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Artist | ||||||||||||||
西田佐知子 |
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Title | ||||||||||||||
アーリー・デイズ |
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Review |
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現・関口宏夫人による大ヒット曲「コーヒー・ルンバ」と「アカシアの雨がやむとき」を含む21〜23歳にかけての初期録音集。 声質は雪村いづみに近い感じだが、メランコリーを含んだウィスパー・ヴォイスは可憐で切なげ。歌がヘタではないが、雪村にくらべて、声量もリズム感も表現力も劣っているせいか、ラテン系の歌でもミディアム・テンポ以下のゆったりした曲が中心。 クラベスの5つ打ち(シンキージョ)とマイナー調のエレキ・ギターがもの悲しく響く「コーヒー・ルンバ」は、「みんな陽気に飲んで踊ろう」の歌詞とはうらはらの、愁いを含んだ彼女のクールな唱法がもっともよく生きた名唱といえる。 原曲は、ベネズエラのアルパ(小型のハープ)奏者、ウーゴ・ブランコによる61年のヒット曲。だが、わたしにとってはプエルト・リコのコルティーホ・イ・ス・コンボによる'MOLIENDO CAFE'のインパクトが大きい。そこではトロピカル・ムードいっぱいの陽気な演奏であったが、日本人の好みに合わせてこのように哀愁をかき立てるような音楽に生まれ変わった。クラベスが冬の夜のしじまに寂しく鳴り響く「火の用心」の拍子木の音に聞こえてしまうのだから不思議だ。日本人ばなれしていた浜村美智子や渡辺マリとちがって、日本人らしい日本人が歌うラテン・ムード歌謡とでもいうべきだろう。 ほかにも、「悲しきブルース」、「ジャンガデイロの歌」、「南国の夜」など、夜にグラスを傾けながら独りで聴くためにあるようなムーディなラテン歌謡が続く。なかには、セリア・クルースとラ・ソノーラ・マタンセーラの大ヒット曲で、森山加代子が歌ってヒットした「月影のキューバ」のような明るい曲もあるが、後味はなぜかいつもさびしい。乙女の恋心や希望は、彼女の口をつうじて発せられた途端、ペシミスティックな結末を用意してしまう。だから悲しい。だからさびしい。いまや死語となった「アンニュイ」ということばが彼女ためにあったのかとさえ思いたくなる。 ただ、「アカシアの雨がやむとき」や「信じていればこそ」のような演歌っぽいフレイヴァーが混入したムード歌謡になると、しょせん叶わぬ恋とはいえ、どうにか成就できないものかという未練のようなものが見え隠れしてしまう。でも、これはわたしが愛する西田の世界ではない。 彼女の声のペシミズムには、後悔すべき過去や目指すべき未来はない。仮に過去や未来があったとしても、目標達成のための意欲や行動があらかじめ放棄されているので、尾を引きようがないクールなペシミズムといえよう。 |
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(8.31.02) |
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