時刻は既に夜半過ぎ、丑三つ時も迫ろうという時間帯


「ふわぁ〜あっ やっと終わったよぅ…」

古文の藤崎先生宿題だしすぎぃ;









の通っている高校の古文の先生、藤崎武雄はとにかく宿題をたくさん出すことで有名だ
それはもちろん生徒達のためを思ってのことだが、…無愛想な態度から評判はあまりよろしくない


は今年高校に入学したばかりの15歳
一般的な容姿と、日本人特有の肩から覗く艶のある黒髪
ただ年相応の女の子の身長と比べるとすこーし小く、小学生に間違われることもしばしば

趣味は読書、小説書き
今はジャンプで連載中のとある漫画にはまっている、いち腐女子である





「あー、今日はDream進めれなかったじゃないっ」

時間も既に遅いし、ここから書き始めたら明日起きれなくなってしまう
泣く泣く続きを書くのを諦め、日課の今日の占いのサイトを巡回する
結構あたってることが多く、ここのサイトはのお気に入りの一つだ



「あたしの星座は…っと」





『6位 全ては貴方しだい』






…ナニコノ適当な言葉はっ!
順位も可もなく不可もなくな位置だし、本文がまた適当すぎる…

まぁ、占いだしあんまり気にしないでいいかぁ





が唯一その占いで気になったのは、ラッキーアイテムが銀のナイフだったことだけ


銀のナイフなんて持ってる人少ないと思う…





いつもかなり的確なことを指摘しているそのサイトにしては、今日の占いはわからなすぎだった










ボーンボーンボーン


廊下から鐘の音が聞こえる
回数は3回、つまり…


「やっばぁ! もう3時だしっ 明日起きれなかったら洒落にならないよう」



そう、明日の一限が藤崎の古文なのだ
遅刻などしようものなら、宿題は受け取ってもらえないどころか、熨斗がついて戻ってくるだろう

今やり終えた宿題も全て無駄になってしまうし、これ以上増やされたらそれこそ週末遊びにいけなくなってしまう

…それだけは避けねばならない





ふとなにやら違和感を感じたが、特に気にすることなくは布団へと潜り込んだ
























―――ココはどこ?


あたりは一面の白
目を開けてみているのか、目を瞑ったままなのかさえもわからない
足元を見てみる、何もない、浮いているのか立っているのかすらわからない











―――これはユメ?


返答はない
闇より深い白、白というより無

ここに自分はあるのに、何もないかんじ








―――だれかいるの?


「―――・――・――−−――」

ノイズとも声とも聞き取れるよな不思議な おと

「――みち―び・・―本当――世―か」


よく聞き取れない、ひたすらに耳を澄ます


「導かれた…本当の世界、あな―た―せか―・、
 小さなせ・―
 ての・―ひ―・の―――・夢
 回―夢」


かろうじて聞き取れた単語をつなぎ合わせても、言葉の意味すらわからない










―――あなたはだれ?



問いかけた質問に
声がやみ



ふいに




視界が暗転する








「あなたは導かれた世界で何を、いや、それは貴方にしかわからない
 私はただ導くだけ」












遠くどこかでそう声がこたえた
























ざわざわざわ
ざわざわざわ


複数の雑踏の音が耳につく



「…ここはどこ?」


確かにベッドに寝ていたはずなのに、身体は固いものの上にいるような感触


ゆっくり目を開けて、目に明るい光が入り、視界が広がる




一面の野原、ただ綺麗だと思ったそこも、周りにいる何人かの存在と、響き渡る音により静寂を奪われている



これって…銃声?
なんで、日本で銃声が聞こえるの?











