2012.7.29

分かりやすい微分・積分について

    

永井建哉

 参考)リンク先 素数分布の研究


微分・積分と聞くだけで苦手意識のアレルギーの人もいるだろうし、あるいはそれ以前に聞きなれない言葉だと思う人がいるかもしれない。確かに日常の会話ではなかなか出てこない数学上の語彙である。しかし現象としては日常の生活にいくらでも存在しており、科学の究明においても極めて大事な基本的な数学である。したがって数学や科学の専門でない一般の人でも、微分・積分とは、およそどんなことで、何故必要なのかを知ることは大事だと思う。 そこで具体的な例で理解を深めてもらい、数学との架け橋となるように、分かりやすく説明をする。


T微分・積分の概念(数式を用いず説明)

1 微分の概念

 微分するとは簡単にいえば変化する量の割合を求めることをいう。例えば車で走行するとどんどん走行距離が増え、一時間あたりどれだけ走ったかは時速何Kmという速度で表される。この単位時間あたりの距離の変化、すなわち速度が微分値として表される。このほか変化するものは日常生活に一杯ある。例えば子供の身長や雨量など時間的に変化するもの、時間的な変化でなくても、収入の増減に伴う納税額や、体重の変化に伴う腹囲の変化など色々ある。これらはすべてそれぞれの時点での変化率が存在する。

では何故その変化率をわざわざ微分など難しい言い方をするのかという疑問が湧いてくる。それはこれから順次説明していくが微分とは数学的な手段であり計算によってその変化率を求めることができるからである。一定の変化率(例えば一定速度)なら簡単だが、変化率自体が変化している(例えば時間によって速度が異なる)場合はこの計算手段が必要となってくる。

では次に車の速度の例で微分を説明する。

図1 一定速度における走行時間と距離の関係

図1は一定速度での時間と距離の関係を示している。青線は時速60Kmの場合である。一定速度であるから1時間後に60Km走り、0.5時間ならその半分の30Kmと直線関係になる。時速40Kmの場合(赤線)も同様に1時間後に40Kmで、時間に比例した直線関係になる.。この速度の差はグラフの上でどう違うかというと、直線の傾き(勾配)が違うことが容易に分かる。速度の速い方が傾きは立っており、遅い方が寝ている。この勾配の差が速度差である。これは次の一定速度でない場合の説明で重要な役割となる

図2 速度一定でない場合の走行時間と距離の関係

図2は時間と距離の関係が直線でない場合、つまり一定速度でない場合の例である。最初の0.1時間は1〜2Kmしか進んでいないのに途中の0.5〜0.6時間の間は5km以上進んでおり速度が速いのが分かる。 全体としては1時間後に40Km走行したから平均速度は時速40Kmであることは確かであるが、中間の0.5時間での速度はどうだろう?どうして求めれば良いのだろう。

図3 P点での速度の求め方

図3は図2と同じ走行時間と距離の関係のグラフであるが、中間点である0.5時間での速度の求め方を図示している。まず最初、図にあるPとQ1間の平均速度を求める。これはPとQ1を結んだ直線であり、半時間で20Km進んでいるのでこの間の平均時速は40Kmである。つまり時速40Kmの勾配といえる。しかしこの速度はP点の速度とは言えないので、次によりP点に近いP点とQ2点間の平均速度を見てみよう。これは同様にP点とQ2点を結ぶ直線である。先ほどより勾配が立っており平均速度が速い。さらにQ3点を結ぶ直線での速度と、どんどん曲線上でP点に近づけばP点の速度に近づく。そして勾配はP点に近づくにつれ、変化は少なくなり一定の勾配に近づく。完全にP点と重なると点になり直線でなくなるが、限りなくP点に近づけた時の直線をP点における接線と呼ぶ。そしてこの接戦の勾配こそが、その点における速度を表す。 

微分もこの作図と全く同じ考え方で行う。PとQの2点間の距離を限りなく微小にした変化率を求めるという意味で微分という言葉が使われている。ただ数学として微分するには、時間と距離の関係が微分可能な数式で表せていないと微分できない。いかに数学といえど、手書きで自由に曲線を描いてこれを微分せよといわれてもできないのである(その曲線に近い式に置き換えて微分するといった近似法しかない)。曲線の式が与えられば、それを微分した式は曲線の各点の接線を表す式となる。図3は三角関数の関係式である(式は省略)が、これを微分して時間と速度(接戦の勾配)の関係式が得られる。その結果は図4の通り。 

図4 走行時間と速度(微分結果)

出だしゼロからだんだん加速して0.5時間後には最高速度、約63Km/時間に達しそれからどんどん減速して1時間のちには停止するという関係が得られた。各時間での接線をいちいち作図して求めなくても、対象の1時間以内のどの時点の速度も求められた。これが微分という数学の武器による威力である。数式を微分するのは少し難しくなるので興味のある人は次項の微分の基礎計算を参照。

2 積分の概念

積分とは簡単にいえば微分と逆の操作である。先の例でいえば、走行時間と距離の関係(図2)を微分して走行時間と速度の関係(図4)を得たが、逆に走行時間と速度の関係(図4)を積分して走行時間と距離の関係(図2)が得られる。 まず簡単な例から考えよう。 下図5は速度一定で1時間走行した場合である。

図5 速度一定の場合

青色の線は、一定速度60Km/時間を表している。どの時間を取っても60Km/時間なので横一直線になっている。さてこの時走行距離を考えてみよう。1時間後は当然のことながら60Kmを走ったことになる。では0.5時間(半時間)ではどうだろう。これは60Km/時間×0.5時間だから30Kmであることがわかる。これを上のグラフの図でみると草色の面積に相当する。
他の時間でも時間と速度の積であるから、それで形成される長方形の面積を求めればよいことが分かる。この面積を求めることが積分なのである。時間が経つに従って面積が増えて積算されていくことが分かる。そこから積分という言葉ができた。次に速度一定でない場合をみてみる。

図6 速度変化直線の場合

上の図は速度が0から60Km/時間まで直線線的に変化した場合である。この時、1時間で走行した距離はいくらか。これは先ほどの考え方から草色の面積であることが分かる。図5の1時間の長方形の面積である60Kmの半分であるから30Kmであることが分かる。あるいは三角形の面積の求め方で(1時間×60Km/時間)/2=30Kmと簡単に計算できる。しかし直線でなく下図のように曲線の場合はどうだろう。そうは簡単にはいかない。

図7 速度変化曲線の場合

図7の場合も1時間後の走行距離は草色の面積であるが、見た目でこの面積は計算できない。ところがこの青色の線が積分可能な数式であれば計算できるのである。これは2次曲線なので、それを積分して1時間までの走行距離=20Kmの答えが得られる。それはどのように数式を積分して計算できるかは少し難しくなるのでここでは略する(次項の積分の基礎計算を参照)。


U 微分・積分の基礎計算

1 微分の基礎計算

前項の図1で、距離をy(Km)とし時間をx(時間)とすると、時速60Kmの時はy=60xなる関係式が得られる。このとき、時間が経てばそれに応じて距離が変わるので、時間xを変数と言い、距離yはxの関数とよぶ。その関数を一般にf(x)やg(x)などの形で表す。先の例ではf(x)=60xという関数を定義できる。

次に一般的なf(x)について微分することを考える。この場合前項の図3と同じ考え方で求める。 x=a におけるf(x)の微分を次図8で考える。

図8 関数 f(x) の微分

図8で青色の曲線はf(x)を表している。  x=a における微分は、曲線上の点Pでの接線を求めることになる。 いきなり接線を求められないのでまずx=a から少しΔxだけ離れたx=a+ΔxにおけるQ点とx=aでのP点を結ぶ直線の勾配を求める。 両点の高さはf(x)のxのところに、それぞれa、a+Δxを代入すれば良い。従ってP点 の高さはf(a)であり、Q点の高さはf(a+Δx)となる。 このときPとQを結ぶ直線の勾配は、
  

            

 となる。そしてこのΔxをどんどん限りなく小さくすることによりQ点を限りなくP点に近づければP点での接線になる。これを数学的な式で表すと、

@式の前に書かれている記号はリミットΔxテンド0と読み、@式においてΔxを限りなくゼロとした時の極限値を求めるものである。
具体例として図8の曲線でもある、f(x)=x2の場合を考えてみよう。

この結果x=a においてf(x)=x2 を微分した値は2aとなる。 つまりx=a におけるP点での接線である。これが図3のように横軸が時間で、縦軸が距離なら時間なら時間aにおける瞬間速度を意味することになる。 なおこの式で初めからΔx=0とするのは分母が0になり成立しない。 Δxがゼロではなく限りなくゼロに近いということで、分母分子をΔxで約分できたのである。 限りなくという言葉はなにかあいまいな感じがするかもしれないが数学的には厳密に定義されている。その説明はむつかしくなるのでここでは略するが、概念的にΔxががゼロに近づけばB式で2aに収束することを理解していただければ良い。

