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Artist

DR SIR WARRIOR AND THE ORIENTAL BROTHERS INTERNATIONAL

Title

HEAVY ON THE HIGHLIFE!


heavy on the highlife
Japanese Title 国内未発売
Date 1973/1974/1984/1987/1988
Label ORIGINAL MUSIC OMCD012(US)
CD Release 1990
Rating ★★★★★
Availability


Review

 オリエンタル・ブラザーズ・インターナショナル・バンド(以後オリエンタル・ブラザーズ)は、イボ人が多く住むナイジェリア東部のイモ州オウェリ(サッカー・ナイジェリア代表のカヌの出身地)でダン・サッチ、ウォーリアー、ゴッドウィン・カバカのオパラ3兄弟を中心に結成された。首都レゴスがある西部では多数派のヨルバ人がはじめたジュジュ、アパラ、フジなどの音楽がさかんだが、東部ではシエラ・レオーネ、ガーナから伝わったハイライフが影響力を持っている。
 
 60年代後半に結成され、70年代前半にレコード・デビューを果たしたかれらは、ギター中心のゴリゴリ押しまくるスピーディなハイライフ・サウンドでたちまち人気を得た。2本のギターとベースが絡みあい連綿とつづくギター・スタイルにはルンバ・コンゴレーズからの影響が認められるものの、「エレガント」と形容される本家とはちがい、音はもっと硬質で角張っていて男くさい。また、それぞれの楽器が異なる調で演奏されるいわゆる多調(ポリトーナル)音楽である。トーキング・ドラムが活躍するヨルバ系の音楽ほどの弾力性はないが、イボの伝統的なリズムをとりいれたコンガ、クラベス、マラカス、ドラム・キットなどが叩き出すビートは複雑かつヘヴィ。叫びにも似た野性味あふれるヴォーカルからは男のフェロモンがジュルジュルとほとばしる。
 
 勘ぐりかも知れないが、かれらの演奏を聴いていると、北部のハウサ人の支配にたいし東部州イボ人が分離独立を求めて67年から70年まで闘ったビアフラ戦争の影を見てしまう。ゴツゴツとした男らしさの裏には民族の悲痛な叫びが潜んでいるかのようにも聞こえる。だからかどうか、ルンバ・コンゴレーズようにはウキウキしてこないし、ジュジュのようにクラクラしてくることもない。あえていえばジンバブウェのブンドゥ・ボーイズのジット・サウンドのように、ストレートに音が胸に突き刺さってくるのだ。
 
 70年代後半から1曲の演奏時間が15分以上にもおよぶこともザラになるが、コンゴのザイコ・ランガ・ランガのように、前半はヴォーカル・パート、後半はダンス・パートとはっきり分かれているのではなく、最初から最後までヴォーカルと演奏が同じ調子で延々とつづく。ワン・パターンといってしまえばそのとおりだが、それでも飽きが来ないのは、小細工はいっさい弄せずつねに全力投球だからだ。
 
 ところが人気絶頂の77年、グループのリーダー格だったゴッドウィン・カバカが脱退、カバカ・インターナショナル・ギター・バンドを結成するに及んで、以後、グループの内部分裂がはじまる。80年には、ダン・サッチとともにバンドを引っ張ってきたカリスマ的ヴォーカリスト、ウォーリアーが脱退しドクター・サー・ウォーリアー&(オリジナル)オリエンタル・ブラザーズを結成。ここに2つの(カバカのグループも含めると3つの)オリエンタル・ブラザーズが出現することになった。持明院統と大覚寺統との両統迭立(てつりつ)からはじまった南北朝時代を想像したくなるような事態だ。
 また離合集散があいついだ南北朝の歴史に似て、87年と96年の2度にわたり、ダン・サッチ、ウォーリアー、ゴッドウィン・カバカ兄弟が集まって、つまり一時的に南北朝統一がなって、オリエンタル・ブラザーズとしてアルバムを発表したり、同じオウェリ出身者によるオリジナル・ブラザーズなる偽王朝が興されたりというように一筋縄ではいかない複雑な構図である。
 
 古くは北畠親房の『神皇正統記』、江戸時代には水戸光圀の『大日本史』、そして明治期の皇国史観と、つねに論議の的になった「南北朝正閏(せいけい)問題」ではないが、ジョン・ストーム・ロバーツ主宰のレーベル、オリジナル・ミュージックからリリースされたオリエンタル・ブラザーズ関連の2枚もその「歴史解釈」をめぐる混乱から厳密性を欠いたものになっている。
 
