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Artist

LAS CHICAS DEL CAN

Title

JUANA LA CUBANA


las chicas
Japanese Title フアナ・ラ・クバーナ〜ベスト
Date 1986-1989
Label ボンバ BOM2008(JP)
CD Release 1990
Rating ★★★☆
Availability


Review

 ドミニカ共和国のメレンゲをパン・カリビアンの視点からワールド・ミュージックの域にまで高めた怪人ウィルフリード・バルガスは、みずからの音楽活動のかたわら、80年代半ばごろから、“ニューヨーク・バンド”や“アルタミラ・バンダ・ショウ”といった生きのいい新人グループの発掘に精を出していた。かれのプロデュースでもっとも成功した例が、世界初の女の子だけのメレンゲ・グループ、“ラス・チカス・デル・カン”である。

 ヴォーカルはいうに及ばす、グィラ、タンボーラといったパーカッション類からキーボードやホーン・セクションまで、ぜ〜んぶかわいいお色気満点のオネーちゃん軍団である。メンバーがコロコロ代わっているところからして、いかにも企画先行型のグループで、よく“つんく”と“モ娘。”の関係にたとえられるけど、すべて自分たちで演奏しているからエライ。

 わたしは90年ぐらいに日比谷の野音でやった「FUJITSUカリビアン・フェスティバル」(だったかな?)で彼女たちのナマを見たが、はじけるような元気さで一生懸命に演奏する姿が、天真爛漫でとても愛らしかった。ラテン系だから格好はけっこうハデなんだが、イヤラシサがまったくなく、カラッとした健康なお色気にあふれていた。

 なかでも、牝ジカのような顔をした姉御肌のマリア・テレス・ドミンゲスが、トニー谷の算盤プレイのように変幻自在にグィラを操って、グループをグイグイと引っぱっていたのが印象に残った。

 しかし、いちばんのお気に入りは、声もルックスもロリっぽくてキュートなリード・ヴォーカルのミリアム・クルース。猫っかぶりとか、カマトトぶってるなんて、同性からは反発も買いそうだが、彼女のコケットリーはそうそうマネできない天性の才能だと思う。“モ娘。”でいえば、演技とのウワサしきりの“辻”ではなく“加護”に近いものを感じる。その後、彼女を含めたメンバーが総入れ替えになったと聞いて、ラス・チカスへのわたしの熱も一気に失せてしまった。

 ちなみにミリアムは、ラス・チカス・デル・カンを脱退後、ソロ・デビューし、93年にはミリアムとラス・チカス(まぎらわしいグループ名!)でアルバムMIRIAM Y LAS CHICAS / "NUEVA VIDA"(KAREN CDK-151(US))を発表している。メンバーにはラス・チカス・デル・カン時代の仲間が数多く名を連ねているが、ウィルフリードの名まえはもちろんどこにも見当たらない。ラス・チカス・デル・カン時代(何度もいうがまぎらわしい!)とはちがい、大人になったミリアムのしっとりした味わいが魅力の好盤である。

 いま、こうして本当に何年かぶりに彼女たちの音楽を聴いてみて思ったのは「結構やるじゃん!」ってこと。86年から89年にソノトーンからリリースされた4枚のオリジナル・アルバムをもとに日本独自に選曲したこのベスト・アルバムは、まさにこの時期のウィルフリード本人の音楽そのままに疾走感と爆発力が横溢していて、彼女たちが凡百のアイドル・グループでなかったことを証明している。すくなくとも、いまのウィルフリードよりは100倍いい。

 ストレートなハイ・スピード・メレンゲもメリハリがあって最高だけど、アルバムのタイトルにもなった彼女たちのヒット曲「フアナ・ラ・クバーナ」'JUANA LA CUBANA'でのマンボを思わせるタメのあるパン・カリブなビート感がたまらない。しかも、それらをすこしもこむずかしいものと感じさせず、サラッとやってのけてしまうところがいい。

 ほかにも、ウィルフリードならではのヒトクセもフタクセもある歌謡メレンゲ的展開がかっこいい「私の司令官」'MI GENERAL'や、「フエーゴッ、フエーゴッ」の大合唱がむちゃくちゃかわいいノリノリの「ワタシに火をつけて」'PEGANDO FUEGO'など、聴きどころ満載。また、「私を食べちゃって」'CIMEME'とか、「私、がんばる!」'TENGO GANAS DE VIVIR'なんて歌も、ちっともイヤミに感じないのは彼女たちの実力のなせるワザだろう。
 さらに、アコーディオンまで入れて、泣きのツボを押さえたミリアムのコブシまわしがほほえましい「ランバダ」やオリビア・ニュートン・ジョンの「ジョリーン」もカヴァーしているがオリジナルよりいいんじゃないの。
 ラス・チカスの成功は、数あるラテン音楽のなかでもメレンゲであったればこそのものだったことはまちがいない。


(6.5.02)



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by Tatsushi Tsukahara