World > Africa > Zimbabwe

Artist

THOMAS MAPFUMO

Title

CHIMURENGA SINGLES 1976-1980


chimrenga singles
Japanese Title

国内未発売

Date 1976-1980
Label SHANACHIE 43066(US)
CD Release 1989
Rating ★★★★★
Availability


Review

 トーマス・マプフーモを生んだアフリカ南東部の国、ジンバブウェは、旧ローデシアとよばれ、人口の70パーセント以上をショナ人、20パーセントをンデベレ人がしめる。1890年に英国が植民地として以来、1980年にジンバブウェとして独立を勝ちとるまで白人による抑圧的な支配体制が続いていた。この間、ショナ人、ンデベレ人らアフリカの民衆は、たび重なる弾圧にもかかわらずショナ語で「解放闘争」を意味する“チムレンガ”を続けてきた。
 
 マプフーモは、70年代前半、ハレルヤ・チキン・ラン・バンドで、マングラの鉱山労働者のリクエストに応えるうちに音楽と詩作の両面においてショナの伝統に直結した“チムレンガ”のスタイルを大胆にとりいれた独自のポップ・ミュージック(チムレンガ・ソングといわれる)を編み出したといわれる。その後、ザ・ブラック・スピリッツ、ザ・パイド・パイパーズ、ジ・アシッド・バンドを経て、78年にザ・ブラックス・アンリミテッドを結成するにいたる。白人支配体制をラディカルに批判し、チムレンガを鼓舞するかれの歌は、放送禁止はもとより投獄される事態にまで及んだが、かれは不屈の精神でチムレンガ・ソングを歌いつづけた。

 解放闘争歌というと「インターナショナル」のような社会主義労働歌をイメージしてしまいがちだが、チムレンガ・ソングはまったくちがう。ンビーラ(親指ピアノ)のフレーズを模したエレキ・ギターに、ホショ(マラカスの一種)のリズムを模したハイハットがハチロク(8分の6拍子)のビートを細かく刻み、その背後をベース・ドラムが2拍子系のツッコミ気味のビートで打ち続けるクールなダンス・ミュージックだ。延々と反復されるポリリズムにまみれるうちに頭がクラクラしてきて陶酔感に陥ってしまう。
 
 そして、なによりも特徴的なのがマプフーモのヴォーカル。リンガラ音楽のオカマチック・ヴォイスとも、南アのマハラティーニの浪花節的なしゃがれヴォイスとも、他のいかなるアフリカのヴォーカル・スタイルともちがう、「ジンバブウェのライオン」というニックネームにふさわしい野性的で野太く地を這うような粘っこい唱法。この粘っこさがバックの乾いたサウンドと絡み合い相乗効果を生んでいる。
 
 じつは、当初、わたしはこの声にかなり拒否反応があった。はじめの出会いは、89年にアイランド系列のレーベル、マンゴからリリースされた"CORRUPTION"(MANGO CCD9848(US))。ハチロク系の曲にはそれなりに感じ入るものがあったが、ムガベ政権の汚職を批判したタイトル曲をはじめ、レゲエ調の曲はあまり肌に合わず、陰気な印象ばかりが残った。それでもキライというほどではなかったので、91年の来日公演にも足を運んだが、終始うつむき加減で歌う態度と、たんなるおおらかな黒人のオバサン風のシンギング・ドーターズのイケてなさも手伝って素直に楽しむことができなかった。

 かくしてわたしは、来日公演を最後に、マプフーモの音楽から長いこと遠ざかることになる。だから、わたしにとっては2枚目のマプフーモ作品となる本盤を買ったのはリリースから何年もあとのこと。
 アシッド・バンド時代の貴重な音源を含む76年から80年までの初期シングル10曲をコンパイルした本盤を聴いて、わたしのマプフーモ観はことごとくくつがえった。ここには本物のンビーラも、キーボードも、女性コーラスも入っていない。ホーン・セクションは味つけ程度に使われているのみで、ギター(1ないし2本)、ベース、ドラムスのシンプルな編成。ハチロク中心の演奏は多少あらけずりだけれども、サウンドがケバ立っていてシャープな切れ味。なかでも息を呑むのがマプフーモのとことんアグレッシブなヴォーカル。ときに吠え、ときにぶっきらぼうに突き放すザラザラした手応えはまさに「ジンバブウェのライオン」にふさわしい。あるいは「黒いボブ・ディラン」とでもいうべきか。
 
