廊下の真ん中には赤い絨毯が敷かれている。埃一つ落ちていない絨毯に手入れが行き届いていることが窺える。未知はど真ん中を歩くのは申し訳ないと思い、壁伝いに歩く。少し行くと階段に差し掛かり、上と下を見比べた後、降り始めた。

(案内所にいかないと)

 ここには戻らない。貸してもらった服は畳んで籠の中に入れ、制服を着て部屋から出てきた。
 外に出たら、案内所に行ってこのテーマパークの所在地を聞き、次にイグエンという人を呼び出してもらい、直接お礼を言う。それと、家に電話をしなければいけない。
 流されたとはいえ、未知は一人で県外に行ったことは一度もない。いつも親や祖父母と一緒に出かけていた。

「……少女は目を覚ましたのだね」

 一階に着くと、どこかから話し声が聞こえた。四方を見回しても、廊下には誰もいない。

「……はい、使いが駆け込んできましたので」

 先に聞こえた声に別の声が答える。どうやら階段を降りてすぐ目の前にあるドアの向こうからだ。未知はドアに近づき、聞耳を立てる。

「確かに少女の名前は『未知(みち)』といったのだね?」

 問い掛けるのは老婆で、おじおじしながらも丁寧に答えるのは男だ。どうやら二人は未知についての話をしているらしい。

「はい。少女は奇妙な服も纏っていました。それと太陽の形をしたペンダントを首に掛けていました」
「どこから来たのか言っていたかい?」
「いいえ、相当動揺していたみたいで……」
「古の勇者・クランの予言では、少女は『日本(にほん)』という所から来るらしい」

 日本!? どうして現在地を取り立てて言う必要があるのだろう。

「『李本銀(りほんぎん)』ではなく、にほんですか!?」
「響きは似ておるな。私は若い時に李本銀に行ったんだが……刀と呼ばれる武器を携えた剣士がいて、私を守ってくれたんじゃな」

 ここは何時代を意識して作られたテーマパークだろうか。剣士を武士と捉えると、江戸時代。外国でいうと、大体中世を意識しているのだろうか。

「……イグエンはまだ見つからないのだね」

 老婆の声色がやや低くなる。彼女の口から突然出たイグエンという名前に未知は息を呑(の)む。

「近郊の森と平原、海辺を捜索していますが……アーサーさん、イグエンは戻ってくるのでしょうか!!」
「イグエンはここルンサームの付近一帯から出られない。境界には結界が張ってあり、今頃同じ所を何度もぐるぐる回っているじゃろう」

 間を置くと、老婆は再び話し始める。

「……しかしイグエンはもう発見されても良い頃じゃろうて。意志ある者が結界に触れれば界面は共鳴し、居場所はたちどころに分かる。三日経っても共鳴がないということは……これは何者かが捜索を阻害しているかもしれぬ」

 老婆は何を言っているのか、未知にはさっぱり理解できない。それでも何か重要なことを言っているのではないかと、未知は耳をそばだてる。

「未知さん、盗み聞きはいけませんよぉ」

 はっとして振り向くと、未知の背後にメイドが立っている。確か彼女はトウェンといっただろうか。

「旦那様は今お取込み中です。未知さんはお部屋で休んでいてくださいね」

 メイドは未知の背中を優しく押す。未知は後ろ髪を引かれる思いでこの場を後にする。

「あ、あの……イグエンさんは」
「イグエン様は旦那様の令息であられますよ」


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