時事ニュース


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「ヒトのES・iPS→「ミニ腸」」

「生育医療研など成功」

(平成29年1月13日「朝日新聞」1 面より)(無断転載禁止)

  ヒトのES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞から、大きさ1センチ程度の腸をつくり、栄養吸収などの働きを確認することに国立成育医療研究センターなどのグループが成功した。上皮や筋肉、神経などの細胞が連携して機能するようすを確認したのは初めてという。12日付けの米臨床研究学会誌電子版に発表した。

小腸は食べたものから栄養を吸収し、老廃物として送りだす一方、免疫の働きを備えている。ES細胞やiPS細胞から吸収する上皮部分はつくられていたが筋肉や神経の細胞が関係する腸の運動は再現できていなかった。

グループは、細胞が組織として立体的に育つように微細な円形の接着面を格子状にした培養皿にヒトのES細胞を置き、成長を促す複数のタンパク質を加えて培養した。1カ月後には円柱状の組織が800個ほどできた。さらに1カ月間培養してできた「ミニ腸」を調べると、吸縮して食物を送り出す「蠕動運動」のような動きが見られ、たんぱく質を吸収する働きも確認した。ヒトのiPS細胞からも同じような組織の作製に成功した。

ただ、できた組織に血管や免疫機能を担うリンパ節はできていなかった。同センター研究所の阿久津英憲・生殖医療研究部長は「まずは薬の評価などに利用したい。患者のiPS細胞で腸を作って病気の仕組みを解明しながら、移植への応用を考えたい」と話す。臨床応用までに10年程度を見込む。  (この項 終わり)

 
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「プラズマ当てた点滴 がんに効果」

「卵巣や脳腫瘍 名大、マウスで確認」

(平成28年11月1日「朝日新聞」社会面より)(無断転載禁止)

  名古屋大学の研究チームが、プラズマを使って脳腫瘍や卵巣がんを小さくする治療法を開発した。治療の難しいがんの治療法開発につながるという。研究成果が31日付の英科学誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に掲載された。

 プラズマは、電気を帯びたガスで、イオンや電子、光などの粒子からなる。やけどの治療や止血など医療への応用が研究されている。

 名大病院先端医療・臨床研究支援センターの水野正明病院教授らの研究グループは、体液の補充などに使う点滴「乳酸リンゲル液」にプラズマを照射。それを脳腫瘍や卵巣がんのがん細胞を移植したマウスに注射すると、少なくとも30%以上がん細胞を縮小させる効果があったという。点滴に含まれる乳酸ナトリウムの構造の一部が、プラズマを当てたことで変化し、がん細胞に効いたとみている。

 がん細胞が腹の中や脳の髄液などに散らばる播種性のがんでは、手術や放射線、抗がん剤など従来の方法では治療が難しい。プラズマを当てた点滴は「第4の治療法」として期待される。水野病院教授は「点滴薬でプラズマの効果を示したことで、臨床応用も視野に入った」と話している。 (この項 終わり)

 
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「ツバメ 10カ月着地せず飛行」

「欧州〜アフリカ 鳥類で最長」

(平成28年10月31日「朝日新聞」夕刊社会面より)(無断転載禁止)

  夏の欧州に飛来する渡り鳥ヨーロッパアマツバメが、約10カ月間にわたり一度も着地せずに越冬地のアフリカとの間を往復していることがわかった。スウェーデン・ルンド大の研究チームが、飛行状況を記録できる小型装置を鳥の身体に取り付けて確かめた。鳥類の連続飛行記録としては最長とみられるという。

 米化学誌カレント・バイオロジー電子版に発表した。ヨーロッパアマツバメは、全長20センチほどで、春先に欧州などに渡って巣を作り、秋以降はアフリカのサハラ砂漠以南で冬を越す。飛ぶのに適した流線型の体系で、ヒナを育てる約2カ月間以外は食事も空中で昆虫を捕まえて済ますなど、生活の多くを飛びながら過ごすことで知られた。

 2013〜14年にスウェーデンに飛来した計47羽を捕獲し、背中に飛行状況を記録できる装置(約1グラム)を装着。翌年以降に戻ってきた13羽の記録を分析したところ、越冬地のアフリカを往復する約10カ月間のうち99,5%以上の時間を空中で過ごしていた。一度も着地しなかった個体も複数いたという。夜明けごろ数キロ上空まで上昇して滑空する習性があり、その際に眠っている可能性があるという。(この項 終わり)

 
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「花粉症 コメ食べて治せる?」

「遺伝子組み換え アレルギーを抑制 来月から臨床研究」

(平成28年10月25日「朝日新聞」総合3面より)(無断転載禁止)

  スギ花粉の成分を含んだ特殊なコメを食べて、花粉症の治療につなげる臨床研究を、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター(大阪府羽曳野市)などが11月から始める。うまくいけば、コメを食べるだけで根治できる可能性がある。

 スギ花粉による花粉症は、日本人の約4人に1人と推計されている。スギ花粉に含まれ、花粉症の原因となる物質を少量だけ口に含んだり、注射したりして症状を抑える治療法があるが、3〜5年かかる。

 臨床研究では、原因物質の目印となる部分が米粒の中から作られるように遺伝子を組み替えた「花粉症緩和米」を使う。農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)が開発し、隔離して栽培している。

 コメは、日本人に身近な上、胃で分解されずに腸まで届くたんぱく質を含んでいる。花粉症の人が毎日食べ、この目印が腸に吸収されるうちに、体内の免疫機能がこの目印に慣れて、過剰に反応しなくなると考えられている。原因物質そのものは含まれていないため、強いアレルギー症状は出ないとされる。

 2012〜14年、東京慈恵医大で花粉症の患者らにこの米を食べてもらったところ、症状は改善する傾向にあったが、効果ははっきりしなかった。このコメによる副作用が出た人はいなかった。

 今回の研究では花粉症の10人に約1年間、このコメを毎日5グラム、普通のコメに混ぜて食べてもらい、血液検査でスギ花粉に反応する抗体の量を見る。このほか3グループ各15人に約半年間、このコメと普通のコメを計50グラム、割合を変えて食べてもらい、効き目を比べる。研究チームの田中敏郎・大阪大教授は「悪さをする免疫細胞だけを増えないようにすることができ、花粉症の根本的な治療になる可能性がある」と話している。(この項 終わり)

 
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「がん治療薬 人工知能が支える」

「遺伝子異変 10分で特定」

(平成28年9月18日「朝日新聞」1面より)(無断転載禁止)

  米IBMの人工知能 ★「ワトソン」をがん患者の診断支援に使った東大医科学研究所で、8割近くの症例で診断や治療に役立つ情報を提示したとの研究成果がまとまった。がんの原因となっている遺伝子変異を10分程度で特定し、適切な抗がん剤の処方につながったケースもあった。より早い正確な診断・治療につながると期待される。

 ワトソンは膨大なデータの中から特徴を見つけ出して学習し、回答する能力がある。

 同研究所の研究では、患者から採取したがん組織の、がんに関係する遺伝子の塩基配列を解析して入力。ワトソンは2千万本以上の医学論文や薬の特許情報などを参照し、がん発症や進行に関係している可能性のある遺伝子異変の候補を見つけ、根拠となるデータや抗がん剤の候補と一緒に提示する。

 同研究所の東條有伸教授(血液腫瘍内科)によると、昨年7月以降、血液がん患者ら71人の述べ約100例で遺伝子情報を入力し、診断支援に活用。今年3月までの54人で分析すると、30人で診断や病態の解釈に役立つ情報を提示し、ほかの11人でも治療方針の参考になり、8割近くで有用な情報が得られた。

 昨年7月には、敗血症の恐れがあった急性骨髄性白血病の60代の女性患者について、原因の遺伝子変異を10分で特定。医師らのワトソンの情報に基づいて抗がん剤を変更したところ、治療が効果をあげ、2カ月ほどで退院できたという。

 東條さんは「医師なら2週間かかる異変をの特定を10分で突き止めた」と話す。

 ほかにも、ワトソンが提示した遺伝子異変に関する情報を元に、医師が血液がん患者への臍帯血移植を決めるなど診断や治療方針に影響を与えたケースが数例あった。2割の症例では関係する異変を見つけされる出せなかったが、患者の入力情報を増やせば改善される可能性が高いという。

 東條さんは「かなりの7速度と正確さで必要な情報を提示し、役立つという実感がある」と話す。ただ、現場で広く活用されるには精度向上が必要といい、今後も研究を続ける方針だ。

