World > Latin America > Caribe > Cuba | ||||||||||||||||
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Artist | ||||||||||||||||
SILVESTRE MENDEZ |
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Title | ||||||||||||||||
ORIZA |
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Review |
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シルベストレ・メンデスなんて、マイナーなひとのアルバムがCD化されたのは、あとにもさきにも日本で発売されたこの1枚きりだろう。これもひとえに中村とうよう氏の強力なプッシュがあったればこそ。事実、'SILVESTRE MENDEZ'で海外のサイトを検索してみても、まともな情報は得られなかった。また、CDのライナー・ノーツにしたところで、アフリカ起源の神であるオリーサとその信仰形態について延々と解説されてはいるものの、肝心のシルベストレのバイオグラフィにはひとこともふれられていないありさま。そんなわけで、オーディブックの『キューバ音楽入門』での中村氏の解説のみが、シルベストレについての数少ない情報源となった。 それによると、シルベストレは、その音楽的異端さから本国キューバでは認められず、かなり早い時期(大戦前後ぐらいか?)にメキシコに移り住んで活動していたらしい。 オリーサ、チャンゴー、ジェマヤ、ババといったアフリカ起源の神様の名まえがよくタイトルに使われていることから民俗音楽っぽいものを想像したくなる。キューバには、ナイジェリアのヨルバ系の文化が色濃く残っていて、シルベストレはヨルバ系(ルクミーといわれる)の文化や宗教(サンテーリア)の儀礼から音楽のヒントを得ていることはまちがいない。しかし、それらはあくまでもエッセンスの範囲内にとどまっており、ベースにあるのは底抜けに陽気でおおらかなアフロ・キューバン音楽である。 したがって、同じように声とパーカッションとのコール・アンド・レスポンスが主体でも、本場ナイジェリアのポピュラー音楽である“フジ”のような泥臭さやスリリングさからは縁遠い。むしろ、キューバに住むお金持ちの白人女性マルガリータ・レクォーナが作曲した「タブー」や「ババルー」に似て、白人(敷いては西欧経由でアフリカン・カルチャーにふれたわたしたち東洋人)がイメージしやすいアフリカをストレートに表現したというべきか。 だからといって、ニセモノだとして一蹴するのはまちがいで、これはこれで十分に黒いしファンキーだと思う。そもそもアフリカ直系の音楽がかならずしもわたしたちが“黒い”と感じるサウンドとイコールだとはいえないのではなかろうか。“黒い”とする感受性の奥にはおそらくアメリカ合衆国の黒人音楽があって、それだってさまざまな出自の文化がブレンドされて生まれた雑種音楽である。してみれば、シルベストレの音楽に“黒っぽさ”と“まがいものくささ”とが共存していたからってなんの不思議もないはず。 キューバでは黙殺されたに等しかったシルベストレだったが、45年にメキシコへ渡って来たベニー・モレーが、数年あとにメキシコへ来たペレス・プラード楽団と共演した歴史的なセッションのなかで、かれの作品'TOCINETA' をとりあげている(BENY MORE WITH PEREZ PRADO AND HIS ORCHESTRA "EL BARBALA DEL RITMO" TUMBAO TCD-010(CH),1992)。50年前後のキューバ音楽の主流からはみ出してしまった3者が、メキシコにおいて奇跡的な出会いを果たしたというのはすこし大げさだろうか。 さらに、シルベストレの作品は意外なところでカヴァーされている。それは、黒っぽいボンバやプレーナなどで知られるプエルト・リコ出身の楽団、コルティーホ・イ・ス・コンボが名作『フィエスタ・ボリクア』(Pヴァイン PCD-2230(JP),1989)の1曲目にかれの作品'NUEVA ORIZA'(ここではたんに'ORIZA' と記載)をとりあげているのだ。このアルバムは、50年代の終わりから60年代はじめあたりまでの録音と思われることから、シルベストレのアルバムが発売されて、さほど日が経っていない時期のカヴァーということになる。考えてみれば、ストイックな傾向のあるキューバ音楽よりも、自由な発想と旺盛な消化力を持つという面でコルティーホの音楽のほうがシルベストレにずっと近いところにいたような気がする。 いい忘れたが、シルベストレのヴォーカルは、お世辞にもうまいとはいえないが、コルティーホ楽団のイスマエール・リベーラに似たトボけた味わいがあって心がなごむ。 |
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(6.24.02) |
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