World > Latin America > Caribe > Puerto Rico

Artist

CORTIJO Y SU COMBO

Title

CORTIJO Y SU COMBO VOL.2


virginia
Japanese Title ダンス・ウィズ・コルティーホ
Date 1956 or 1957
Label SEECO CD-135(US) / ボンバBOM102(JP)
CD Release 1989
Rating ★★★★★
Availability


Review

 プエルト・リコの音楽といえば、旧い世代のひとたちにとっては、ダニエル・サントスのようなしっとりしたボレーロのイメージだったろうが、サルサを通過したわたしらの世代は、なんといってもコルティーホだ。

 89年に、本盤がボンバを通じて国内発売されたのを皮切りに、同年中にPヴァインから『エン・ニューヨーク』(PCD-2142)『フィエスタ・ボリクア』(PCD-2230)『ブエノ、イ・ケ…?』(PCD-2231)『キタテ・デ・ラ・ビア、ペリーコ』(PCD-2145)の4枚(LPとしては5枚目にあたる『デンジャー』はボーナス・トラックとして『フィエスタ・ボリクア』『ブエノ、イ・ケ…?』に分けて全曲収録)が立て続けに発売され、アルセニオ・ロドリゲスとともに、コルティーホの音楽を再評価する気運が高まった。

 91年には、ボンバから『エル・ボンボン・デ・エレーナ』(ボンバ BOM2027)、Pヴァインから『コルティーホ&ヒズ・タイム・マシーン』(Pヴァイン UPCD-36)『コルティーホ・イ・ス・ヌエボ・コンボ/チャンピオンズ』(同 UPCD-37)の3枚が、さらに、COCO原盤を"ISMAEL RIVERA/SONERO#1"としてCD化したのを国内配給した『イスマエル・リベーラ、ココに甦る』(同 UPCD-514)まで含めると全部で9枚も国内発売されたわけだ。

 最後の3枚は73〜74年の晩年近い録音。熱くファンキーな『タイム・マシーン』は、コルティーホの全アルバム中、もっとも現代性が高く、ブラック・ミュージック・ファンにもおすすめしたいアルバム。『チャンピオンズ』は、20歳前後のフェイ・コルティーホ嬢のキュートなヴォーカルをフィーチャーし、当時人気沸騰中のサルサを意識したつくりになっている。そして、名ヴォーカリスト、イスマエル・リベーラとのひさびさの再会による『ココに甦る』は、往年の二人のヒット・ナンバーをリメイクしたもの。ギラギラしていた50、60年代の全盛期からすると、さすがにおとなしく感じられるものの、年輪を重ねたリベーラの枯れた味わいもまた格別。ただし、オリジナルを知っているのと知らないのとでは感じ方がかなりちがうと思う。

 ところで、Pヴァインから出た最初の4枚(LPで5枚分)は、50年代末から60年代はじめのルンバ原盤からの復刻だったが、本盤は『エル・ボンボン・デ・エレーナ』とほぼ同時期の56、7年ごろにシーコに残した最初期の録音集。『エル・ボンボン・デ・エレーナ』から、62年にコルティーホとイスマエール・リベーラが麻薬所持で逮捕される直前の『キタテ・デ・ラ・ビア、ペリーコ』までの6枚は、かれらがもっとも脂がのっていた時期とされるだけに、いずれのアルバムもクオリティがおそろしく高い。

 キューバ音楽とくらべると、ダンサブルであることをひたすら追求した、はなやかでおおらかな演奏である。プエルト・リコ特産のリズムであるボンバやプレーナを中心に据えながら、ソン・モントゥーノ、グァグァンコー、チャチャチャ、マンボ、メレンゲ等々、リズムやスタイルをとびこえて踊れるものならなんでも呑み込んでしまう柔軟性は、のちのサルサの精神につうじる。コルティーホとリベーラが収監中にピアノのラファエル・エティエールを中心に残党たちで結成されたエル・グラン・コンボが、サルサを代表するグループになったのが、なによりもの証しだ。都会育ちのソフィスティケートされたサルサにくらべれば、コルティーホの音楽はずっと泥臭く、その黒光りするエネルギーのほとばしりの奥には、プエルト・リコ的なセンティメントがつよく感じられる。

