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Artist

FRANCO

Title

FRANCO CHANTE "MAMOU" (TU VOIS ?)
1984/1985/1986


mamou
Japanese Title 国内未発売
Date 1983 / 1984
Label SONODISC CDS 6853(FR)
CD Release 1994
Rating ★★★★☆
Availability


Review

 「いまごろ気づきやがったか」とバカにされそうだが、TPOKジャズとは清水次郎長一家のことであった。あの巨躯からして次郎長というより力士くずれの国定忠治といいたいところだが、フランコは忠治のような反逆性を帯びていなかった。やはりフランコには明治維新という激流をたくみに乗りきって明治26年に社会事業家として74歳の生涯をとじた次郎長がふさわしい。

 となると、シマロはさしずめ大政か。小政はジョスキー、大瀬の半五郎はウタ・マイ、増川仙右衛門はンドンベ、法印大五郎はダリエンスト、鬼妙院常五郎はジャト、桶屋の鬼吉はジョー、豚松は‥‥。「清水みなとは鬼よりこわい、大政小政の声がする」。

「おい江戸っ子、胸に手をあててよおく考えてみてくれ、肝心なのをひとり忘れてやしませんか」
「ダァー、客人すまねえ、いの一番に云わなきゃならないひとりを忘れていたよ」 
「だれだいそいつは?」
「フランコ一家、一の子分で、親分とおなじバザイール産のマディル・システムよ」
「呑みねぇ、呑みねぇおい呑みねぇ、おい寿司食いねぇ。江戸ッ子だってねぇ」
「神田の生まれよ」

 みなさん、コイツ、ついに書くのに事欠いてふざけていると思っているでしょう? いえいえ、けっしてそうではありません。83年末、はじめてのアメリカ公演に総勢45名ものメンバーを引き連れていったというエピソードを目にしたとき、「これは荒神山だな」と直感した。荒神山の争いは東海道を名古屋まで収めた清水一家が伊勢路制圧に乗り出した『次郎長伝』の終盤。清水二十八人衆から大政率いる選抜メンバーに兄弟分の吉良の仁吉が加わった完全武装の大集団であった。

 そして、わたしがTPOKジャズは清水一家との確信をいよいよ強くしたのには、森の石松としてのマディル・システムの存在があった。森の石松なくして『清水次郎長伝』を語れないように、マディル・システムなくして晩期TPOKジャズは語れない。

 前稿でふれたように、83年ごろからフランコはシンプルなギター・リフをバックに同じ調子で延々と歌いつづけるというスタイルを完成させた。わたしはこのスタイルをフランコの「ぼやき節」とよんでいる。当初は'TRES FACHE''TRES IMPOLI' のように、フランコの“ぼやき”にたいしてコーラスが合いの手をいれる役割を担っていた。だが、コーラスはおなじリフレインをくり返すにとどまり、フランコの“ぼやき”にいっそう膨らみをもたせるにはツッコミのできる相方の存在が不可欠だった。そこで抜擢されたのがマディルであった。

 その最初の成功例が'NON' であったことは前にふれたとおり。フランコが書く歌詞は、リンガラ語の流麗な響きや演奏の軽やかな調子とはうらはらに相当ドギツイ内容だったから、これを寸劇風の対話形式に仕立てたことは大正解だった。マディルの透明なテノールが清涼剤として音楽に和らぎを与えている。

 84年に発表された'MAMOU' の通称で知られる'TU VOIS?' は、フランコ−マディルの次郎長−石松コンビの魅力が最大限にひき出された傑作といわれている。ストーリーは、子連れ離婚した女性(語り手)が既婚の女友だちマムーにむかって彼女の所業を責め立てるという設定。

 マムーは子どもの教育のため、現在、夫をひとりザイールに残してヨーロッパ暮らし。夫は日に2度電話をかけてくるが、そのスキをねらってマムーは夜な夜なアヴァンチュールに出かけている。このことを女友だちが夫に告げ口しようとしているとマムーは疑っている。「密会のアリバイとしてさんざん利用しておきながら、自分の不貞を棚に上げて、わたしを売春婦よばわりするとはどういう料簡なの!」と彼女はマムーにいい立てる。

 ここでフランコとマディルは女友だちの長い語りをかわるがわる演じてみせる。途中、夫からの電話に何喰わぬ顔で受け答えするマムーの役をベーシストのデッカがつくり声でユーモラスに演じている。ユーモラスななかにもピリリと諷刺を効かせたこの曲は、ザイールのひとたち(なかでも女性)のハートをつよくとらえヒットに結びついた。

 いまや1年の大半をヨーロッパで過ごし、アメリカやイギリスでもコンサートを開くなど世界を視野に収めているフランコではあったが、自分を育ててくれたザイールのひとたちにもこのようにちゃんと目をむけていたのであった。このローカル性が、フランコの音楽が“ワールド・ミュージック”になりきれなかった理由といえ、しかし、そんなところにこそ、かれの音楽の魅力がひそんでいるのだと思う。

 もう1曲のフランコ作品'TEMPS MORT' は、前出の'TU VOIS?' とおなじ84年のLP"TRES IMPOLI"(EDIPOP POP 028)に収録されていたもの。「時は過ぎて」のタイトルのとおり、派手さはないが年輪を感じさせる奥行きのふかい佳曲である。自慢のコーラス・ラインが狂おしいまでの女の恋心を切々と歌う。演歌の世界だな。

 残りの4曲は83年のアルバム"FRANCO PRESENTE JOSKY"(EDIPOP POP 025)を完全収録。タイトルのとおり、ヨーロッパ組のサブリーダー格ジョスキー作品集となっている。フランコの2曲にくらべると、変わりばえのしないオーセンティックなTPOKジャズ・ナンバーがならぶ。といっても、静から動へのドラマチックな展開といい、絶妙なコーラスワークといい、めくるめくギター・アンサンブルといい、ドライヴ感満点のホーン・セクションといい、非の打ちどころのない充実した内容といえる。さすが小政!

 最後にいい忘れたが、この編集盤には発表年が'1984/1985/1986' とクレジットされているが、上にみたように'1983/1984' とするのが正解だと思う。


(12.29.03)



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by Tatsushi Tsukahara