 同研究所の宮野悟・ヒトゲノム解析センター長は「がんの黒幕となっている遺伝子変更を突き止めるのに、医師が人海戦術で様々な文献やデータ ベースを調べるのは限界がある」と話す。

 ★ワトソン
  米人気クイズ番組向けに開発された「認知型コンピューターシステム」。会話や論文など様々な自然言語の意味・文脈を解釈し、データ間の関連性や規則性を見つけて分析していく「機械学習」の能力を持つ。日本IBMによると、医療分野では藤田保健衛生大(愛知県)などと共同で、糖尿病患者の症状や治療などの情報をもとに重症化リスクなどを予測する研究を実施している。また大塚製薬と共同で、精神疾患のある患者の電子カルテ情報を分析する会社も設立した。 (この項 終わり)

 
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「糖尿病薬が作用する たんぱく質解明」

「名大の研究チーム」

(平成28年9月18日「朝日新聞」社会面より)(無断転載禁止)

  名古屋大学などの国際研究チームは、糖尿病の治療薬「メトホルミン」が作用するたんぱく質を見つけたと発表した。薬の改良につながるという。薬の作用を細胞レベルで明らかにしたのは初めてで、研究成果が米化学誌に掲載された。

 メトホルミンは主に肝臓や筋肉で働く。血糖値を下げる効果があることは分かっていたが、細胞のどのたんぱく質に作用しているのかは明らかになっていなかった。

 名大のユ・ヨンジュ特任准教授らのチームによると、このたんぱく質は「NHE」。細胞の中に物質を取り込んだり、外に出したりする運び役にくっついている。PHをコントロールして物質を運ぶ速度などを微調整しているという。ユ特任准教授は「メトホルミンは、NHEを介して糖尿病で弱った細胞内の物質の輸送を強化しているのではないか」と話す。

 ユ特任准教授らは、一世代が短く遺伝子の役割を確かめやすい線虫を使った実験。線虫の遺伝子変異を起こして調べたところ、NHEを作れなくなった線虫にはメトホルミンが効かないことを発見。遺伝子を組み替えてNHEを作れなくしたショウジョウバエも、同じように効かないことを調べ、メトホルミンがNHEに作用していると結論づけた。  (この項 終わり)

 
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「113番元素「ニホニウム 」」

「命名案 他に三つも」

(平成28年6月9日「朝日新聞」 1面より)(無断転載禁止)

  理化学研究所のチームが発見し、日本で初めて命名権を得た113番元素について、新元素発見を認定する国際純正・応用化学連合(IUPAC)は8日、名称案を「ニホニウム」、元素記号案を「Nh」と発表した。同時に他の三つの新元素の名称案も発表し、現在発見されているすべての元素の名前が出そろった。

 113番元素は昨年末、森田浩介九州大教授ら理研チームによる発見と認められ、今年1月に命名権が正式に与えられた。チームから名前と元素記号の案を提出されたIUPACが3月以降、非公開で妥当性を検討。今回、「推奨される案」として発表した。今後、5カ月間の意見募集を経て正式決定し、元素周期表に掲載される。

 IUPACによると、ニホニウムの名称は「日本」にちなんだもの。発見者の森田教授はこれまでに「日本の子どもたちが周期表を見たときに親近感を持つきっかけになるような名前を考えたい」などと話していた。

 このほか115番元素はモスコビウム(Mc)、117番はテネシン(Ts)、118番はオガネソン(Og)になった。  (この項 終わり)

 
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「近視の子 失明リスク診断可能に」

「東京医科歯科大 研究グループ 」

(平成28年6月8日「朝日新聞」社会面より)(無断転載禁止)

  近視の子どもに眼底検査することで、将来、近視の悪化で失明するリスクがあるかどうかを診断できることがわかった、と東京医科歯科大の研究グループが7日発表した。

 大野京子教授と横井多恵助教の研究グループは、メガネなどで矯正しても視力が0.7未満の状態で、失明の原因の約2割を占める「病的近視」に着目。15歳以下で初めて近視と診断され、成人後に病的近視を発症し失明した患者19人について、眼底検査の結果を過去にさかのぼって分析した。

