温故散策                

牛川人の骨はナウマンゾウの可能性

 〔注〕(1)牛川原人(牛川人)のものといわれる骨は、1957(昭和32)年に豊橋市牛川町乗小路の石灰 岩採石場で、1万年以上前の更新世地層から発見された。9.6cmほどの長さで、人間の左上腕骨の中央部だと された。1959(昭和34)年の発掘調査では、左大腿骨の破片も発見された。東京大学の鈴木尚教授の 鑑定で、最初に出土した骨は身長134.8cmの成人女性、後から見つかった骨は身長149.2cmの成人 男性のものと推定された。

 ところが、2001(平成13)年1月21日に、東京で開かれたシンポジウム「前期旧石器問題を考える」 で、馬場悠男・国立科学博物館人類研究部長が人間の骨とは考えられないと指摘した。それによると、上腕骨 化石は、人間の骨ではないと思う。インドゾウの子どもの脛の腓骨に一番似ており、ナウマンゾウの子どもの 脛の骨の可能性なら高い。また、男の大腿骨とされる骨については、見たことがないので判断できない。さらに、 「日本の更新世人骨は、すべて現代型新人に属し、その中では、およそ1万数千−2万年前より古い沖縄の (港川人に代表される)人骨と、それ以降の本土および沖縄の(本土縄文時代人と類似した)人骨との間に 形態特徴の違いがある」との見解を示した。

(2)“塩尻”は、尾張藩士・天野信景(さだかげ)の随筆集『塩尻』の表題だが、伊勢物語 に「富士の形を“しほじり”といへり」とある“しほじり”を解題したものである。「海民塩を焼くに砂をあつ めて堆をなし畦を作す。潮水来りて砂畦をひたす。日々にかくして自(みずから)砂をつみ山様をつくり日に 曝す。これを塩尻といふ。実に富士の形に似たり」などと書いている。

 3)石巻山は、豊橋市東部の静岡県境付近にあり、標高358m。その山容などから古来、信仰の対象となって いる。同山には石巻神社が鎮座する。山ろくに本社(下宮)、中腹に山上社(上宮)があり、祭神は大已貴(お おなむち)命。不動堂より上の地域は、石灰岩地植物群落として国の天然記念物に指定されている。山頂からの 眺望はすばらしい、という。

 (4)煙道付炉穴とは、人が中に入って座れるくらいの大きな穴と、直径30cmほどの小さな穴が、地下の トンネルでつながるユニークな形をした遺構。煙道付炉は、縄文草創期という縄文時代の最も古い時期から 造られ始め、おおむね次の時期の縄文早期ごろまでしか造られなかった。

 (5)中通遺跡は、浜松市根堅にある縄文草創期末葉から縄文早期初頭(約1万年前)の遺跡。2004 (平成16)年1月から、第2東名高速道路の建設に伴い発掘調査が行われ、2005年6月の現地説明会では 、煙道付炉穴が約200基、集石炉が37基見つかったことが明らかにされた。煙道付炉穴の出土数は、中部 日本で最多(眼鏡下池北遺跡現地説明会があった2006年3月25日現在)。

 (6)集石炉とは、直径1m前後、深さ50cm前後の大きさの穴に拳大ほどの焼けた石が詰まった遺構。 煙道付炉穴と同じ縄文草創期から縄文早期という時代に特徴的な遺構で、石蒸し料理の跡ではないかと考えられ ている。

 (7)大川式土器は、奈良県山辺郡山添村の名張川河岸段丘で見つかった集落遺跡である大川(おおこ) 遺跡から出土した標式土器の型式。模様を刻んだ木の棒を土器に押し当てることにより模様をつける押型文が 特徴。近畿地方の押型文土器編年で縄文早期初頭に位置づけられている。器形は尖底深鉢型で、三重県松阪市の 鴻ノ木遺跡で、ほぼ原形をとどめる尖底深鉢が出土した。

 (8)寄道式土器は、豊橋市の瓜郷遺跡を標式遺跡とする弥生時代後期前半の指標となる土器。壷は、広口で 口縁が鋭く外に開く。高坏は、筒状の裾開き三円孔つきの脚に2段作りの浅い坏や深い坏を乗せたものが主体。

 引用・参考文献等
 豊橋市教育委員会 2006「眼鏡下池北遺跡現地説明会資料」
 豊橋市教育委員会 1998「豊橋の史跡と文化財」第3版
 春成秀爾編 2001「検証 日本の前期旧石器」(学生社)
 大川清・鈴木公雄・工楽善通編 1996「日本土器事典」(雄山閣)
 日本随筆大成編輯部 1995「塩尻〈1〉天野信景」(吉川弘文館)
 静岡県埋蔵文化財調査研究所 2005「中通遺跡発掘調査情報」Web版
 上峯篤史 2005「大川(おおこ)遺跡と縄文早期の研究」(同志社大学歴史資料館)Web版
 三重県埋蔵文化財センターホームページ
                    (春日井市文化財友の会・新家猷佑)   


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