とりかえばや 04

噂話に花が咲くのは、女の間と相場が決まっている。御所の奥、女房たちの控える局で、花は一層咲き乱れる。どこそこの公達は覚えもめでたく、などといった政治向きの話だけでなく、いやむしろ、それは色を含んでこそ美しいというもの。煌びやかな衣装に身を包んだ女房たちは、扇を口に当てながら、もっぱら、どこそこの公達はさる邸宅の姫君のもとへお通いで、などという話題をささめきあう。

覚えもめでたく云々という話も、政治向きというよりは、婿がね探し、という趣のほうが強い。例えば、当代随一の公達は、という問い掛けがあれば、女房たちはみな色めきだって意中の男性の名を挙げた。

「ディアッカさまよ。宮家の出でいらっしゃるし、何よりあの男らしい体つき。他に適うものなど居ないでしょう」

「まあ、あなたったら、随分とはしたない物言いをするのね。だいたい、ディアッカさまも宜しいけれど、やはりここはイザークさまではなくて?イザークさまも宮家出身でいらっしゃるし、それにあの繊細な美貌ったら、もう!」

「あらあら、あなたこそ、そんな大声を出して、はしたないではないの」

ころころと笑いを含むそれは、いつも繰り返されている風景だ。だが、またこれもいつも繰り返されていることではあるが、こういった話は、必ずと言って良いほど、ある一点に帰着した。

すなわち。

「でも、やっぱり、カガリさまね」

「そう、お父上は左大臣であらせられるし、何より帝の覚えもめでたいのですから、ご本人もいずれは位人臣を極めることでしょうね」

「繊細なお顔立ちに、文官らしく書も達者」

「加えて、武官も顔負けの武芸の腕をお持ちなのですもの」

うっとりと夢見るように囁く彼女たちの目に映るのは、カガリの横に立つ自身の姿か、それとも、カガリの手による恋文か。

何はともあれ、彼女が殿上あがるようになってから、何度も繰り返された賞賛の言葉。だが、近頃は、これにまた一つ、項目が付け加えられるようになっていた。

「それに、妹の、キラさま」

「そう、聞きました?キラさまのお話」

「ええ、畏れ多くも、そのようなことをちらちらと」

「キラさまがそういったことになれば、やはり、カガリさまの将来は安泰、ですわね」

「ええ本当に。もう、誰も適いはしないでしょうよ」

くすくすとささめきあって、彼女たちは少しの嫉妬をない交ぜにした言葉をキラに向けた。そして一層、カガリに思いを馳せる。ひとしきり笑うと、彼女たちは、誰からともなく、それぞれの持ち場へと散っていった。

ただの噂話。だが、それが彼らの間に大きな波紋を投げかけることになろうとは、いまだ誰も知らなかった。

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