 その結果、17人は5〜15歳で網膜が薄くなり、視神経の周囲が黄色く変色していた。矯正によって良好な視力を保てる近視には見られない特徴で、病的近視になって失明する可能性があるかどうかの判別に使えるという。 (この項 終わり)

 
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「他人のiPSで網膜移植」

「理研など 世界初の計画」

(平成28年6月7日「朝日新聞」1面より)(無断転載禁止)

  理研化学研究所や京都大などのチームは6日、世界で初めて他人のiPS細胞から作った網膜の組織を患者に移植する臨床研究の計画を発表した。あらかじめ品質を確認した細胞を多くの患者に使えるため、患者自身のiPS細胞を使う移植と比べて費用や時間を減らせる。来年にも始める予定で、うまくいけば、ほかの病気でもiPS細胞を使った治療が広がる可能性がある。

 計画では、失明の恐れがあり、国内に推計70万人いる加齢黄斑変性の患者約10人を対象に、iPS細胞から作った網膜の組織の色素上皮を移植する。今回は安全性の確認が主で、大幅な視力の改善は見込めないという。

 移植には、健康な他人の細胞から作って品質を確認した「iPS細胞ストック」を使う。通常、他人のiPS細胞を使うと拒絶反応が起きるが、ストックは多くの日本人に拒絶反応が起きにくい特殊な免疫の型を持つ人の細胞から作る。

 型が合う患者に移植すれば、免疫抑制剤をほとんど使わずにすむ可能性がある。

 2014年の1例目の移植では、患者自身のiPS細胞から作った色素上皮のシートを使った。大きな問題はなく、症状は安定しているが、培養や検査に約1億円、移植までに約11か月費やした。ストックを使えば、移植までの期間を最短1カ月にでき、費用も大幅に減らせるという。  (この項 終わり)

 
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「リウマチ炎症抑える仕組み」

「名大など発見」

(平成28年4月7日「朝日新聞」社会面より)(無断転載禁止)

  関節リウマチの炎症が、糖鎖という物質の構造を変えることで抑えらるることを、名古屋大学などの研究チームが発見した。治療薬の開発につながる成果で、5日付けの英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に掲載された。

 リウマチは、外から入った細菌などを攻撃するはずの抗体の異常(自己抗体)で、自分の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患。手や足の関節が痛み、進行すると関節が変形してしまう。

 研究チームは、リウマチ患者の血液中にシアル酸が少ないことに着目。自己抗体にくっついた糖鎖の末端にシアル酸を付けて、リウマチのマウスに投与したところ、炎症の程度が2分の1に緩和した。

 糖鎖は数種類の糖がつながったもの。抗体の機能を調節する役割がある。研究チームの名大大学院医学系研究科の大海雄介特任助教は「シアル酸を付けた糖鎖が自己抗体の機能を抑えたと考えられ、炎症を根本から止める薬の開発につながる」と話す。今後、名大病院整形外科と共同研究で治療薬の開発を目指す。 (この項 終わり)

 
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「iPSから心筋細胞の塊 」

「重い心不全治療めざす」

(平成28年4月1日「朝日新聞」そうごう面より)(無断転載禁止)

  慶応大医学部の研究グループは心臓の筋肉になる心筋細胞を、iPS細胞から高純度でつくる方法を開発したと1日、米科学誌セル・メタボリズムに発表する。重い心不全の患者の治療をめざして、来年にも再生医療の安全性を調べる学内の委員会に、臨床研究の申請をするという。

 心臓は心筋をつくっている心筋細胞が収縮して拍動することで全身に血液を送り出す。心筋細胞が病気で失われると、筋肉の収縮する力が低くなってしまう。

 福田恵一教授(循環器内科)らの計画では、人のiPS細胞から心筋細胞をつくって大量に培養。手術で心臓の心筋内に心筋細胞が約1千個集まった直径150マイクロメートルの塊を多数注射して移植する。その際、様々な細胞になる可能性を持つ幹細胞が混じっていると、がん化するリスクがあるが、細胞に栄養を与える培養液の成分を工夫し、心筋細胞だけ残すようにした。

 これまで動物実験では、心筋細胞の塊を心筋梗塞を起こさせた心臓の筋肉内に注射で入れると、数カ月で細胞が元の心筋と1体になり、血液を送り出す能力が向上したという。福田教授は「移植には多くの心筋細胞が必要で、心筋細胞だけを鈍化して精製することが重い課題だったが、乗り越えらるた」と話す。

 今後は、従来の手術や薬では十分な効果がなく、心臓移植が必要とされるような重い心不全患者の治療を目指す臨床研究の準備を進める方針。

 心不全に対する再生医療をめぐっては、大阪大の澤芳樹教授(心臓血管外科)らのチームが、iPS細胞からつくったシート状の心筋細胞を心臓に貼る研究をしており、臨床応用に向けた準備を進めている。福田教授によると、慶応大のケースは、心筋細胞を塊にして特殊な注射針を使って心筋内に移植する点が異なるという。  (この項 終わり)

 
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「PTSDケア 素早さがカギ」

「ショック直後関係薄い物事も「傷」に」

(平成28年1月25日「朝日新聞」夕刊より)(無断転載禁止)

 ある出来事で強い精神的ショックを受けた直後は、関連が薄いことでも出来事の記憶と結びつきやすく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)引き起こすきっかけになりかねないとする研究論文を筑波大などのチームがまとめた。マウス実験で、刺激を与えてから6時間以内にみられた現象だといい、心の傷の迅速なケアの重要性を示唆する結果だとしている。

 筑波大国際統合睡眠医科学研究機構の坂□昌徳准教授らは、箱の中でマウスに電気刺激を与え`て取り出し、時間をおいて同じ箱に戻したり、別の箱に入れたりして反応を調べた。

 24時間後に刺激を与えた箱に戻すとおびえて動きが止まったが、別の箱では特に反応はなかった。一方、刺激から6時間以内に、材質や形が一部だけ似ている別の箱に入れてすぐ取り出して飼育室に戻し、その24時間後にもう一度この箱に入れると、おびえて動かなくなった。素材も形状も全く異なる別の箱では、こうした現象はみられなかった。

 坂口准教授らは「ショックを受けた直後は、関係が薄い物事も嫌な記憶と結つきやすい時間帯がしばくあるよう」と話している。   (この項 終わり)

 
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「脳出血まひ 改善なぜ? 」

「リハビリすると神経に新ルート」

(平成28年1月14日「朝日新聞」社会面より)(無断転載禁止)

 脳出血によるまひが、リハビリで改善するメカニズムを、生理学研究所(愛知県岡崎市)と名古屋市立大学の研究チームが動物実験で明らかにした。傷ついた神経に代わり別の神経が新たな経路を作っていた。研究成果は13日付の米科学誌に掲載さ れた。

 大脳の運動野からの命令は神経回路で脊髄を経由し手足に伝わる。この神経回路が脳出血で遮断されると、まひが生じる。

 研究チームはラットで実験。まひした前脚を強制的に使わせるリハビリを1週間した結果、脳の運動野から、脳幹の「赤核」と呼ばれる場所へ神経が複数伸びていることが確認された。

 まひした前脚で台に載せたえさを取れるか実験したところ、成功率はリハビリをしないと19%。リハビリをしたラットでは48%になったが、赤核を通るルートを遮断すると18%まで下がった。このことから、脳が赤核へのバイパスを作ることで神経 回路を補強したと考えられるという。研究チームの生理研・伊佐正教授は「より効率的なリハビリ法につながる成果だ」と話す。  (この項 終わり)

 
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「白い杖 立てて掲げて SOS」

「全国に普及提案へ」

(平成27年5月29日「朝日新聞」夕刊1面より)(無断転載禁止)

  白杖を立てて掲げていたら、声をかけて−。岐阜市から視覚障害者の「SOSシグナル」を全国に広めようという動きが起きている。29日から同市で始まった全国盲人福祉大会で全国共通のシグナルとして普及させようと、岐阜県視覚障害者福祉協会が提案する。

 きっかけは3年ほど前にさかのぼる。岐阜市視覚障害者福祉協会の渡辺巧会長(77)が、歩道を一人で歩いていて強風で帽子を車道の方に飛ばされた。周囲に人の気配はなく、あきらめかけたが、ふと、「杖がある」と思った。「下に向けてつく杖を、掲げて立っていたら変だと思うだろう」