「おい!そこのやつお前どうやってここに入ってきた!?」

不意に間近で聞こえた声は、明らかに敵意を含んでいるような声





が見上げた先には、月光に光る刀身を持つナニカを構えたスーツ姿の男


草原とその男の格好があまりにも不自然で、自体が理解できない…





「おまえ、あいつらの仲間か!見た目に惑わされるところだったぜ!!」





あたしの目に振り下ろされる刀身だけがミエた





ザクッ






「あ"ぁあ"ぁあ"あっーーー!!」



「へっ!情けない声出しやがってっ」






鈍い音が響く

の左肩から、黒く光るナニカが生えていて、その部分から生暖かい液体が抜けていく



左肩が焼けるように熱い

熱い
熱い
熱い
熱い


焼けるように熱い、身体から暖かいナニカが急速に奪われていく

イタイ
イタイ
イタイ
イタイ
イタイ













ミリッギリギリギリギリ





肉を血管をすり潰すようにギリギリと動かされる刀身

身体の中から犯されていくような激痛

「ぁっ…ァ…」

「それでも俺らの仲間を殺しまくった連中の仲間かよ!?ざまーねーなっ」



の左肩のナニカが、身体の中をまさぐる様に動き回っている
生暖かいナニカはさらに吹き零れ、地面に赤色の湖を作り出す




意識が消える…
肩から突き出ている刀身が、痛みが、コレが夢でないことを告げていた

なんであたしがこんな目に…






疑問符と痛みで頭が占められてたあたしの肩に、さらに男の足が傷口を穿り返すように進入してくる

痛い所の騒ぎじゃない

「ぁ…あ”ぁあ”ぁあ”あ”あ”ああああっっ!!」

「ガキの癖にいい声で鳴くじゃねーか こりゃ持ち帰っても楽しめそうだな…」


男の靴は、の血と肉で変色していく


声にならない声
痛みじゃない、体内から犯され蝕まれていくような激痛
もういやだ…





男は尚も楽しむように、あたしの傷口を執拗に攻める


グチャグチザシュザシュ


何度も何度も同じ箇所に振り落とされる刀身と男の靴














痛みすらわからず、ただ肉塊を見つめるように腕を見る


そのまま意識が落ちかけた時…










ボンッ!





小気味いい音共に、男の身体が破裂
降り注ぐ生暖かいナニカ、男を形作っていたナニカ







「まだ殺してない奴がいたね」

「このガキもここの屋敷の奴隷かぁ?」


あたしに降りかかる2つの声、ゆっくりと見上げると3人の人影

痛みを通り越して、既に動かない左手を放棄し、右腕だけで起き上がろうとする


「ほぅ その怪我で起き上がろうとするとは…」





ここがどこでなにがどうなってるのかわからないけど…

左腕に走る激痛が、ここが現実であると告げている

ならば、何も知らないまま消えるわけには行かない…





暗闇で見えなかった3人うちの1人の顔が、雲から出てきた月光により露になる









どこかでみたことある…
そうあれはたしか…






















「…くろろ=るしるふる??」
















あたしの目の前に立っていた人物は、見間違うもなくクロロ=ルシルフルの容姿をしていた

それもH×Hそのままの格好を…












































「19時ジャストに突入する 最初にフランクリン・ウヴォー・ノブナガ
 続いてオレとフェイタン、フィンクス。後処理にシズクとマチ、パク頼む」






旅団のメンバーがこれほど集うということは、今まででも数えるほどしかなかった
ましてや全員が揃うことなど、両手の指で数えれる程度だろう


最終的に参加できる旅団員のほとんどが集まることになっている
大事の前の小事、今はその真っ最中



拷問が好きで知られるその屋敷の主が所有しているとされる、古の武器、装飾具の数々


欲しいものは全て盗る、それが幻影旅団のやり方








「こっちはあらかた終わったよ、ダンチョー」

「こっちも終わったぜ まったく歯ごたえがない連中ばっかりでつまらねー!」



旅団員突入後わずか数分で、屋敷内で動く存在は居なくなっていた


「よし、屋敷の主は捕まえて吐かせろ パク頼んだ」


「わかったわ」



先発部隊とパク、マチは連れ立って屋敷の中へ消えていく

シズクはデメちゃんで死体の回収真っ最中だ





「それにしてもよお、こうも手応えがないとつまらねーな。団長、この後の仕事もこんななのか?」

「いたぶる間もなく皆死んだよ つまらないね」


残念そうに言うフェイタンの口調とは裏腹に、表情はどうでもいいという感じだ
確かにこの屋敷の警備は手薄すぎる、念能力者なしで守りきれるものか?
今まで他の盗賊に襲われなかったのすら不思議だ