 "HEAVY ON THE HIGHLIFE!"のタイトルにふさわしい、ダン・サッチの男っぽい勇姿を大写しにしたジャケット・デザインがヤケにカッコいいカバー(ちなみにバックカバーはウォーリアー。じゃがたらの江戸アケミみたいでこれまたカッコいい!)には、'NIGERIA'S DR SIR WARRIOR AND HIS ORIENTAL BROTHERS INTERNATIONAL'と表記されているが、じっさいの内容はつぎのとおりである。
 73、74年の3曲(各約4分)はゴッドウィン・カバカをリーダーとするオリエンタル・ブラザーズ、84年の1曲(約18分)はウォーリアー脱退後のダン・サッチをリーダーとするオリエンタル・ブラザーズ(ダン・サッチ・オパラとのみ表記)、87年(約18分)の1曲はダン・サッチ、ウォーリアー、ゴッドウィン・カバカが再結集したオリエンタル・ブラザーズ、88年の1曲(約18分)はドクター・サー・ウォーリアー&ヒズ・オリエンタル・ブラザーズ(ドクター・サー・ウォーリアーとのみ表記)の演奏である。
 
 つまり、オリジナル・ミュージックは、3兄弟がそろった形態のみに“オリエンタル・ブラザーズ”の名称を冠し、これを“正統”とし、その他についてはすべて“分派”と解釈することで、このやっかいな「正閏問題」をのりきろうとした。
 それならば、フロントにドクター・サー・ウォーリアーと表記するのはまちがいであるはずなのに、あえてそうしたのはたんにウォーリアーのネーム・ヴァリューの高さを利用したに過ぎないのではないか。
 
 同じようなことがもう1枚のオリジナル・ミュージック盤GODWIN KABAKA OPARA'S ORIENTAL BROTHERS INTERNATIONAL / "DO BETTER IF YOU CAN"(ORIGINAL MUSIC OMCD034(US))にもいえるわけで、ほんらいならばKABAKA INTERNATIONAL GUITAR BANDとすべきところを“オリエンタル・ブラザーズ”としたのは、ブランド効果をねらっての判断と思われる。
 
 このようなことがまかりとおってしまうのは、だれの名義のどんなバンドであろうがなかろうがみんな似たり寄ったりのサウンドだからだ。でも聴き込むつけ、徐々にちがいがわかってくる。
 オリエンタル・ブラザーズのサウンドは、メロディ自体はとてもシンプルで、基本的にこれを延々とくり返しているだけだから、楽曲の出来不出来はヴォーカルの表現力にかかっているといっていいと思う。70年代の3曲ではコーラスが主体で、これはこれで多少荒削りながらいい味出している。ゴッドウィン・カバカ脱退後は、メイン・ヴォーカルをウォーリアーひとりにしぼり、かれの個性を前面に押し出したバンド・カラーをつくった。ウォーリアー自身のバンドはいうまでもなく、再編オリエンタル・ブラザーズにおいても基本的にこのスタイルを踏襲している。だから、ヴォーカルにウォーリアーを欠いたダン・サッチのオリエンタル・ブラザーズのみが、曲自体は悪くないのに、どうしても単調に感じられてしまうのはやむをえないかもしれない。
 
 残念ながら、現在、本盤の入手はむずかしいが、かれらのCDは、ほかにもカバカ・ゴッドウィンやウォーリアー名義を除けば、つぎの5枚が入手できる。
 (1) "VINTAGE HITS VOLUME1"(AFRODISIA DWACD001(Nigeria))、(2) "VINTAGE HITS VOLUME2"(同 DWACD002)、(3) "NWA ADA DI NMA"(同 DWACD003)、(4) "NWA ADA DI NMA"(FLAME TREE FLTRCD527(UK))、(5) "ORIENTAL GE EBI"(SONTEC DIGITAL SON38CD(Nigeria))
 
 (1)〜(4)は、(3)収録の'OBI NWANNE' を除いて、いずれも70年代の録音。英国盤でもっとも入手しやすい(4)は、(3)と同一内容だが'OBI NWANNE' は未収録。(5)は、再々結成された96年のアルバムのCD復刻(本盤の1曲は87年の再結成時)で、シンセも加わり音がすこし軟弱になっている。ダン・サッチの単独リーダーによる演奏は本盤収録の1曲を除いては復刻されていないようだ。70年代の録音はいずれも甲乙つけ難いが、あえて薦めるなら(3)あたりだろうか。

 また、ウォーリアー名義による "VINTAGE HITS VOLUME1"(AFRODISIA DWALCD004(Nigeria))"VINTAGE HITS VOLUME2"(同 DWACD005)"OFE OWERRI"(CD WORLD/SONTEC SON37CD(Nigeria))の3枚もできれば押さえておきたいところ。
 前の2枚は80年代の録音からの復刻で、キーボードが加わり、初期のころよりリンガラ音楽に接近し質感がマイルドになってはいるのだけれど、ウォーリアーのヴォーカルは男っぽさにますます磨きがかかりたまりません。
 "OFE OWERRI"は94年発売の同タイトルのCD復刻で、'DR. SIR' の前に、ついに'ULTIMATE' の称号までついた。なのに、なぜか 'WARRIOR' を 'WORRIOR' と誤植しているのはご愛嬌。すっかりやつれ果てたウォーリアーの姿が象徴するように、声の衰えはさすがに隠せない。


(4.11.03)



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by Tatsushi Tsukahara