※これはDC後の話ですが、FF7本編しかプレイされてない方でもなるべくわかるように書いてあります。



ルクレツィア…私が唯一愛した女性。
タークスとして護衛を任されて以来、私の心は彼女のことでいっぱいだった。
当初何も知らなかった私は、徐々に彼女に惹かれていった。
彼女が抱える苦悩など全く知らずに。



ヴィンセント…私が唯一愛した男性。私が助手を務めていたグリモア博士の息子。私のせいで死なせたも同然の人の息子。
あなたが神羅本社から護衛の為に赴任してきた時、私は動揺を隠せなかった
よりにもよってどうしてグリモア博士の息子であるあなたが派遣されてきたのかって。
私は彼に父親グリモア博士のことを黙っていた。ヴィンセントはとても誠実な人。
私は彼のことをとても好ましく思っていたから、博士のことは隠し、彼と一緒に過ごしていった。

ヴィンセント、あなたは覚えているかしら?あの日、あなたは私のお気に入りの木々の下で昼寝をしていたわね。
風がとても気持ち良くて。そして2人で一緒に食べたサンドイッチ。
まだ何も知らなかった、お互い最も幸せだった日々。でも…
ある日、ヴィンセントにグリモア博士との記録を見られてしまった。
彼に知られてしまったの。私のせいで博士が亡くなってしまったことを。
ヴィンセントから告白された時、私は彼の申し出を断った。私のせいで彼のお父様、グリモア博士が亡くなってしまったのだもの。
彼の大切なお父様を奪ってしまった私が彼の気持ちに応えることなど決して許されない。私はそう思った。



ある日、私はルクレツィアに告白した。だが彼女は自分のせいで私の父グリモア・ヴァレンタインが死んだと思っていた。
だから私の気持ちには応えられないと。関係ないと思った。父の死は不慮の事故で彼女のせいではない。
だが彼女は自分のせいだと思い込んでいた。私はただ彼女の笑顔が見たかった…でも、あれから彼女は、私の前で笑わなくなった…
ルクレツィアはまもなく宝条の元へ行った。私はどうすることもできなかった。宝条がどんな男であろうと、彼女が幸せなら私は構わなかった。
そしてその後、悲劇は始まった。



ヴィンセントの求愛を断ってから、私は心から笑うことができなくなった。彼を傷つけていながら平然とはしていられなかった。
そして私は彼を傷つけた罰を自ら受けようと宝条の元へ行った。ガスト博士に対するコンプレックスの塊であるあの宝条博士の元へ。
私は決して幸せになることはできない。決して幸せになってはいけない。
何故なら愛する人の大切な人を奪ってしまったのだから。そして愛する人の心をひどく傷つけて。
私は自分で自分を傷つけたい気持ちでいっぱいだった。どこまでも不器用な私の、どこまでも不器用な生き方、やり方。



ジェノバ・プロジェクトにルクレツィアが母体を捧げると聞いた時、私は動揺を隠せなかった。
私は反対したかった。しかしうまく言葉が出てこなかった。部外者だと言われ、『あなたには関係ない』と言われ。
見ていることしかできなかった…ルクレツィアを止められなかった…それが私の罪であり、この身体は私に与えられた罰。
後悔が私の心から溢れるように出てくる。
本当は、彼女を愛していたのなら、強く出て無理にでも止めるべきだったのだ。愛するルクレツィアの為に。



私がジェノバ・プロジェクトの実験に母体を提供すると聞いて、ヴィンセントは宝条と私に会いに来た。
私は、本当はあの人に止めて欲しかった。でも優しすぎるあの人は、何もはっきりしてくれなくて。
私は彼が好き。彼の優しすぎるところも含めて。でもその優しすぎるところが好きと同時に不満だった。
強引にでも止めてくれないのなら私は自暴自棄の破滅への道を選ぶまで。
どうせ私があの人と結ばれることは許されないことなのだから。この身体がどうなろうと構わなかった。

そして…生まれた赤ん坊の名は…セフィロス…
私の可愛い子供…でもあの子が生まれてから私は1度も抱いていない。
どんなに泣き叫んでも、セフィロスは返してもらえなかった。。
子供も抱けない…母だと名乗ることもできない…それが私の罪…
そして私の身体はジェノバ細胞に蝕まれていった。

