親愛なる白百合姫

親愛なるあなたへ、さよならを伝えたいと思います。もうすでに、私たちの婚約は形式上破棄されてはいるのですけれど、やはり、けじめは必要だろうと思いますから。

こうして改めて筆を取ってみると、かえって何から書けばよいのか分かりませんね。ああでも、そう、せっかくですから、昔話からはじめましょう。そうです、コンサートですわ。いつもあなたが白百合の花束を持ってきてくださった、そのことについて話しましょう。

一度もあなたに聞いてみたことはなのですけれど、私、知っておりました。あの花束は、あなたが選んでくださったものではありませんでしたね。そう、あなたならば、花束などではなく、ピンクちゃんのお友達をくださったでしょうから、私、気づいておりましたの。きっと誰かが――例えばあなたのお父様や、コンサートの関係者が――用意してくださったのだろうと。

いいえ、そのことについての恨み言を申し上げたいわけではありませんわ。ただ、あの白百合を持ったあなたを見ていると、ふと昔見た歌劇を思い出したものですから、とりとめもないことですけれど、この手紙のはじめに書いておきたくて。アレクサンドル・デュマをご存知かしら。『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』を書いたかたではなく、その息子である小デュマのことですわ。彼の書いた、美しくも悲しい恋物語…『椿姫』を思い出したのです。

本物の椿姫は、マルグリットというのですけれど、彼女は、その呼び名のとおり白百合ではなく白い椿の花束を持って劇場を訪れたのです。ちょうど、あなたが決まって白百合を携えていたように。いえ、同じではないかしら、椿姫の椿は、赤いときもあったそうですから。でも、どこか似ているでしょう。一階席から私を見上げるあなたを見ていると、私はどうしても、あのヴェルディの美しい調べを思い出さずにはいられませんでした。

ですが、その調べにも、お別れをします。そうですわね、ここは、物語になぞらえて、お別れの言葉を紡ぎましょうか。

さようなら、愛しいあなた。あなたは自分の望みどおりに私を愛することが出来るほど強くもなければ、私の望みどおりに愛させてくれるほど弱いわけでもありません。ですから双方で忘れることにしましょう。あなたはほとんど関心の外にあるはずのひとりの女の名前を、そして私は自分にとって不可能になってしまったひとつの幸せを。

さようなら、愛しい白百合姫。

歌姫からの三行半。婚約者(男)を高級娼婦たとえる歌姫でした。 SEED の三隻同盟成立直後あたりですが、この頃のキララクな雰囲気には、どうにも笑いが止まらなかったのを覚えています。だって何かおかしかったんだもの。

アスランは、ラクスも含め皆を守れる強い人間になりたかったんでしょうが、へたれ受けなのでそれは無理です(そしてラクス様は、大人しく守られているお姫様ではなさそうです)。ラクスは、アスランに頼って欲しかったのでしょうが、一人で立とうとするアスランにそれを求めるのはこれまた無理です。そう考えると、二人が別れたのは納得の行く事実だったのかも。でも、そこからなぜかキララクになる、その突拍子もない流れが笑えました。ラクスがキラを好きになったのはいいにしても、キラがラクスを好きになったのがね、謎。


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