無人のゴーストタウンに、まるでミサイルでも落ちたかのような轟音が響き渡る。


巻き起こる粉塵、飛び散る肉片



赤い液体を辺りに飛び散らせながら、臓物をぶちまけながら、その体が爆散する



辺りには、ただ死の臭いだけが立ち込めていた





























何が起きたのかわからなかった



体は爆散した



血は辺りに飛び散った



臓物は辺りにぶちまけられた



何が…起こった?



























爪の男はその様子に、ただただ動きを止めていた


飛び散る肉体、飛び散る生命


それは彼が望んだ物だった


彼は人が死ぬ瞬間、死を感じさせる物に興奮を覚えた


綺麗に飛び散る血が好きだった。







彼の目の前で行われた光景は、彼を興奮させた


ただひたすら彼を興奮させた



飛び散る肉体、ああなんて甘美な響き





赤い液体が彼の顔にかかる




生暖かい鉄の味、よく味わった至高の味



舌なめずりして、不意に違和感に気づいた



口を拭うはずだった手が動かないのだ


少女に突き刺さり、そのまま動かさずにいた手が動かないのだ



興奮のあまり、体が手を動かすことを忘れたか?



脳が興奮のあまり、信号を送るのを忘れているのか?



ふと疑問に思い彼の腕を見る


ちゃんと着いてる腕、やっぱり興奮で忘れちゃったのかしら



そのまま目線を指先へと向かわせる



あれ?あるべきはずの物がないわ



手がない?



これは、何の悪い夢?



彼の疑問に答えるかのように、目の前の爆煙が晴れた。

























アタシは誰?


霧散したはずのアタシは誰?


目の前で飛び散るあたしの肉片


あれ、でもこの感じは何?


暖かいこの感じは何?



これは本当にアタシの肉片?










アタシは誰?


死んだはずの あたしを動かしてるのはダレ?









あたしの疑問が晴れるように、世界が開けた。



























レイランの攻撃はいつまでたっても始まらなかった。

不意に疑問に思い顔をレイランが視ている方に向けると、の体に大男の豪腕が振り下ろされる所だった。


巻き起こる爆煙、飛び散る肉片


ああ、ありゃ死んだな

いくらとはいえ、強化系っぽい奴の攻撃をもろに食らったら、致命傷になりうる


さらに奴は腕に全てのオーラを集中していた


もう跡形も残っていないだろう


ただを示す物は、その辺りに散らばっている肉片と、赤い液体だけだろう




レイランが険しい顔をし、のいたであろう場所を見やっている


の稼いでくれたほんの少しの時間、シャルが到着する様子はない



ただただ薄れ行く爆煙を眺め、予想通りの光景を目の当たりにする


辺りには一面の血、残った2つの人影



煙が完全に晴れる


辺りの時が止まった






予想通りの光景…………ではなかった




































煙が晴れた


あたしはただ立っているこの場所に


先ほどと変わらない場所に





右目が熱い

ほとんど見えないはずの右目が熱い


燃え盛る炎のように、まるで焼き鏝を当てられたように



熱い、熱い熱い熱いアツイあついあついあついあついあついあつアツイ!!!



























煙が晴れた後には二人いた。


爪の男と、…ぼろぼろの黒い服を纏った少女




豪腕を振り下ろしたはずの大男の姿はどこにもない




あたしがアタシでなくなる瞬間


大男は爆散したのだから


















振り下ろされる豪腕を視つつ、あたしの中の何かがはじけ出る

黒い何かがはじけ出る


ただその衝動のまま右目で大男の肢体を見つめ、手を差し入れた


大男の肉体の中に


後は簡単、そのまま爆散してやればいいだけ


大男の体の中に気体状の爆発物を具現化すればいいだけ


外からの防御は強くても、硬で手にオーラを集中していたあなたに防ぐすべはないでしょ?