 ラストの1曲のみがレゲエ。なんでも80年の独立記念式典に「ジンバブウェ」という曲で解放闘争を支援したボブ・マーレーとウェイラーズが招待され、同じステージでマプフーモとザ・ブラックス・アンリミテッドも演奏したという。このことがきっかけとなってますますレゲエに傾倒していったことは想像に難くない。たしかにヘヴィなメッセージを歌に託してみたり、魂からしぼり出すような暗い情念の炎(ほむら)とか、マプフーモの音楽にはカリブにはめずらしいダウン系サウンド、レゲエと共通するところが多い。マプフーモがレゲエに走ったのも必然だったとは思うのだが、わたしはあまり魅力を感じない。
 
 比較的初期のマプフーモが聴ける音源としては、ほかに"NDANGARIRO"(SHANACHIE 44012(US))"SHUMBA"(EARTHWORKS CDEWV22(US))"THE SINGLES COLLECTION 1977-1986"(ZIMBOB ZIM-7(US))"THE BEST OF THOMAS MAPFUMO: CHIMURENGA FOREVER"(HEMISPHERE7243 8 35582 2 3(US))"THOMAS MAPFUMO COLLECTED: CLASSIC CUTS &RARE TRACKS FROM THE LION OF ZIMBABWE [1978−2002]"(NASCENTE NSCD 087(US))などがある。"NDANGARIRO"を除く4枚はベスト盤。
 "SHUMBA"は、80年のLP"GWINDINGWI RINE SHUMBA"収録の5曲を筆頭に80年代の音源を中心に収録。"THE SINGLES COLLECTION 1977-1986"は、シングル集にふさわしく、リンガラ風あり、レゲエ風あり、ンバカンガ風ありとキャッチーな曲がズラリ並ぶ。全16曲中、70年代の音源が3曲。これらも含め、いい曲はほとんど80年前半までに集中しているのがわかる。残りの2枚は持っていないのでなんともいえないが、本盤"CHIMURENGA SINGLES"の入手がむずかしい現在ではこれら4枚は貴重なベスト盤であるにはちがいない。
 
 本盤と同じ米国シャナキーから91年に発売された"NDANGARIRO"は、ジンバブウェ独立直後にレコーディングされたLPの復刻。ここでも2ギター、ベース、ドラムス、ときおりホーン・セクションが加わる程度のシンプルな編成ながら、マプフーモのヴォーカルはたくましく説得力にあふれていて、バッキングもすこぶるシャープでスリリング。“レゲエ”じゃなくて“ロック”というのがふさわしい。「カッコイイ」というのはこういう音楽に対してむけるべきことばなのだ。
 しかし、こういう表現はヒンシュクかもしれないけど、このひとの風情ってホームレスのおじさんにソックリ。これでバックの家が土壁じゃなくて、ブルーシートだったらまず見分けがつかないだろうなあ。そういえばホームレスのおじさんはレゲエのおじさんっていわれてるし‥‥‥。
 
 これらのほかに、わたしが持っているマプフーモは、"CHAMUNORUWA"(MANGO/ISLAND PSCD-1088(JP))"HONDO"(ZIMBOB TABU13(US) / オルターポップ AFPCD-225(JP))"DREAMS AND SECRETS"(ANONYM ANON 0101(US))の3枚。
 "CORRUPTION"に次いでマンゴから90年(日本発売は来日記念盤として91年発売)に発売された"CHAMUNORUWA"では、本物のンビーラとホショが使われ、音の感じがずいぶんとなめらかになった。初期のころのトゲトゲしさはなくなり、全体におおらかな印象。マプフーモも円熟の境地に入ったというところか。レゲエ調がないところもいい。
 "CHAMUNORUWA"の売上げが思わしくなかったのか、メジャー・レーベル、マンゴとの契約を解除され、ジンボブという米国のレーベルからリリースされた新作が"HONDO"。ンビーラを3台にしてより伝統に近づいた前半は、まさに枯淡の境地。ところが、後半になるとホーン・セクションも加わり、一気にポップになってしまってちょっと興ざめ。悪い出来ではないがアルバムとしてまとまりが感じられない。
 
 ロフト・ジャズの旗手であったトランペッター、レオ・スミスとの異色の顔合わせで2001年にリリースされたのが"DREAMS AND SECRETS"。最近のレオ・スミスの活動はまったく知らないが、むかしは好きなミュージシャンのひとりだっただけに期待に胸を膨らませて聴いてみると「なんじゃい!」というシロモノ。エレクトリック期のマイルス、ザッパ、もしくはジャズ寄りのプログレにつうじるクールさで覆われていて、それなりに完成度は高いと思うのだが、音楽が分離していて、ふたりがコラボレートする必然性が感じられない。これならシカゴ音響派の音楽でも聴いたほうがマシ。


(1.31.02)



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by Tatsushi Tsukahara