「……」

足元に転がる肉塊を一瞥し、黒い念を具現化

手の中のオーラが黒い鳥のようなものへと変化する



  ダーク
"漆黒鳥"




あたしの手の中で生まれ出たその鳥は漆黒

まるで闇が生まれてきたかのようなそんないでたち


仕事終了の報告
別に動いている仲間への報告をしておかないと計画に支障が出てしまう




そっとその鳥に向かって伝言を伝え、鳥を解き放つ

あたしの枷から解き放たれた小さな黒い鳥

障害物など気にする様子もなく、ただその翼を翻し大空へと飛び立っていく









「ル…イ… ナ…ゼオマ……エガ……」

足元に転がる、前はダグラスと言う名だった肉塊

ただ死ぬことも生きることもできないその物体


「……ナゼ……ダ…」



なにやら言葉を発しているようだが




「次の予定は…っと、フィンクスと合流しないとかな」




今のあたしの耳には届かない


既にターゲットではないものに興味などない


「タス……ケ…………」







バタン




肉塊とかしたそれに一瞥を向けることもなく、あたしはその部屋を後にした














部屋に残るのは、いつ終わるとも知れない終わりをただ求めて足掻く、一つの肉塊が残っただけ























 
ダーク
"漆黒鳥"は具現化系の能力である私の能力で具現化できる一つ
伝聞を伝えることで、それを特定の対象に向け送ることができる
使用条件は、相手が念をある程度使えること

まぁ念使えない人にでも送れるんだけど、いろいろ問題が出てくるので使えない


クロロ曰く、規格外の具現化系の能力らしい


実際はこの能力、いろいろと応用が利いたり、本来の使い方なんかもあったりするのだが

わざわざ全部の能力を教えることもない
もっともクロロだけは、私のこの能力が何か本来の使い方があるようなことに勘付いているようだが


あたしは全てを知られるわけにはいかなかった、例え人形だとしても


あたしという存在が旅団にあり続けるために、人の中に居続けれるために


能力だけ奪われて、動かない人形にならないように…

















「お、の方も終わったみたいかな」

手の中にはから送られてきた漆黒鳥がしきりに伝言を伝えてくる


これ、慣れないんだよねぇ


まるで本人とそっくりな風に、ただそこにいる鳥

ただそこに居るというのに、その伝言の内容を無理やり対象に送りつけてくる

相当念を使って注意してないと、こいつに精神を喰いつくされかねないほどの危険な代物だ



少し念を加えてやり、漆黒鳥を無に返す


の能力は凄い

旅団の中でもかなり特殊で、旅団としてもかなり使える能力なんだけど…


それでも旅団の中にはについて危惧する奴が何人も居る


普段の彼女はおとなしい、まるで人形のようにただじっとして、時折旅団の誰かにくっついていたりする

最近はマチやパク達と一緒に、買い物に出かけることも珍しくはないのだが










えもしれない危険性


ヒソカの様にわかりきった危険性ではなく


ただ何か危険である、そういうヨクワカラナイ危険性











それが一番厄介なのかもしれないな















ピリリリリリピリリリ


テーブルの上においてあった携帯が、自分の存在を主張するかのように鳴り響いている



っと、思案に耽っている場合じゃないか


今は作戦行動中、指揮を任されている以上、失敗は許されない




改めて気を入れなおし、ネコ型携帯を手に取り、指示を送る



「フィンクス、の方は終わったみたい。そっちはどう?」

「ああ、こっちもちょうど終わったぜ」





























「フィンクス」

森をいくつか抜けた所で、フィンクスを見つけた。

あたりには砕け散った金属の破片の数々と、今も火を上げている塊がいくつか
あちこちに転がっている人間で生きているもの、動けるものは誰もいない

この様子だともう終わっちゃったのかな

「よぅ、遅かったな。こっちは全部片付いちまったぜ?」

口の端を歪めながら笑うフィンクス、多少服が煤けていたりするが特に傷を負ったということもなさそう


「城にいた傭兵が意外と数が多かったの。まったく保身が過ぎる御主人様」


「元、だろ?」

「まぁね、で目的のものは回収できたの?」


ダグラスが輸送していた財宝類を強奪するのが今回の任務

車何台かで運び出していた姿が今ここにないってことから成功したっぽいけど


「ああ、大体は回収できたぜ。ただな」








プルルルプルルルルル


会話を途中で遮る様に、フィンクスの携帯が鳴り響く


「っとシャルからかな、もしもし」


フィンクスが携帯を取り出し、シャルとなにやら喋っている

たぶん今回の作戦についてのこれからの行動のことだろう




今回の作戦、ダグラスの財宝を盗む作戦に主に関わっているのは私を含め4人

シャルナークとフィンクス、シズク、そしてあたしだ


クロロとほかの団員たちは別の仕事に行っているため、シャルナークが指揮をしている


シズクとシャルナークが財宝の運び役

フィンクスが強襲、そしてあたしが斥候役





シャルナークのアンテナで操ったトラックの運転手を指定の場所まで誘導し、そこで待ち構えていたフィンクスが周りの部隊の相手をする


その間にシズクが財宝を全て、デメちゃんで吸い込み、シャルナークとともにその場を離脱




これが今回の作戦の全貌だった





財宝が運び出されるまで待ったのは、シャルの情報収集能力でも城のどこに財宝が保管されていたのかわからなかったことと

財宝の量が未知数だったから


だからあたしが斥候としてダグラスの城に入り込み、その運び出す日、場所を捏造したのだ


ダグラスに仕えていたのも、城の中で働いていたのも全てはこの時のためのものだった















「深緑の月がない?」

「うん、シズクから財宝を出してもらって調べてたんだけど、どこにもないんだ。フィンクスあいつらと戦ってて何かおかしかったこととかない?」


「おかしかったことぉ?ああ、そういえば手ごたえのある奴がぜんぜんいなかったな」


「ふむ…、ちょっとに代わってもらえる?」







「シャルが聞きたいことがあるってよ」

なにやら話していたフィンクスが、あたしに向かって自分の携帯を投げる


「ん?」


ぱしっと飛んできた携帯を受け取る


「もしもし?何か用?」


久しぶりー、元気してた?」


電話口からはシャルの軽やかな口調が飛び込んでくる

「1ヶ月ぶりくらい? いつもどおりだと思うけど?」

シャルナークのこういう話し方はいつものことだ、もう慣れてしまっているので適当に流しておくに限る

「うーん、つれないなぁ。っとそうそうあの城でがそれなりに注意してた人物っている?そこそこ強そうな奴とか」


強そうな人…

シャルの言葉にあの城にいた傭兵とかの顔を頭に浮かべるが、該当しそうな人はいない

あっ、そういえばあの人だけは念が使えるみたいだったかも


「執事のオラン=リコ。彼だけは念使いっぽかったし、そこそこ強そうに見えた」


「オラン=リコね。フィンクスにまた代わってもらえる?」


近くの岩場に座っていたフィンクスに携帯を投げ返す

「っと、大事に扱えよ!?」


ちょっと怒ったような口調だが、気にしないでおこう。

普段大雑把なくせに、妙な所だけ細かいし





電話をフィンクスに代わり、あたしはまた炎を見つめ続ける。

焼けた鉄の匂い、血の匂い、人の匂い



森に漂う静寂な空気を犯すように赤い炎は燃え続ける





「ちっ、舐めた真似してくれるぜ」


シャルからの電話を終えたフィンクスが悪態をつくように、座っていた岩を破壊している


「どうしたの?」

「ああ、肝心の"深緑の月"がないんだとよ」

「もしかして、フィンクス誰か逃がした?」


「俺がそんなヘマするかよ?今シャルの奴が調べてるが、どうもさっきお前が言ってたオランって奴が運んでいたっぽいな。
 おまえも運び出されてないことに気づかなかったのか?」


「うん、オランだけはダグラスから直接命令を受けてたし。 財宝の方を囮に使うとはね」









深緑の月、今回のメインターゲットの指輪。

この世界でもほとんど存在しないといわれる、幻の金属、深緑鋼で作られた指輪だ

深緑鋼自体が、世界でも数kgしか存在しない上、加工が難しく、その完成品といわれるものは世界に5個もない


その中で最も美しく、完璧な深緑鋼の造形物として有名なのが、この深緑の月である。


20年ほど前、とある大富豪が所有していたのだが、その死後行方不明になっていた。


クロロも見たことがないほど希少なものらしく、シャルがクロロから頼まれてずっと情報を探しており、つい数ヶ月前にこの城に辿り着いたのだ。


数ヶ月前、この放置されていた城を突然買い取ったダグラスの存在、そして彼の生い立ちから、その城に何かあるのは明白だったが、その城に何が存在するのかまでは調べられなかった。


故に、あたしが斥候としてこの城に潜り込んだのだ。

















「ねぇフィンクス、皆元気だった?」

「あぁ?まぁ元気だったんじゃねーか?
 といってもホームにいた奴なんか数人だがな」

仕事とはいえ、1ヶ月旅団の皆と離れていたのだ、寂しくないといったら嘘になる。


「クロロは?」

「団長はホームでなんか読みふけってたな、まぁ半月もしないうちにどこかへ仕事にいったみたいだけど」


いつもどおり過ぎるクロロの様子に、妙に笑みがこみ上げてくる
まぁ奇抜なことをしているクロロなんて想像もつかないけど


「じゃあパク姉は?」

「パクはホームにはいなかったな、って全員分聞くつもりじゃないだろうな?!」

「だめ?」

「いや、だめじゃないけどよぉ。そういうお前はどうだったんだ?」

「気になる?」

「な、別に気になんかなってねーよっ!話の流れって奴だ!」


妙に焦ってるフィンクスがかわいいかも…







プルルルルプルル


携帯が鳴り響き、天の助けとばかりにフィンクスが携帯を取り出している



「ああ、わかった。じゃあ先に行ってるな」

シャルと2,3話交わして携帯を切るフィンクス


「場所わかったの?」


「ああ、この森から少し離れた廃墟が名義上ダグラスの部下の名義になってるらしい。
 現地でシャルと合流して、深緑の月を盗んで仕事終了だ」








フィンクスの携帯に送られてきた地図の情報を元に、あたしたちは走り出す。




仕事はまだ、終わらない。