World > Africa > Democratic Republic of the Congo

Artist

FRANCO ET LE T.P.O.K.JAZZ

Title

EN COLERE (1979 -1980)


en colere
Japanese Title 国内未発売
Date 1979 / 1980
Label SONODISC CDS 6852(FR)
CD Release 1994
Rating ★★★★☆
Availability


Review

 フランコがアフリカン・ジャズのグラン・カレとともにザイール音楽界最高の「巨匠」(グラン・メートル)の称号を受けたのは、ヨーロッパ・ツアーから帰国した直後の1980年のことであった。しかし、かれはたんに音楽の「巨匠」にとどまらず、ビジネスの「巨匠」でもあった。

 これまでTPOKジャズのレコードは、世界にむけてはベルギーに拠点をおくフォニオールから配給されていた。そのフォニオールが80年、業績不振のため、ついに閉鎖されることになった。

 「災い転じて福となす」フランコはこれを機にヨーロッパ(ブリュッセルとパリ)へ拠点を移すと、自分のレーベルVISA1980を起ち上げる。世界市場をターゲットに、これまでのシングル中心からヨーロッパ流にLP中心のスタイルに切り換え、ここから同年中になんと!新録を5作(枚数にして6枚)もリリースした。

 また、ヴィヴァ・ラ・ムジカザイコ・ランガ・ランガ、アンピール・バクバといった若手人気グループとも契約を結んで、“フランコ・プレゼンツ”の名でレコードをリリースした。契約にさいし、フランコはオプションとしてかれらに新しい機材とヨーロッパでのコンサートを約束している。

 しかし、ここがいかにもフランコらしいのだが、ザイコにたいしては同時期に他社でもレコーディングしたと難癖をつけ新しい機材の提供を拒否。ペペ・カレ率いるアンピール・バクバにいたってはスタジオに入ることさえ許されなかった。また、ヴィヴァ・ラ・ムジカはメンバーが麻薬所持で逮捕されベルギー政府から国外退去を命ぜられるなど、結局、どのバンドにたいしても約束は十分に果たされなかった。
 「フランコのゴーマン健在なり」をしめす、よくわからんがどこか微笑ましくなるエピソードだ。

 本盤は、VISA1980の第1弾として発売されたLP"VRAIMENT EN COLERE VOL.1" から4曲、同"VOL.2" から1曲、それに84年EDIPOP発売のLP"A L'ANCIENNE BELGIQUE" から1曲の計6曲からなる80年代のTPOKジャズを代表する傑作の1枚である。

 LPでは、タイトルが"VRAIMENT EN COLERE"、つまり『ホントに怒っているゾ』だったが、CDでは、怒りがすこしおさまったとみえて"EN COLERE"『怒っているゾ』)になった。
 ここで気をつけなければいけないのは、『ホントに怒っているゾ』は全2集だったが、CD版の『怒っているゾ』には、ほかに"EN COLERE VOL.1"(AFRICAN/SONODISC CDS 6861)"EN COLERE VOL.2"(AFRICAN/SONODISC CDS 6862)があって全部で3枚リリースされているということだ。それなら、いっそのことVOL.1〜VOL.3でまとめてもらったほうがわかりやすかったのに、そうならないのがいかにも追っつけ仕事のソノディスクらしい。

 ちなみにCD"EN COLERE VOL.1" は、LP"VRAIMENT EN COLERE VOL.2"の3曲と、VISA1980第4弾にあたるダブル・アルバム"LE 24EME ANNIVERSAIRE"(24周年記念って干支を基準にでもしたのか!)の3曲から、"EN COLERE VOL.2" は、第3弾"FRANCO ET LE T.P.O.K.JAZZ A PARIS" の3曲と、"LE 24EME ANNIVERSAIRE" の2曲から構成されている。

 これら3枚はジャケット・デザインがよく似ていてとてもまぎらわしい。バンドがもっとも成熟し完成された時期の録音とされるだけにいずれもよい出来だが、ジャケット同様、どこを切っても金太郎といえなくもない。そんなドングリのせいくらべのなかで、録音状態がもっともよく、フランコ作品が最多の4曲収録されている("VOL.1" はなし、"VOL.2" は2曲)点で、本盤が頭ひとつ分抜きん出ていると思う。

 冒頭の'TOKOMA BA CAMARADE PAMBA' から4曲目の'LOKOBO' まではLP"VRAIMENT EN COLERE VOL.1" を収録順にまるごと収める。3曲目の'OKABOLA SENTIMENT' がジョスキー作であるほかは'TOKOMA BA CAMARADE PAMBA''ARZONI''LOKOBO' はすべてフランコ作品。

 フランコの3作品は、いずれも表面的な派手さこそないが中味がぎっしりと詰まった内容といえる。まず、いぶし銀のようなハスキーでまろやかなギターの音色がいい。この音は技術じゃなくて年輪から来るものだろう。下腹部を心地よく刺激するベースも、耳もとを疾風のように駆け抜けていくハギレよいハイハットも同様にすばらしい。そして、ビロードを敷きつめたような優美なコーラス・ライン。そのなかを枯れた味わいをたたえたフランコのヴォーカルが風のまにまに男っぽいやさしさでクールに語りかけてくる。

 なかでも出色は'ARZONI' 。ギターのシンプルなリフをバックに、コーラスのリフレインとフランコのヴォーカルが延々と掛けあいを演じつづけているだけなのに、この説得力はなんなんだ!?また、つづれ織りのようにキメ細やかでムダがまったくないギター・アンサンブルの美しさよ。リラックスしたなかにもスキといえそうな要素がどこにも見あたらない。まさに“大人のためのルンバ・コンゴレーズ”とでもいいたくなるような円熟の境地。

 これらにくらべると、ジョスキーが書いた'TOKOMA BA CAMARADE PAMBA' は若いだけあってさわやかで快活な印象を受ける。親しみやすいメロディ・ラインと、にぎやかで陽気なセベンがアルバムに彩りを添えている。フランコのヴォーカルがないぶん、重みを欠くものの、しあわせ気分にひたれる12分30秒である。

 LP"VRAIMENT EN COLERE VOL.2"から唯一採られたフランコ作のナンバー'PEUCH DEL SOL' も同様に肩の力の抜けた、しかし中身の濃い演奏内容。ここではコンガがサウンドにふくよかで丸みを帯びた表情を与えている。「サカナ、サカナ」(「おさかな天国」をイメージしないで)を連呼するフランコのいぶし銀のヴォーカルが光る。ただし、サカナを買いたい気分にはなれない。

 本盤の難点をあえてあげるとすれば、ベーシストのデッカが書いた'NDAYA' が収録されていること。本盤唯一のアップテンポなナンバーで演奏内容そのものは悪くないが、この曲がはいったことでアルバムとしての統一感が乱れてしまっている。

 コール・アンド・レスポンスの部分は民俗音楽っぽくもあり、ハイハットが刻むビートなんかはズークっぽく聞こえたりもする。ノリノリでライト感覚のギター、シンセドラムの採用、ホーン・セクションの使い方は全盛期の“ワールド・ミュージック”のオプティミスティックな感覚を思わせる。本当に79〜80年の録音なのだろうか?
 この曲さえなければ満点だったのに、かえすがえす残念だ。それもこれもフランコのせいじゃなくてポリシーなきズサンな選曲をおこなったソノディスクの責任だ。


(12.04.03)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara