ひゅーひゅうううう


吹きすさぶ寒風

街の一角にあった廃墟はまるで、お化け館のような印象を与えてくる。

いや、この街自体がゴーストタウンというべきかも





小さな町はひっそりと森の中に埋もれ、人の気配をまったく感じさせなかった。

















「ちっ、どうなってやがるんだ?」

あたしとフィンクスがその街についたのは、シャルから連絡を受けて30分後
とてもじゃないが、オランがその場から逃げ出す、もしくは何かしらの対処をしている時間はなかったはずだ。


「……」


その街には、あたしたちが予想していたものがなかった

この宝を守るための厳重な警備、そしてその宝を持っているとオランの姿


そんな予想の全てがその街には何もなかった。


廃墟の町には、ただ孤独が漂うのみ。




ただ、まだ新しい足跡があることからこの中に人がいるのは確かだけど…








、ちょっとこっちこい」


フィンクスの声がした方に進んで行く。

あいかわらず辺りからは何の気配もせず、ただ空虚な空間が続くのみ。


「こいつがオランって奴じゃないのか?」


フィンクスが指差す先に倒れふす人影

辺りは既に日が沈み、闇が訪れようとしていたが、その人影が見えないほどではない。



近くにいって観察する、見慣れた執事服に、がたいのいい体系

まさに見慣れたオランのものだ


ただちょっと違うのは、オランの真下が黒く血塗れていることだけ



「うん、間違えないよ。この人がオラン=リコだよ」



どうなっているの?
オランはダグラスの命令で深緑の月を、ここまで運んできたはず
その情報は、オランについでダグラスの傍にいたあたしにすら秘密にされていたことなのに


野盗か何かの襲撃にあった?

いや、違う

オランがその辺の野盗ごときにやられる人物でないことは、あたし自身よく知っている。


ならばなぜここに倒れている?

答えは不明


「とにかく、シャルに連絡だな。一応調べてみたが深緑の月らしいものは持ってねーし」


何が起こっているのかわからない、まったくの予想外


蜘蛛の仕事でも、これだけ予想外の出来事が起こるのはそうそうないんだけど…







あたしがオランの遺体を確かめるように、その傍らに行ったとき



ざわっ

っと言う音がするかのように、辺り一面の空気が揺らいだ。


























「ちっ!嵌められたか!?」


空気の揺らぎは、徐々にその幅を大きくし、あたしとフィンクスを囲むように展開していっている。


1、2、3、4、5人…


周りから感じられる人の気配は5人、円も使っているが、絶を行っているものは誰もいない。

舐められたもの、否、隠れる必要がなかったのだろう

つまりは嵌められた。

あたし達は彼らによってここに誘い込まれたのだろう。





「誰だてめーら?」


「ふっ、顔見知りに向かってその言い方は酷いんじゃないか?なぁ、フィンクス」


ゆらりと暗闇から姿を現したのは、白いコートを纏った長身の男性。

くすんだ茶色の髪の毛は肩にかかるくらいの長さで、特に揃えられる事もなく無造作に風に揺れており、

そのすらりとした肢体からは、一見やさっぽい兄ちゃんのような雰囲気を醸し出しており、
飄々とした態度をとっている……が、その身体から発せられる圧力は常人のそれとは桁外れ。

いや、そんじょそこらの念能力者なんて目じゃないくらいの威圧感。


あたしの中の警鐘がすごい勢いで鳴り響く。

キケンキケンキケンキケンキケン……



「なっ、レイラン!?なんでてめーがこんな場所にいやがる!!」

「私がこの場所にいる理由っていったら、一つしかないだろう?」


フィンクスも全身から殺気を溢れさせているが、まるで気にする様子もなくレイランと呼ばれた男は話を続ける。


「君らがダグラスの屋敷を狙っているという情報を掴んだんでね。こうして罠をはらせてもらったってわけさ」


「あなた達は……何者?」


「おや、初めましてかな?お嬢さん。失礼、自己紹介が遅れたな。我々はACEの物だ。こう言えばわかるだろ?」


「ACE…」

その言葉にあたしの脳内でクロロが言った一言が思い出される。


「ACEとは関わるな、もし仕事で鉢合わせたらできる限り逃げることを考えろ」


クロロが仕事のことに関してそんなことを言うことは滅多にない。

いくつか注意すべき人物は教わっているが、それでも蜘蛛としての仕事を優先させることと、普段から言っているクロロが
このACEという存在だけは注意するように、なるべく避けるように注意をしてきた。



