暗い…まるで地の底にいるように


黒い…まるで闇と自分がどうかしているかのように


しくしくしく…



闇の中から少女の鳴き声が聞こえる



しくしくしく…



悲しみに、そして絶望に嘆くような少女の声



暗い、くらいよぅ……シクシク…




目に見えない少女の姿



でも、あたしにはその姿が、何故か脳裏に浮かんでは消える




暗闇で嘆き続ける少女の姿が…













































ガタンガタン





普段は静かな城中が、まるで族の襲撃でもあったかのように戦慄いている



ベッドから物音せず起き上がったは、着衣を直すことなくただ虚空を見つめ続ける



なんであんな夢見たんだろう… 夢なんて見るはずはないと思っていたのに・・・





時折見るどこかわからない場所で、自分が良く知っているはずの人物が迷い、混乱し、泣いている


そんなヨクワカラナイ夢


あたしのオーラが目覚めてから時々見続けている夢……












夢の性で億劫な空気に身を任せたまま、仕事着へと着替えを始める

服以外の身支度はあらかじめ終わっており、着替えればどこへでも行くことができる


普段着ている白のレイヤースカートを手に取り……やめた



今日はこれじゃ…ない




トランクの中にしまってあった服とペンダント







蜘蛛を形作られた小さなペンダントとレイヤーフリルのワンピース


それらは、まるで闇を吸収したかのように真っ黒だった
















ピリリリピリリリリリ


あたしの部屋に備え付けられていた電話が鳴り、数回コールしてとまる




時間


ダグラスの作戦を、あたしがすべきことを決行する日



心は既に決まっている、いやもとよりこの身にココロなどない



ただあるのはこの身を突き動かす何か、ただ生きていくことだけを与えられたこの無機質な身体



そうあたしは人形、与えられたことをこなし、ただその中に存在し続けることができればいい自動人形







身体はいつもどおりに動く


でも、何故かふらふらとないはずのココロが揺らぐ



久しぶりにあの夢を見たせいかしら…





































ダグラスの準備は万全だった

今日という日のためにありとあらゆるシュミレーションを繰り返し、それに対する対策を練り続けてきた「

たとえどんな予想外の出来事が起こっても対処できる

族の襲撃の噂もあるが…


こちらにも抜かりはない 金さえあればなんでも揃えられるのだ

小国家の一個師団にも見劣りしないボディーガードの面々と


という一人の少女の存在



彼の自信に揺ぎはなかった







「ダグラス様、搬入の方終了いたしました。あとは指示を頂ければいつでも運び出すことができます」


携帯がなり、執事からの連絡が入る

搬入完了、つまりあとはセイマンのところまで運べばそこで奴が処理してくれるだろう


「ああ、わかった。族の襲撃に気をつけて運んでくれ。それと…アレのほうも頼む」


「承知いたしました」


規律正しく返すその言葉には一抹の不安さえ感じさせない



絶対的な金と権力…


そして、…この城の財宝を見つけたとき偶然発見したアレ




アレがあれば、そしてあの不思議な少女さえいれば俺にかなう者などこの世でいなくなる


俺が望む全てのものが俺の手中に納まる


ハハハ


なんと滑稽な夢



でも、それはなんて心地が良い夢


そして、今すぐにでも自分の手元に入ってくる…現実




「手札は揃った さぁ今宵、我が新たな人生の始まりの祝宴と行こうじゃないか!」


闇夜に浮かぶワイングラス


そのワイングラスに写る彼の顔から笑顔が消えることはなかった



































ダグラス家の執事、オラン=リコは妙な胸騒ぎに襲われていた


全てがうまく行き過ぎている


それもあの少女、=がこの城に姿を表してから…


あの不気味な少女、まるでそこにいるのが当たり前かのようにどこへでもすぐに姿を現し、まるで闇に融けるように消えていく


ダグラスも何らかの危惧は感じ取っているが、それ以上の信頼をあの少女に寄せているようだ



本当にあの少女を信じてよいものだろうか?