この微分を表す式として

と記述される。 これらをx=aにおけるf(X)の微分係数と呼ぶ。 この微分係数はX=a だけでなくあらゆるXの範囲で成り立つ時、一般的な式として

で表せる。 これをf(x)の導関数と呼ぶ。 f(x)が先の例のf(x)=x2の場合、f’(a)=2aであったが、ほかの任意の点bでもf’(b)=2bが成り立つので、
一般的にf’(x)=2xなる導関数で表すことができる。このように、関数が具体的に分かっている場合は、(x2)’=2xという書き方もする。
導関数が分かればxが任意の値での微分係数が分かる。 例えばf(x)=x2 についていえば、x=7での微分係数はf’(7)=2×7=14となる。

その他の簡単な導関数の公式は次の通り(証明略)、
  (a)'=0 (aは数値)、(x)’=1 、(x)’=2x、(x)’=3x、・・・・・、(x)’=nx(n-1)  (nは1.2.3.・・・の自然数)
  (sin x)'=cos x、(cosx)'=-sin x   など

また関数の和の微分について、次の公式が成り立つ(証明略)、
  { a×f(x) + b×g(x) }’= a×f’(x) + b×g’(x)  (a, b はxを含まない数値)

以上の関係を使って、例えば(2x3-5x2+10x-8)を微分すると
(2x3-5x2+10x-8)’=2×(x3)’ー5×(x2)’+10(x)’-(8)’
               =2×3x2ー5×2x+10×1ー0=6x2ー10x+10
となる。

2 積分の基礎計算

(1)不定積分

 T項では積分の概念としてグラフ上での曲線(または直線)で囲まれた面積を表すと説明してきたが、そのことは後述の定積分で説明とするとして、まず積分の定義を説明する。積分は微分の逆演算であり、次の関係にある。

F(x)を微分してf(x)になるという関係は F’(x)=f(x)で表したが、逆にf(x)を積分してFx)になるという関係は、

と記述される。 ここではインテグラルと読み積分の演算の記号である。 

ただ問題は微分してf(X)となるのはF(x)に限られず、F(x)+3も、F(x)-2も微分するとf(x)になる。一般にF(x)+C(Cは任意の定数)を微分するとf(x)になる。
つまり、 {F(x)+C}’=F’(x)+(C)’=F’(x)=f(x)となるからである(注:先の微分の公式にあるように定数Cは微分するとゼロとなる)

従って先のf(x)の積分の結果は一義的にF(x)でなく、一般式として次のようになる。

ここでF(x)を原始関数と言い、Cを積分定数と呼ぶ。そしてCは特定の値に定まらないのでこの積分を不定積分と言う。


次にどのようにして積分するのかを説明する。  これは微分の公式から逆算することになる。

(nは1.2.3.・・・の自然数)

なお関数の和の積分も微分の時と同様に次の式が成り立つ(証明略)、

これらに基づき次に計算例を示す

となる。 ちなみに、この結果を微分すると、(2x3−2x2+5x+C)’=6x2−4x+5  となり、積分される前の原始関数に戻ることが確認できる。


(2)定積分


不定積分は前項で説明したように、F’(x)=f(x)なら、

である。この関係にある時、定積分では次のように定義される。 

  

この式の左辺の読み方はインテグラルaからb・エフエックス・ディーエックスなどと言う。 これはx=aからx=bまでの範囲を積分することを意味する。そしてそれは上の図に示すようにa,b間の範囲で囲まれた緑色部分の面積となる。 なぜそのようになるかは次に説明する。なお不定積分のように不定のCを含まず値が一義的に決まるので定積分と呼んでいる。 

下図 y=f(x)のグラフにおいてx=x0とx=xで囲まれる面積をS(x)とする。 そしてx0 以降にx=a とx=b があるとする。 つまりx0<a<x<b に位置付けして考える。

図9 定積分の説明図 1

xよりΔxはなれた所での面積の増分をΔSとする。 このΔSは拡大図における高さf(t)の長方形と面積が一致するx=tの地点が存在する筈である。
つまりΔS=Δx×f(t) となる。   しかしΔx→0 のとき t→x となり f(t)→f(x) となることから次式が成り立つ。

つまりS’(x)=f(X)という関係にあることから、次の不定積分が成り立つ。

この関係が成り立つ時、aからbの定積分は定義から、

となる。これはなにかというと、先のグラフにおいて、x=a と x=b の間でf(x)とx軸で囲まれた面積である(下図の橙色の部分)。このことから定積分はf(x)のグラフにおいてxのある区間内での面積であると言える。

図10 定積分の説明図 2

次に前項の図8(下図)を例に取って計算を試みる。 このグラフは、走行時間(x)と速度(y)との関係である。 このとき、y=f(x)=60x2の関係式である。

草色の面積が走行距離となる。 スタートして1時間後の走行距離は 
  

となり1時間で20Km走行したことが分かる。 ちなみに途中の0.4時間から0.6時間までの走行距離は、

という計算になり、この間約3Km走行したことが分かる。


以上