「次の仕事はクルタ族 緋の目を全て頂く」

「緋の目てあの眼赤くなるやつらか?」

「そうだ、世界7大美色にも数えられてる『クルタ族の緋の目』 そいつを全部頂く」



クルタ族…感情の高ぶりによって目の色が『緋色』に代わり、その色彩は世界7大美色に数えられている
個体数は少なく、とある集落でのみ生活をしている少数民族



今回の集合命令の本当の目的はクルタ族の眼
事前の情報では彼らは結構手ごわいらしい

まぁオレ達の敵ではないと思うが…





集合するまでの時間が結構あったので、集っている団員のみでもう一個のターゲットを攻めた

それがここ、拷問好きな主 ジメイ=オランの屋敷だった

目的は古の装飾品と書物、それに道具類

















「ぁ…ぁぁっ……」

声が聞こえた、消え入るような子供の声

悲鳴にも聞こえるそれは、まるで静かなワルツを奏でるように、寂しげで美しい旋律を奏でていた



たかが、子供の声
なぜこうも耳に残る
なぜこうもオレの心に入り込む



「フェイタン、右奥の方にまだ生き残りが居るみたいだ」

















「だれかいるね」

既に守衛を含め、屋敷を守っていたもののほとんどは始末





まだ生き残っていた屋敷の使用人の1人を、フィンクスが片付けた後には…

その場にはふさわしくない、1人の子供が転がっていた






肩から刀を生やし、血液を流れさせ続けている
年齢は…10歳くらいだろうか
小柄な面持ちに、黒く艶のある髪が血で固まっている




殺す価値もない
この屋敷の奴隷の1人だろう


オレの心を少しでも奪った、その悲鳴という旋律は既に弱弱しく、興味を引くほどのものではない
ゆえに、もう興味を持つ価値もない



そう判断した、…その子供が言葉を口にするまで













「…くろろ=るしるふる?」



























その言葉にクロロの身体が反応し、周りに居たフィンクスとフェイタンもやや顔持ちを強張らせる

「どうしてオレの名前を知っている?」


それもこんな子供が



意識が朦朧としているであろうに、冷淡な口調で語りかけるクロロ


「それに…ふぃんくすとふぇいたん?」


「「ッ!!」」


なぜ知っている、旅団員の名前を




二人の目が一瞬見開かれるが…すぐさまそれは冷淡なものへと代わっていった

















「おまえどうしてワタシ達のことしってるね?吐かないと殺すよ?」


「待て!フェイタン お前は何者だ?何故オレ達のことを知っている」


オレ達の名前を知っていて活きてる奴は、ほんの一握りだろう
なのにこの年端も行かない子供がそれを知っていることに、少なからず興味を覚えた



「あ…たしは…しって……るの げんえい…りょだん、団長くろろ=…るしるふる
 パク…ノダ マ…チ しずく… ノブナガ ウヴォー みんな…しって…るの」


すべてを知っているように語る子供に、驚愕の念が出てくるが、すぐさまそれを沈め思考に耽る


どうしてこんな子供がオレ達のことを知っている
これだけの情報を持っている奴は早々いない
それにまだナニカ情報を隠し持っているような素振りさえ見える




弱弱しく紡がれる言葉は今にも消え入りそうで、
いつまでも流れ続ける血と、蒼白な顔が命のともし火が消えそうな印象を与えるが、

その瞳の輝きだけは色褪せていない



…この子供は何かを知っている


ほかっておくのは危険だ、今ここで殺すにも惜しい




「…こいつはアジトへつれて帰る そこで吐かせる いいな?」


この子供に新たな興味を覚えていた































あたしを見下ろしながらクロロ=ルシルフル本人は、冷淡にそう言い放った

――捕まえて吐かせる


頭の中でH×H原作のストーリーが駆け巡る

幻影旅団、すべてを奪い目的のためなら殺戮をも行う

秘密を知っているあたしは…どうなるのだろう

恐らく今よりも酷い苦痛を与えられ、その後殺される









そもそもなんでこんな目にあっているの…

古文の宿題をして、嫌々ながらも日課のように学校へ行く
それの繰り返しだったはずなのに














しかしあたしの今の現実は、目の前には冷淡に吐き捨てるクロロと今にも襲ってきそうな旅団員




ここがまだどこなのかはっきりとわからないけど…

捕まっちゃいけない、捕まったら終わりだ











アキラメルナ
ツカマッタラシヌ










ぐっと右手に力を込め立ち上がる

刺さった刀はその自重で抜け落ち、さらにあたしの傷口から赤いものが溢れ出る


固まりかけていた血が肉が、こそげ落とされるように落ちていく
身体の中から剣が生えて、抜け落ちたような感触




痛い…

身体から力が抜けていく感覚


意識がかすむ…

けど逃げないとココで

死ぬ















「嬢ちゃんか?悪いことはいわねぇ 大人しくオレ達と一緒に来い」


手を無理やりつかむように伸びてきたフィンクスの手を、右手で思いっきり叩き
手を振った反動のまま横に飛ぶ




「痛ぅ あのガキふざけやがってっ」

油断していたのだろうか、あたしの手ではたかれた手を押さえつつ、
フェイタンとフィンクスがこちらに向かって迫ってくる




逃げなきゃ…



逃げ切れなきゃ……

あたしはここで朽ち果てる








そんなのは イヤ だ





何も知らないまま朽ち果てることなんてできない





その場を離脱するために、腕の痛みを我慢し力の限り駆ける
力なくぶらさがる左手からは、赤い滴が垂れ落ち、地面に模様を作り出している





はぁっはあっはあっ


左手から力が抜けていくようで足がうまく動かない










「待つね …無理やり止めるよ?」



あたしの走る速度が、彼らの追う速度を上回るなんてことはなく、



横手から伸びてきたフェイタンの腕に動かない左手はあっけなく掴まれた


それも思いっきり強く…




「うぅぁぁぁぁあああ!!」








ひきちぎられるような痛み
動かないはずの腕なのにどうしてこうも痛いのだろう





ニヤリと嬉しそうに笑うフェイタン
その顔が無性に悔しくて悔しくて…
引っ張られる腕が取れたらどれだけ楽か想像して…





の身体を光が包む























「あぶねぇ!」



腕を引っ張っていたはずのフェイタンがフィンクスのほうへ突っ込んできた

逃げ回っていた少女の姿は既にない
まるで消えてしまったように…




「なんだったんだあれは…?」


残された三人は、ただただ少女の消えた空間を見つめるばかりだった…