 しばらくして反対車線に車が止まった。男性が「どうされましたか?」と声をかけてきた。事情を話すと風下に行って、「あったよ」と言って帽子を取って戻ってきてくれた。

 これを「SOSシグナル」として広めたいと渡辺さんは思った。働きかけを受けた岐阜市は昨秋、普及のシンボルマークを作るためにデザイン画を公募。全国から288点が寄せられ、青森県弘前市の工藤和久さんのデザインが選ばれた。これをもとに今年3月にシンボルマークができ、独自に普及活動を始めた。

 実は白杖を掲げるシグナルは、1977年に福岡県盲人協会が推奨したが、広まらなかった。このため、渡辺さんも知らなかった。その福岡でも3年前から改めて広めようという運動が進められている。福岡県盲人協会の小西恭博会長(78)は「交通地獄の中で視覚障害者の移動は難しい。我々のニーズを理解してもらえるよう、白杖を一般の人とのコミュニケーション手段の一つにしたい」と話す。

 関係者によると、視覚障害者の中には白杖を持つことに抵抗があり、溝に落ちてけがをするまで使わない人も少なくないという。ただ、一人で自由に移動するには白杖は欠かせない。路上駐車の大型車のミラーにぶつかって顔にけがをしたり、前方の荷下ろしに気づかなかったり、白杖だけではわからない危険も多い。

 岐阜県視覚障害者福祉協会の清水和弘会長(76)は「来春施行の障害者差別解消法にもつながる」と話す。SOSシグナルの普及をきっかけに、障害者自身も白杖への認識を改め、一般の人にも白杖を持つ人に率直に声をかけてもらえるようにしたいという。  (この項 終わり)

 
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「iPSから神経、脳の移植」

「パーキンソン病治療めざす」

(平成27年5月16日「朝日新聞」1面より)(無断転載禁止)

  iPS細胞(★1)から作った神経細胞を人間の脳に初めて移植し、パーキンソン病(★2)の治療を目指す臨床研究を、京都大iPS細胞研究所(山中神弥所長)のグループが来年にも始める。京大が近く設置する審査委員会に、6月をめどに計画を申請する。根本的な治療につながる可能性もあるが、未知のリスクもあり、審査で安全対策などを確認する。

 パーキンソン病は、脳内でドーパミンを作る神経細胞が減るために起き、薬での治療には限界がある。海外では死亡した胎児の神経細胞を患者の脳に移植する研究が試みられたが、有効性は十分に確認されていない。移植する細胞の不足や様々な細胞の混入が理由とみられている。

 京大iPS研の高橋淳教授(脳神経外科)らの計画では、患者自身の細胞からiPS細胞を作り、ドーパミンを作る神経細胞に変えてから、針を使って患者の脳の中央部に高い精度で注入する。今回の研究は、移植で有害なことが起きないか確かめるのが主な目的だが、移植した細胞がうまく働けば、病気の進行を抑えられる可能性がある。

 移植に使う神経細胞を作る過程では、不必要な細胞も混じるため、グループは大量の細胞の中から必要な神経細胞を選び取る技術を開発。動物に移植して安全性や効果を確認した。

 一方、iPS細胞が目的の細胞に変化しないまま体内に入ると、無秩序に増え、がん化するなどの危険がある。安全性を確かめるため、理化学研究所のグループは目の難病で臨床研究を開始。iPS細胞から作った網膜組織を患者の目に移植して、経過を調べている。

 今回計画している脳への移植は、目の中とは異なり、細胞の様子を直接観察できない。MRIなどの画像診断装置による検査が必要になる。審査は、こうした安全対策などを半年以上かけて議論する見通し。

 臨床研究がうまく進めば、保険適用を目指し、医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく治験を数年後に始める構想もある。

 (★1)iPS細胞
 皮膚など体の細胞から作ることができる万能細胞。無限に増やせて、様々な組織の細胞に変えられるため、再生医療への応用が期待されている。山中伸弥・京大教授が2006年にマウス、07年には人間で作製に成功し、12年にノーベル医学生理学賞に選ばれた。

 (★2)パーキンソン病
 手足のふるえや筋肉のこわばりが進み、体が動かせなくなる難病。国内に患者は約15万人いるとされる。神経の中で情報を伝えるドーパミンを作る神経細胞が、脳の中央部の組織で減ることで起こる。神経細胞の減少を止める根本的な治療法はない。 (この項 終わり)

 
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