このクロロが口にしたACEという言葉が気になり、シャルに教えてもらったことがあったが、そのときのシャルもあたしに絶対にACEとは関わるなという忠告を残していた。


「ACE、ハンター協会が仕事を割りふる、協選の中でもさらに得意な集団。
 実力者のみで構成されたその部隊は、一般のハンターじゃ手に負えない集団や大規模犯罪、大規模テログループなどの取り締まり、各国間の戦争時の取締りを行っている。
 ハンター協会の副会長を中心に組織され、かなりの自由度と権力を持たされているが、その活動における2次災害、一部のメンバーの多大な殺戮行為、ハンターの自由性を奪うこと、
 そしてその力の乱用が、ハンター協会内部で是非が問われている集団、でしたっけ?」


「きつい言い方をするお嬢さんだなぁ。まぁ大体はあってるけどね、つまりは君たちみたいな集団を取り締まる集団のことだよ」


レイランがあたしたちを前に話してる間にも、周りの4つの気配から気が抜かれることなく、その包囲網は徐々に縮まってきている。


「オランがここに来ることも予測済み?」

「ああ、こっちにそういう能力者がいてね。
 こうして戦いやすい場所に君らを誘い出してくれたことには感謝してるよ」

「オランを殺す必要はあったの?」

「殺人、換金、窃盗…」

「え?」

「このオラン=リコという男がやってきたことだよ。元所属していた軍隊で仲間を殺戮、その能力で一般人や要人を暗殺。
 またダグラスの執事になってからも、盗みや殺しをたくさんやっているね。極刑物だろ?」

ははは、と笑いながらレイランが説明を続ける。






こいつら…、なかなかたちが悪い。

絶対正義の名の元に、殺戮を繰り返す集団。



「わかったかね?お嬢さん。つまりは我々は君たちを裁きに来たということだよ」


「たった二人相手に、能力者5人で?」

「おいおい、その言い方じゃこっちが一方的に悪者みたいじゃないか。万全を尽くしたといってほしいね」



辺りからびんびん伝わってくる5つの殺気はさらにその包囲を狭め、あたしたちの退路を遮断する。


「ねぇ、フィンクス。実際彼らってどうなの?」

傍にいたフィンクスを捕まえて、小声で尋ねる

「まずいな…、団長も言ってたとおり、あいつら一人一人が厄介な相手だぜ
 特に今、前にいるレイランの奴の能力と俺の能力は相性が悪過ぎる。
 1:1なら負けるつもりはないが、5人もいやがるとさすがにヤバイな」


ぎりっと奥歯をかむようにしてフィンクスの顔が歪む。

普段自信満々に発言しているフィンクスが、こういう顔をするのを見るのは初めてだ。


イコール、相当やばいってこと


この5人相手だとあたしの能力を使っても逃げられそうもないし…


「とにかく、むかつくが取り合えず逃げる方法を考えるしかねーな。まともに戦えるのが俺だけじゃ到底勝ち目はねーし。
 シャルがくれば何とかなる。それまで持ちこたえるかしねーとな」

あたしも戦えるぞ、と言いたかったがやめた。

フィンクスが知っているあたしの能力では、彼らと到底渡り合えないことは彼の頭の中で明白なのだろう。


フィンクス、いや旅団員が知っているあたしの能力は、幻惑、操作。

蜘蛛の中でも、情報収集、後方支援をメインとしているあたしの能力じゃ彼らとは渡り合えない。









「作戦はまとまったかな?そろそろ行かせてもらうぞ」


掛け声とともにレイランがその身を翻し、こちらに一目散に走ってくる。


そう、あたしの方へ

「悪いなお嬢さん。未知数なあなたには先に倒れてもらう」


ふっと視線を戻したときにはもう遅かった。

目の前に現れたレイランの白い腕があたしの首筋に打ち落とされー…


ドンッと言う音とともにあたしの体がはじかれた




「お前の相手は俺だって言ってるだろーが!」


怒号一線、横手から現れたフィンクスの拳があたしに伸ばされた腕に命中していた。


「ッツ!やるなフィンクス!」


レイランの体がフィンクスの方に向き直り、その体からすさまじいオーラが放出される。

「チッ!」

何かに感ずいたかのようにフィンクスの体が後方へ飛ぶと、今さっきフィンクスが痛い地面がまるで剣山のように砕け散る。


何が起こったの!?