 ボンバやプレーナの跳ね上がるようなリズムを武器に、グイグイと煽っていくこの爆発的なノリは、パーカッションのラファエル・コルティーホとヴォーカルのイスマエール・リベーラの鉄壁のコンビにしてはじめて可能になった。
 それにしてもリベーラのはちきれんばかりの濃厚でコクのあるヴォーカルのすばらしさはなんだ!『デンジャー』にゲスト参加している元ベニー・モレー楽団のロランド・ラセリエのヴォーカルと比較すれば、そのちがいは歴然!さらには、脳天を突き抜けるようなナンセンスすれすれの男性のウラ声によるコーラスもド肝を抜く。もちろん、狂喜乱舞するリズム陣と分厚いホーンも絶好調。

 ボンバが炸裂する'EL NEGRO BEMBON' 'ALEGRIA Y BOMBA' がいきなり脳天を直撃したかと思うと、続くプレーナの'DEJALO QUE SUBA' ではグィロで脳ミソをグリグリとかきまわされる。あとはどうにでもなれで全力疾走の全18曲計51分25秒。なかには、マンボ、グァラーチャ、チャチャチャ、メレンゲ、カリプソも混ざっているが、すべて自分たちのカラーに染め抜いてしまっているところがスゴイ。

 コルティーホ楽団57年の初ヒット曲「エレーナのボンボン」をアルバム・タイトルとした『エル・ボンボン・デ・エレーナ』も、イスマエルが歌った前半の10曲までは本盤に負けず劣らずすばらしい内容。しかし、11曲目以降の4曲ではコロンビア出身のネルソン・ピネードが、15曲目からの4曲は楽団のパーカッションとコーラスをつとめたロイ・ロサリオがリード・ヴォーカルをとっていて、音楽のボルテージがガタンと落ちてしまう。前半の10曲は文句なく★★★★★だが、後半は★★★☆というのが妥当な線か。

 ルンバ・レーベルに移ってから、アルバムを重ねるにつれ、サウンドがすっきりとまとまってきて、本盤で聴かれるような圧倒的な爆発力はすこしずつではあるが後退してくる。それでも、他の追随を許さぬグルーヴは健在。ルンバ盤のなかでは、最初の『エン・ニューヨーク』の評価が高いが、個人的にはプエルト・リコ的なカラーのもっともよく出た『フィエスタ・ボリクア』が好き。

 ちなみに、『フィエスタ・ボリクア』『キタテ・デ・ラ・ビア、ペリーコ』にボーナス・トラックとして、最近、井上陽水がリメイクした「コーヒー・ルンバ」'MOLIENDO CAFE'が収められている。ルンバ盤では5枚目にあたる『デンジャー』収録のこの曲は、西田佐知子「コーヒー・ルンバ」、インドネシアのチャンプルーDKI久保田麻琴プロデュース)の「コーヒー・ダンドゥット」とともに、味・風味・コクの点で世界3大「コーヒー・ルンバ」に挙げたいと思います。

 ついでに番外編として、アルジェリアのトランペッターで“ライの父”といわれるベルムー・メサウドが、「コーヒー・ルンバ」のメロディをパクった'ORIENT DE LUXE'という曲を挙げておきましょう。しかも、ごていねいにもオリジナルのベネズエラ版でアルパという小型のハープが使われていたのをシンセでそっくりマネている念の入れよう。笑えます。このライ版「コーヒー・ルンバ」は、ドイツのレーベル、ピラーニャからリリースされたアラブ系音楽のコンピレーション"HEIMATKLANGE VOL.2 : ORIENT DE LUXE"(PIRANHA PIR 33 CD(DE))で聴ける。


(12.22.01)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara