※これはAC後の話ですが、FF7本編しかプレイされてない方でもわかるように書いてあります。





ある日、ケット・シーことリーブの元にヴィンセントがやってきた。

リーブ「おや、ヴィンセントさん、お久しぶりですね」
ヴィンセント「リーブ、今日は折り入って頼みがある」
リーブ「なんですか?改まって」
ヴィンセント「電話屋はどこだ?」
リーブ「は?」
ヴィンセント「携帯電話を買いたいんだ。電話屋に行けば売ってるんだろう?」
リーブ「…ヴィンセントさん、それは普通『携帯ショップ』というんですよ」
ヴィンセント「何?そうなのか」
リーブ「今は携帯電話がかなり普及していますからね。携帯電話専門のショップが各地にできているんですよ」
ヴィンセント「…今時携帯電話を持っていることは普通なのか?」
リーブ「ええ、まあ。ヴィンセントさんもお持ちになれば我々も連絡が取りやすくなりますなあ」
ヴィンセント「…実は先日、クラウドのところのマリンという子に非常に驚かれてしまったのだ。そのリアクションはさりげなく私の繊細な心にショックを与え、それ以来何故だか妙に引っ掛かる。機械は苦手な私だがなんとか携帯電話を使いこなしてあの子を驚かせてやりたいのだ」
リーブ「機械は苦手と言いましても、ヴィンセントさんPHSは使いこなしていたではありませんか」
ヴィンセント「かかってきたら出るだけだ。簡単だろう。家の電話と同じだ」
リーブ「……………」

リーブはこれはダメだと内心ため息をついた。ヴィンセントはクラウドが起こすまで約30年もの間眠り続けていた。その間に起きた技術の発達は目覚ましく、機械が苦手だという彼の意見もわかる。が、しかし、家の電話と同じ感覚で果たして最新の携帯電話を使いこなせるのだろうか?

リーブ「まずは携帯ショップへ行きましょう。そしてヴィンセントさんの好きなデザインの携帯をお買い上げになればいいんですよ。使い方は携帯ショップの店員さんに聞けばわかりますから」
ヴィンセント「そうか。それで何か事前に必要なものはあるか?」
リーブ「身分証明書です」

し〜ん……………

ヴィンセント「さ、30年前のタークスの身分証明書ならあるが…」
リーブ「ダメですよ、そんなの。仕方がありませんね。私が取り計らって新しいものを発行しましょう。…それで住所はどこにするんです?」
ヴィンセント「…特にニブルヘイムと決めているわけではないのだが」
リーブ「仕方ないですからニブルヘイムの住人として発行しておきますよ。あと、家の電話番号はどうしましょうね…まあ、いいでしょう。細かいところも私が計らっておきます」
ヴィンセント「すまないな」

いざ、携帯ショップへ





ヴィンセント「…ふむ。一言で携帯電話と言っても様々な種類があるのだな。これほど多くのデザインから選ぶのは大変だ」
リーブ「デザインより機能重視で選ぶ方もおりますよ。携帯が苦手な方ように操作が簡単なものも」
ヴィンセント「何?そんなものがあるのか。じゃあそれにし――なんだこれは?」
リーブ「はい。主に年配の方がお使いになる、通話機能のみの携帯電話です」
ヴィンセント「これでは家の電話の子機と変わらないではないか!いくら私が機械は苦手だと言ってもバカにするな!」
リーブ「それでは『簡単携帯』というものもありますよ。携帯電話初心者の方の為に開発されたものです」
ヴィンセント「それはいい。……だがデザインがカッコよくない。………ん?……これは…!!私の好みのデザインだな」
リーブ「それはまだ出たばかりのものですね。慣れないうちにいきなり最新のものを使おうとすると難しいですよ」
ヴィンセント「これがいい。これが気に入った。いくらだ?」
リーブ「まずはカウンターへ行って契約しなければなりませんよ。ほら」

携帯ショップの受付嬢は暗い影を湛えた美男子と渋い男前の中年という組み合わせを見て、この2人は一体どういう間柄なのだろうと思った。
多少戸惑いながらも手続きを続けていく。