まるで見えなかった、おそらくはレイランの念能力だろうけど…



その間もフィンクスは何かを感じたかのように、その場で身を翻し続ける。


凝を使ってみると、フィンクスがなぜその場で身を翻し続けているのかがわかった。

レイランの体から極細のオーラが針状になって飛ばされているのだ。
おそらくさっき地面が爆砕したのも、この能力を一箇所に集中して発射したのだろう。

さらにレイランの体から幾本ものオーラの槍が降り注ぎフィンクスに襲い掛かる

「ちっ、だからおまえの相手はしたくねーんだけどな!」

怒号とともにフィンクスのオーラも跳ね上がり、飛来する槍の数々をオーラをこめた拳で弾き飛ばしながらレイランへと接近する。



レイランへとフィンクスが接近し、その拳を振り下ろす。




ズゴゴゴゴゴォオオオンン!!



まるで火山が爆発したかのような爆音を立てレイランの立っていた位置を爆砕する。



粉塵が収まり再び対峙する二人、服が破れ多少の傷を負っているが、特に致命傷に至る傷はない。


「その程度か?フィンクス」


「けっ、まだまだだぜ!」



お互いの姿を捉え、それがまた戦いの合図となり、辺りに粉塵が舞い上がった。

















さて、どうしよう


レイランとフィンクスが戦っているとはいえ、辺りにはまだ気配が4つ

レイラン並みとはいかないものの、ほぼ同等の力を持っていると思われる4人


とてもじゃないけど、逃げられそうもないなぁ


           
ストレイワールド
あたしの能力、訪れし漆黒の世界は、辺りに空間を具現化する力

擬似空間を一時的に作り上げ、その空間を操り敵を幻惑、殲滅する能力


ただそれでも、この4人を相手には通じないだろう


いくら擬似空間を作り出しても、彼らの数が多ければ、その空間も意味を成さず

それに急に生み出した空間じゃ、もって1分


その間に逃げ切れる自信はないし、彼らの能力も未知数すぎる



つまりは、シャルとシズクが来るまで何とか時間を稼がないと死ぬ。









不意に目の前に生まれた気配


デジャヴ
即視感



脳が体に情報を伝えるより早く、あたしの体は身を縮めていた。



ブォン!



空を切る轟音






あたしの目の前をまるで大木波の圧力を持った腕が通過していた




「ッ!」

吹き飛ばされそうになるのを、足にオーラを込めなんとか立ち止まる。




「避けられた、折角子供のミンチができる所だったのに」



目の前には大柄な、変なマスクをした男が一人


腕にはまるでとげが巻かれているようなプロテクター



漫画とか、アニメだとこういうキャラは弱いってのが相場だけど…




目の前から発せられるオーラは、常人のそれをはるかに凌駕していた




ズバッ!



不意に横手から何かが飛来し、あたしの服を掠めていく



「あら、こっちもはずしちゃったわね」


横手に注意を向けると、ひょろっとした不気味な姿の男が一人

その指には長い鋼鉄の爪がつけられており、先端にはあたしの服の破片が絡み付いている




「さぁ泣きなさい!喚きなさい!わたしたちを楽しませて頂戴!!」



巨体の男と、ひょろっとした男


二人が同時にあたしに向かって攻撃を始めた。












ブオン!


右からせまり来る轟音、攻撃は単調だがその一撃に込められた念は危険すぎる。

「くっ!」

あたしの防御じゃ打ち抜かれるそれを、後方に交わして避ける。
さらにそこへ、爪の男が放ったと思われる何かが飛来し、あたしの足を掠めていく。


「ホーホホホホ、幻影旅団と言っても他愛無いものね」


切られた箇所は…そう深い傷じゃない


これならまだ動ける



豪腕の男の攻撃は単調、ただ馬鹿みたいに念が篭っているだけ

爪の男は、攻撃自体は厄介だけど、あたしの念の防御でも致命傷を食らうことはない


ただ、この二人がコンビネーションを組むと厄介すぎる。


3度大男の拳が振り下ろされ、あたしは後方へとかわす。


爪の男は…?


