ」
「うう…そういうことなら我々が臣下として全面的に補佐致しますゆえ…」
「投票で選ぶとかいいんじゃないか?」
「そうそう!俺もファリスの意見に賛成!」
「バッツ殿〜!」

 ファリスの意見に押され気味になったサーゲイトの使者は結局最後にはあきらめ、涙しながら帰っていった。
「思えば失敬なヤツだったな」
「いいんだ。元々俺だけ平民とか、ガラフがいなくなったら4人の中で男1人だけだとか、旅して俺だけ違うよなって思ったことはあるんだ。けっこう俺って肩身の狭い思いしてきたんだぜ〜特に男1人ってのはな」
「しょうがねえじゃねえか。それより、バッツ、本当に良かったのか?せっかく王になれるチャンスだったのに」
「何言ってんだよ。俺は気ままな旅が似合ってる。もちろんおまえと2人でな」
 バッツとファリスは笑い合った。その後サーゲイトでは元々それなりの家柄、地位にある者や軍で人望が厚い者達などを集めて投票を行い、なんとか次期国王が決まったそうである。





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