そんな傷心の私にさらに追い打ちをかけるように、宝条はヴィンセントを撃ち殺した。狂った哄笑がいつまでも鳴り響く。
そんな狂気にとらわれた心のまま、宝条はヴィンセントの身体を改造した。
当初、改造実験は失敗、ヴィンセントは生死の淵を彷徨うことになった。
私は以前グリモア博士と共に研究していたカオスを彼の体内に宿した。
カオス。星の淀みより生れしもの。これを宿せばあなたは生きることができると思ったの。
でも私の研究はまだ不完全。それでいて私の身体はもう限界。
だから私はネットワーク上に私の研究の情報を流して姿を消した。
誰かが私の研究に目を止めて研究を引き継いでくれれば、ヴィンセントは助かるかもしれない。
何より、ヴィンセント。私はあなたに生きて欲しかったの。一縷の望みをかけて、私は世間から姿を消した。



ルクレツィア…私は宝条に撃たれ倒れたその時まで彼女の名を呼び続けていた。私が唯一愛した女性。
気がついた私の身体は尋常ではなかった。全身を駆け巡るおぞましさに震え、私は絶叫を上げた。
ジェノバ・プロジェクト…見ていることしかできなかった…ガスト博士や宝条、そしてルクレツィアを止めなかった…それが私の罪…
だからこの身体は…私に与えられし罰…
私は神羅屋敷の地下深くに眠りについた。長い長い、決して終わることのない悪夢を見続ける為に。

私は永遠とも思えるほど長い間眠りについていた。だが、そんな私を起こす酔狂な輩がいた。
彼らはセフィロスを追っていた。そして時を止めた私に前へ進むことを教えてくれた。
私は永き眠りから覚め、彼ら――クラウド達と共に旅を始めた。そして宝条と、セフィロスと戦い、決着をつけた。

それから3年後――私はディープグラウンドソルジャーと戦い、オメガとカオスのことを知った。
戦いの合間、夢現の状態の時、私は時々ルクレツィアに会った。
彼女はカオスの泉で眠りについていた。そして私に謝る。何故謝る?咎められるのは私の方だ。あの時止めることができなかった私の。
そして、カオスはルクレツィアが私の体内に宿らせたものだと知った。



ヴィンセント…私はあなたに生きて欲しくてカオスを宿らせた。でも…私はなんてことをしてしまったのだろう。
私はとっくに壊れてしまった。心も身体も。でも私はあなたに生きて欲しかった。あなたが宝条に撃たれた時、自分の気持ちに気づいてしまったから。
それまではずっと気づかないふりをしていたの。だって私とあなたが結ばれることは決して許されないのだもの。
でも、あなたが撃たれて初めて気づいた。私にとって本当に失いたくなかったものは何だったのかを。今さら遅いけれど。
ごめんなさい。私、失敗ばかり。あなたをいっぱい苦しめてしまって。私は一体何をやっているんだろう。
ごめんなさい。でもあなたが生きていて…良かった…



ルクレツィア…彼女は昔から一方的だ…それに思い込みも激しい。
だが、私は彼女のそんなところも含めて丸ごと愛していた。
そんな回想をしながらも、私は自らカオスとなり、オメガと戦った。そしてカオスもオメガも星に還った。
ルクレツィア。もう、大丈夫だ。そしてありがとう。私はまだ生きている。



ヴィンセントは私を許してくれた。こんな不器用な、失敗ばかりの私を。私の頬に一筋の涙が伝う。
私は今、カオスの泉で眠りについている。ジェノバに蝕まれた私の心と体を癒す為。
いつかは治る時がくるのだろうか?私の罪は許される時が来るのだろうか?
もし身体が治り、許されることなら、私はもう1度やり直したい。本当に心の底から愛しいと思ったあの人と。新たな人生を。
誰よりも優しい、あの人と一緒にいたい。



私はルクレツィアの全てを受け入れ、そして許した。願わくば、彼女の身体が元通りに治ることを望んでやまない。
私は彼女の笑顔が見たかった。もっと幸せに生きて欲しかった。
彼女がもし帰ってきたら、私は暖かく迎えよう。そして、愛そう。誰よりも強く、深く。





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