不意に視界から爪の男の姿が消えていることに気づき、警戒したが、…遅かった



「かわいい背中ががら空きよ?」




ザシュ!!



あたしの背中に爪の男の、鋼鉄の爪がつき立てられた。











































ったく、こいつの相手は面倒すぎるっ!

レイランの体から飛来する幾本もの針をかわしつつ、接近を試みる

幾度目かの攻撃もレイランの体にクリーンヒットすることなく、地面を打ち砕く


その粉塵からさらに数十本物オーラの槍が飛来、


「ちぃいぃいい!」

腕にオーラの攻防力を集中させ打ち落とすが、打ち落としきれなかった幾本が体を掠めていく。



「いつまでもつかな?」

粉塵の中からは、同様に幾筋かの傷を持ちながらも、こちらに攻撃を束してくるレイランの姿


飛来してくる小型の槍を交わし、再度レイランの懐へと飛びいる


「何度やっても同じことだ!」



巻き起こった粉塵

レイランの念の気配から、奴がその場から飛び去ったことを感じ、


腕の回転を上げる。


レイランの位置はさっきのいた位置、つまり爆砕された位置から数歩後ろに下がった程度の場所


貰った!


リーフサイクロン
「回天!」


「っッ!!」


腕を20回ほどまわした所で繰り出した拳が、数歩下がったレイランの体に直撃した。

















煙が巻き起こる、それは先ほどまでの比じゃないほどに

完全に決まった、ウヴォーの超破壊拳ほどじゃないだろうが、あれを直撃すれば致命傷にはなりうるだろう


仮にも奴は放出系、純強化系の俺の攻撃を防ぎきれる道理はない。


「へっ、口だけかよ」



爆煙収まり、倒れ臥すレイランを確認した瞬間


ズバッ




脇腹に激痛が走った。














最初何が起こったのか、わからなかった。

回天は確実に奴の身体を捕らえた。


確実に致命傷に至る傷のはず。

だが奴は何かを俺に向かって放ってきた、それも強化系の念のガードを貫くほどの何かを

奴のほうも無傷と言うわけではなく、そのコートはぼろぼろに霧散し、あばらの2,3本は折れている様だが、


俺の傷のほうが多分深いだろう


貫かれた脇腹は、何とか臓器を避けているようだったが、止め処なく溢れ続ける血が力を奪っていく


「言ってなかったか?このコートは多少なりとも念の力を分散するって」


いけしゃーしゃーと言い放つレイラン。
つまりカウンター、おそらくレイランは回天を打ち込まれた瞬間に、放出系の力を一点に集中し放ったのだろう。


放出系の力を限界まで圧縮し、それを近距離で放ったことにより、強化系の俺の防御力を上回り貫いた。

故に、直撃を覚悟していたレイランより、俺のほうがダメージが大きいのは明白ってやつか…



「悪いが加減していると、こっちもやられるのでね」


あばらを抑えながら立ち上がり、レイランはこちらに向けて手を翳す。



ちっ、やべぇ


今この状態で奴の攻撃を食らったら…、おそらく致命傷になる




は…?



視界の端にが背中から刺されているのが目に入った。




「それでは、さよならだ」



レイランの手にオーラが凝縮していく。




こりゃ、やべぇかな…


























鋼鉄の爪はあたしの背中に突き刺さっていた。

噴水のように湧き出る赤い何か


まるで生命そのものが飛び出るように、あたしの背中から放出し続ける




「ホーホホホ!綺麗よあなた。本当は生かして持ち帰りたい所だけど…。能力が未知数なだけに始末しておくに限るわね」


薄れ行く意識の中で爪の男が、大男に対しあたしに攻撃するよう告げたのが耳に入った。


目の前に飛来する大男の腕


硬の念が篭ったそれが、勢いよくあたしの頭上に振り下ろされた










飛び散る何か


飛び散る赤い液体











あたしの意識が白光に散った