大男の体が四散する、あたしを捉えていた爪の男の腕も擬似空間を使い、その空間事抉り取る



アア、なんて気持ちがイインダ


あたしの心はタダ開放された喜びに満ちていた











「ああ、なんなの?なんなのこのガキぃぃぃいいい!!」


腕を吹き飛ばされた恨みか、あたしの後ろにいた爪の男が攻撃を繰り出してくる


爪がなくても攻撃できるって事は…具現化系か放出系か変化系ってところね
爪を具現化しているわけではない


距離をとるあたしの身体めがけて何かが飛来しているのだ


右目でそれを見やる


曲線を描いた空気の鎌があたしに向かって幾本も放たれているのが、視える


風を操作、放出する能力者ね
おそらく爪はその能力を隠すための、武器に過ぎないのだろう


数十本単位で飛来する風の鎌をただ流れるように避け続ける



「ちょこまかと!」


苛立ったかのように数百本単位の風の鎌があたしの周りを取り囲む


風の鎌を見えにくく、なお全て操作してある程度の威力を持たせ、さらに数百本単位で放つ能力者

まともに戦えば、相当な使い手なのだろう



「串刺しになりなさい!!」


四方から放たれる風の鎌、とても避けきれる代物じゃない



避けきれないのならば…



太ももに括りつけておいたサウザンドを抜き放ち、その能力を開放する


まるでネコのようにくっきりと瞳孔が開いたあたしの黒い右目が全ての風の鎌を捕らえ、サウザンドを振るう。


飛び来る風の鎌は、その全てがまるでサウザンドの漆黒に吸い込まれるように、切り刻まれ霧散。


何度も何度も同じような攻撃を放ってくるが、あたしにはそんな物効かない。



顔に微笑を称えたまま、あたしは爪の男との距離をどんどん詰めていく。



「く、くるなああぁあああ!!」


あたしの身体から立ち上る黒いオーラ


瞳孔の開いた右目が彼の身体を捕らえ、




あたしの右手の黒いオーラが、彼の体内へと潜り込んだ










    
ブラックビート
「"圧縮された死の鼓動"」


彼の体内で、ただ一つの心臓が轟音を上げ振動する



「アヒ、アヒィイイイイイイイヒヒヒヒ!!」



ドクドクドクドクドクドクドクドク



まるで外にいるあたしたちにも聞こえるくらいに彼の心臓が轟音を上げ、






「アヒ…………」


ぐちゅ






その振動に耐え切れなくなった彼の心臓は、


あっけなくその役目を終え、




彼の体内で潰れた



















爪の男が崩れ落ちる


まるで悪い夢でも見たかのように

















爪の男は倒した、大男も倒した


あとはレイランと、周りにいる二人の男だけ



あたしの身体が悲鳴を上げる、あたし自身の力についていけないあたしの身体


身体の中から黒いオーラに蝕まれていく



右目がうずく、瞳孔の開いた右目が、全ての存在を映し出していく


全ての黒を映し出していく







レイランは警戒を解くことなく、ただあたしのほうを見続けている


他の二人も姿こそ見えないが、あたしのほうを警戒しているのがわかる





これ以上時間がたつのもまずい…が、彼らの警戒網を潜り抜けてフィンクスとともに逃げ出すのは不可能に近い



フィンクスの方も反撃の機を狙っているようだが、あの怪我ではレイラン相手でもかなりきついだろう




あたしの右目が彼らの念を映し出していく


…強い



残った三人は、あたしが相手にしていた二人なんかと比べ物にならないほど強い




どうしよう…


不意に考え込んだあたしの念のセンサーに、別の念が飛び込んできた

この感じは…












「隊長、北の方からもう一人念使いが来ます!おそらく幻影旅団の一員です」


「ちっ、3:3か。これ以上こっちも戦力を疲弊させるのはまずいな。とりあえず今回は退くぞ。
 お前との勝負はお預けだなフィンクス」



レイランはそういい残すと、怪我を負った身ながら華麗な身のこなしで闇の中へと消えていく。

周りにいた二つの気配もそれと同時に闇の中へと消えていった



入れ替わるように、懐かしい念の波動


「遅くなった大丈夫?」


「大丈夫じゃねーよ!ってて」


のほほーんとやってきたシャルに、フィンクスが怒号を浴びせている。


あー、もう限界っ


闇の右目が閉じられる


!」

シャルが駆け寄ってくる気配がしたが、あたしはそのまま意識を闇へと手放した。


























「レイラン隊長大丈夫ですか?」


「ってぇー、フィンクスの野郎無茶苦茶しやがって」


強がって見せていたものの、フィンクスの回天をまともに受けたのだ。

コートで分散されていたとはいえ、まともである筈はない。


「あばらの半分は持っていかれたよ。まぁそれよりも…」


レイランの脳裏にはただ一つの事例が鮮明に残っていた

フィンクスを仕留めそこなった事より、自分の怪我よりもただ一つのことが









あの瞳孔開いた黒い右目、あの微笑、そしてあの黒いオーラ


黒い短剣を携えた少女


爆散する男、悪い夢を見たかのように地に伏せた男









まるでそれ自体が悪い夢のように…











 ナイトメア
「悪夢の王…」



































レイランに待機を命ぜられていた、もう一人の白コートの少年

彼もその事態に驚いていた

それ以上に彼の心に疑問の火を灯した。



殺戮が行われる惨状よりも…


あの少女が持っていた黒い短剣に





「あれは…サウザンド…?」







少年の疑問は尽きない

ただわかったのは、彼の目的にあの少女が深く関わっているらしいということだけだった。