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第1回全国盲ろう者体験文コンクール入賞者決まる

 〜特賞に愛知の木村順子さん〜

 初めての試みとして企画された、「全国盲ろう者体験文コンクール」作品募集に寄せられた作品の審査会が12月7日に東京の鉄道弘済会館で行われ、愛知県の木村順子さんの作品が特賞に選ばれました。
 作品は『コミュニカ』2011年3月8日発行の春号・No.42に掲載されました。






   「受賞作品」

盲ろう人生 充実な日々を得る為の自覚と通訳者

“人との 出会い ふれあいが 私を生き返らせてくれた”


 45歳の時、全盲・高度難聴・嗅覚障がい者になり、絶望の淵をさまよいながら、私の人生が終わったと思った。
 それでも 「これからどうする?」自問自答の毎日の7年間・・・。
 命を断つ勇気も無かったので、考え方を変える事にした。
 例えば、 神様が女中代わりぐらいなら使えると考えて、 食べる事だけを残してくれたのだと変な感謝をしたり、「悪い中にも良い事が何か一つはある」と 前向きの精神を持つ事でした。
 体の快復とともに生活訓練、いや女中訓練の始まりです。手の感触が鈍く何を触っても間違えてしまい、 ある日、大変な事があった。

 片手なべでお湯を沸かした。
 が 湯が無い!蒸発したと思い、また 水を入れてガスにかけたが、また 湯が無い! そこでやっと気付きました。片手なべと思っていた物はプラスチック製のボウルで底が燃えて穴があいたので す。

 他にも数多くの失敗を繰り返しながら工夫している内に、自然に記憶力と勘が良くなったようです。

 長い家庭内訓練を終え、やっと社会に一歩を踏み出す決心がつき、情報を得るためには、点字の触読が不可欠と考えました。人差し指に全神経を集中させるため、頭痛やめまいがして立っている事さえ困難でしたが、小説を読み挙げる事が出来た時の感動は忘れられません。

 その後、盲ろう者と直接話したいと思い、手話の勉強中ですが見て覚える事ができない。 手に触り,、手の向きや形を探り、一つ一つ覚えるのですが、見えない 聞こえないの状態で覚えるのは簡単ではなく、 何度も挫折感に襲われた。

 そんな時、 「今諦めたら、先はない!一歩一歩進もう!今 乗り越えれば先に何かはあるよ!」 と自分に言い聞かせ励まし続けて来ました。

 その お陰で選択余地が無かった私でも、周りの方々の助言や指導を受けて必要なコミュニケーション方法を学び、続けているうちに自信がつき、自然に障害を受け入れられました。

 今は、通訳 介助員のお陰で周りの様子を聞きながら、会話をし、楽しく外出する事が出来ます。そんな便利に慣れてしまい、自分が障がい者である事を忘れている時があります。それほど盲ろう者に取って通訳 介助員は、3億円の宝クジより大切な 存在だと改めて思い知らされている次第です。(笑い)

 しかし、外出したときのトイレはつらい! ドアの前で終わりではありません。向き・ペーパー・水洗ボタンの位置、水洗と緊急のボタンの違いも教えていただかないと間違えてしまいます。

 盲ろう者が社会に恥ずかしくない生き方をするためには、支援してくれる通訳 介助者の能力の良し悪しが重要です。

 初めての通訳者でしたが、 心温かい人だとすぐにわかりました。その通訳者は「耳の日の集い」の場で、盲ろう者が発表している姿を見て感動されたそうです。
 別の人は、点字を習っていた私の事を知り、「盲ろう者とは どんな人か?」 と思い、通訳養成講座を受講されました。
 この通訳者は状況説明は勿論助言や注意も欠かしません。会話の通訳の他に、盲ろう者の身になってくれる通訳者を選ぶことにより、自分だけの狭い考え方では無く、組織全体の運営方法を学ぶ事が出来ます。様々な意見を聞き そして 自分で考え、更に社会に役立つ生き方が出来るのでは無いかと思います。

 今、世の中は殺伐としています。前向きに生きている盲ろう者の姿を見て頂く事により、人々の心を優しくさせることが出来るのです。

 以前 通訳養成講座を受けた女性が素晴らしい事を言ってみえました。
 子供が重度障がい者で、「こんな子供を生んでしまった自分を責め、社会の冷たい目、視線を避けて家に閉じこもり、その子の姉妹を叱る事が多かった。そんな時、盲ろう者のための通訳養成講座のチラシが目に留まり、「盲ろう者」とは どんな人達なのかしら?」と、受講された。そして 講師の盲ろう者が生き生きしている姿を見て 大変感動されたそうです。

 講座の学習で 点字や手話を習い、家庭に持ち帰り 家族の団欒に 加える事により、家族の笑いが生まれ 顔を上げて歩き、子供達を叱る数が少なくなりました。子供たちは成長し、ボランティア活動に出かけるようになりました。

 ここで 盲ろう者の存在が人の心を救う事が出来たのです。 ありがとうと言われた。自分のことのように本当に嬉しかった。

 最後に 心の中に深く刻まれた詩を紹介します。

       「友の会交流」

   赤い 夕日が下町 染めて
   山の 向うに 沈むころ
   老いたる 我が身を 湯に ひたす
   明日への のぞみ 心 新たに
   盲ろうの 友 ひざ よせて
   出会い ふれあい 手話 おどる
   我 手のひら書き
   心 開き
   時 忘れて 旅の 楽しさ
                      以上





         「第1回全国盲ろう者体験文コンクール入賞作品」選評         塩谷治

 財団法人鉄道弘済会から盲ろう者のためにお役に立ちたいというお話をいただき、いろいろご相談した結果、「全国盲ろう者体験文コンクール」を試みることになりました。募集した結果、18編もの力作が寄せられ、関係者一同感激しました。今後も盲ろう者の文化活動の一環として、このコンクールが末長く続くことを願っています。
 よせられた作品は、どれも力作で、盲ろう者としての日頃の思いが赤裸々に綴られたものばかりでした。全部発表したい思いに駆られましたが、結局は4人の審査員の話し合いで規定どおり3篇(特賞1篇・入賞2篇)にしぼることにしました。(略)
 各審査員から寄せられた批評をご紹介します。

     特賞「盲ろう人生 充実な日々を得るための自覚と通訳者」(愛知・木村順子)
・生活実感がよく表現されており、啓発的な意味からも秀作である。
・前向きな精神が文章によく表れている。
・いろいろな困難を自力で乗り越えている様子がよく分かる。
・バランスのとれた作品で、前向きな姿勢に好感が持てる。失敗談がまたよい。



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