何度この疑念が自分の中で渦巻いたことだろう


ダグラスが惚れきっていて、その仕事も的確で速いので何も言い出せなかったのだが…


あの少女には何かある、そう自分の直感が告げている


とある国家の軍人であったこともあり、念法もある程度使える


そんじょそこらのチンピラやマフィア程度なら、何百人来ても自分の相手にはならないだろう


念さえ使えない相手なら、どんな達人クラスの奴でも問題ないはずなんだが…


それでもあの少女に対する妙な胸騒ぎが消えることがない









「オラン様、各部人員の配備終了いたしました。いつでも出発できます」


突然無線機に飛び込んできた声に不意に意識が現実へと戻される



まるで核でも運ぶかのように厳重に警戒された包囲網



ダグラスがあの城で発見した財宝の各種と…そしてアレ



暗い森の中に鈍く響くエンジン音とともに、無線機で合図を送る


「2時間でセイマン様の所まで運ぶぞ いいな?」


返事の代わりに聞こえてくる、爆発的な各所のエンジン音



今は余計なことを考えている場合ではない、ただコレを運ぶことに専念すべきだ…





オランの意識は再び自分が運ぶべき荷物へと集中していった


























































歌が聞こえる


最初は幻聴か、誰かが聴いてる音楽が漏れているのかと思っていた


『My mother has killed me ♪』


流れるような、小鳥が囀るような美しい音色


でもその音色は酷く不安定で、酷く儚く、そして酷く歪だった


心の奥底の何かを掻き毟られるような優しくて、恐ろしい音色


この音が聞こえるのは自分だけかと思って、辺りを見回したが皆何かに釣られたかのようにじっと耳を潜めている


『My father is eating me ♪』


脆弱だった音色も徐々にはっきりと聞こえるようになってきている


これは幻聴などではない…


頭の中で警鐘がなる


ダグラスからはこのような事態も予測し、訓練を続けてきた

どのような欲望の対象を出されようとも、それを耐え任務を遂行する訓練を…


頭の片隅では理解している、この音色が危ないことを、この音色を聞いていてはいけないということを


『My brothers and sisters sit under the table ♪』

それでも聞くことをやめられない

脳がそれを拒否している

頭の中では警鐘が鳴り続けている


それでも…身体は音色を聞くのをやめようとしない


まるで自分の身体が自分の身体じゃなくなっていくような感覚


自分の精神と身体が離れ離れになって、自由の利かない身体を自分自身が見下ろしている感覚


『Picking up me bones ♪』


愉快な口調で音色は響く



ああ、なんてココロを動かされる音色なんだ


まるで全てのものがある色に飲み込まれていくみたいだ


ふしぎなかんじ…まるでこわくない…


ただそれがあたりまえな…×だ


どうかする どうかする どうかする どうかする どうかする…





頭の中で反芻される音色が自分を違う場所へといざなってくれる


そこは酷く不安定で、でも妙に安らげる場所…




『And they bury them under the cold marble stones』



ああ、ここはくらくてふあんていでなんてきもちがいいんだ…
































バタッ、バタバタバタ



宵闇に浮かぶひっそりとした城に


次々に枯れ木が倒れるような音が相次ぎ…



城の周りには誰一人動く存在がいなくなった



獣の鳴き声も虫の鳴き声も、生き物の気配がまるでしない



ただそこにあるのは、暗くて深い闇




雲に隠れていた月明かりが城の周辺を照らし出す




「ふふっ」




人人人…



無秩序に照らし出す月の光は彼らを全て照らしつくす



















闇の中で、自分の手綱を手放した彼ら













彼らが自分の意思で動き出すことは……、2度とない


























ガタッ

また一つこの城の中で何かが倒れる音

なんだ!?何が起きている!


先ほどまで城のあちこちで起きていた喧騒がまるで嘘のように静まり返っている

その代わり時折各所から聞こえてくる、何かが倒れる音



財宝を運び出してからまだほんの数時間しかたっていないというのに、この異様な事態はいったいなんなんだ!



「誰か、誰かいないのか?!」


自分の声だけが、静まり返った部屋の中に木霊する


部屋には自分ひとり、部屋の外、城の周り、城中を傭兵で固めていたはずなのに


いまや物音一つしない


「だれもいないのか!?」


虚しく響くわたる自分の声

ただ部屋の外からはその声に応じたかのように、物が倒れる音が断続的に続いている





族が侵入してきたのか?


いや、それなら私の所に何かしらの報告か、銃声などが聞こえるはずだろう


が、物音一つしない


族が一人で侵入してきたのか?


ありえない…


この警備の中、どうやって進入できるものだろうか?

いや、できない


そんなことはありえてはいけないのだ





断続的に枯れ木が倒れるような鈍い音が響いてくる


何が起こっているんだ!?






携帯も何故か通じない


まるでこの世界で独りぼっちになってしまったような感覚











ふいに脳裏に一人の少女の姿が過った


そうだあいつは…


黒いレイヤーフリルの服に身を包んだ少女





はいないのか!?」



響き渡る声


自分の声なのに、ただその場に響く音はまるで初めて聞くかのような音



声が木霊する


いつまでもいつまでも、山彦のように



数秒がまるで何時間も経過したかのような感覚


そのまま虚空に消え去ると思われた音





カタッ







小さな音が響いた







か…?





音のした方を向くが誰もいない

ただ闇が見えるのみ


漆黒の暗い闇が…




























……




…………






……………………













ふと、闇に向いていた意識が元に戻った




ふと、違和感



なんだ?何かがおかしい



ただその場で息を吐こうとした



イキがはけない?



ただその場で言葉を紡ごうとした



言葉がでない?




なぜ?





意識は妙に覚醒している、ただ自分のしたい動作が行えない






さらに違和感





ふと、視線を下に向けると



























真っ赤に染まった、胴体が見えた


腸をだらりと垂れ流した腹


絶えず赤いものを噴出する血管


ありとあらゆるものが崩れ落ちていく








コレハナンダ?







ダレノダ?








返事はない















ああ、







コレハ



















オレノ、胴体カ……




































確実ニ死ニ至ル損傷



痛ミモナク、タダ意識ダケガ現実ヲナガメテイタ



























タダソコニアル、

































黒ノ少女ヲ