店員「料金プランはどうなさいますか?」
ヴィンセント「1番安いのでいい」
リーブ「無料通話はどれくらいにしますか?」
ヴィンセント「なんだそれは?」
リーブ「簡単に申しますと料金によって1月に無料で通話できる時間が異なるのですよ」
ヴィンセント「私が自分から電話をかけたりすると思うか?そんなもの必要ない」
リーブ・店員「そ、そうですか…」

他にも様々なサービスを薦められてげんなりしながらも、なんとかヴィンセントは携帯電話の購入に成功した。彼は嬉しそうに意味不明なことを口走った。

ヴィンセント「この電話は私のものだ。勝手にかけてくるな」

「電話屋はどこだ?」「この電話は私のものだ。勝手にかけてくるな」この2つはヴィンセントの迷セリフとして仲間の間に瞬く間に広まったという。

この後、リーブはヴィンセントから携帯電話の使い方について質問攻めにあうことになった。充電の仕方がわからない、電源の入れ方がわからない。文字入力の方法がわからない、アドレス帳の登録の仕方がわからないなど、とにかく基本的なところからさっぱりなのだった。リーブが困り果てていると、タイミングよくユフィが訪ねてきた。

ユフィ「やっほ〜ケット・シー、じゃなくてリーブ!あ、ヴィンセントも来てたの。…何やってんの?」
ヴィンセント「…ユフィ、携帯電話は持っているか?」
ユフィ「何言ってんのさ、そんなのあったり前じゃん!持ってないの、あんたとナナキぐらいよ」
ヴィンセント「ナナキは無理として、私は携帯電話を買ったばかりなのだ。使い方を教えてくれないか?」
ユフィ「いいよ!」

ヴィンセントはユフィに携帯電話の使い方を教えてもらうことになった。そこには今までのヴィンセントにとっては未知の世界が広がっていた。いちいち番号を入力しなくてもアドレス帳から特定の人物に電話やメールができる。メールも何やら絵文字や顔文字というものがあるが、ヴィンセントの趣味には合わないので覚えるだけで使わないことにした。ユフィに言わせると、知らなければ知らないでバカにするが、ヴィンセントから絵文字や顔文字の入ったメールが来たらそれはそれで『キモい』からやめてくれというのだ。
他にもカメラの使い方、待ち受け画面の設定の仕方(教えてもらったが結局気に入っていた初期設定の画像ままにした)、TVの見方などを教えてもらった。他にも『お財布携帯』というものもあるようなのだが、ヴィンセントにとってそれは簡単に破産しそうな代物に思えたので使わないことに決めた。


ヴィンセント「…ふむ。ユフィのおかげでだいぶいろいろな機能を使いこなせるようになってきたぞ。助かった。礼を言う」
ユフィ「ヴィンセント、案外飲み込み早いじゃん。もっと頭の中はおじさんかと思ってたよ」
ヴィンセント「元々機械が苦手だったわけではないのだ。ただ長い間眠りについていたから今の技術についていけないだけなのだ」
ユフィ「ふーん」
ヴィンセント「…私のタークス時代はもっと大型の携帯電話しかなかった。こんなコンパクトなものができるとは昔からは考えられないことだった」
ユフィ「携帯の前はPHSがあったよね。今じゃほとんど使ってる人いないけど」
ヴィンセント「そういえばポケベルというものはもう使われていないのだな…」
ユフィ「ポケベル?なにそれ?」
ヴィンセント「いや、PHSの前に使われていたもので…ほんの一時だが流行っていたことが…」
ユフィ「それ何年前――いや何十年前の話よ?あーやっぱヴィンセントっておじさんだー」
ヴィンセント「…そうか…ポケベルの存在を知る者はもはや私だけになってしまったのか…長き眠りによって時代に取り残されたこの私のみ…」
ユフィ「それかあんたの実年齢と同じくらいのおっさんたちだね。ね?ね?ところでヴィンセントってホントはいくつなの〜?もしかしてもうすぐ還暦とか?」
ヴィンセント「…ノーコメントだ」



ユフィから携帯電話の使い方を教えてもらったヴィンセントはその後1人で黙々と携帯をいじり、遊ぶ日々を送るのであった。





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