目の前に広がる湿原

沼地というのが気になるけど、結構綺麗な場所だと思う


「ヌメーレ湿原、通称"詐欺師の塒"。 この湿原の生き物はありとあらゆる方法で獲物を欺き捕食しようとします」


サトツさんによる、ヌメーレ湿原の観光案内もよそに、あたしはただ苛々していた



後ろからずっと送られてくるヒソカの殺気が煩わしくて…





いつからだろう、最初から?

ヒソカの殺気はサトツさんにずっと送り続けられていた

近くにいなかったから気にならなかったけど…

こうしてヒソカの近くに立つとその殺気に苛々してくる


それはサトツさんだけじゃなく、あたしにも向けられているものだから


















「ウソだ!! そいつはウソをついている!!」

突然後ろ手からかけられた声

今上ってきた階段の影からぼろぼろになった一人の男


「そいつはニセ者だ!! 試験官じゃない オレが本当の試験官だ!!」


何を言っているのだろうこの男は、こんなところでぼろぼろになる試験官がどこに居る

そもそも念すら使えてないし


「ニセ物!? どういうことだ!?」

その嘘を見抜けない受験者達は口々に、疑問の声を上げ続けるが、それは滑稽でしかない



こんなこと滑稽でしかないのに…


「人面猿は新鮮な人肉を好む、そこで自ら人に扮し言葉巧みに…」








……うるさい


うるさい


うるさい


うるさい…


うるさい…っ!



おまえみたいな人間いっぱいみてきた



うるさい

うるさい


これ以上喋るな、これ以上嘘を舌に乗っけたその口で話すな



去来する記憶、忘れていた出来事




これ以上、あたしを苛立たセルナ…





「他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!」


言葉巧みに受験者をだまそうとするサル

サルに悪気はない、それは自然界の掟なのだから



でも、でもそれが人の形を借りて、まるで一人の人物を追い詰めるように煽動する様子はまるで…







銃で撃たれた

ただそこに居るだけなのに、様々な人に追いかけられた

あたしがそこに存在している事自体、世界に拒絶されタ







どこにもなかったはずの様々な記憶が、あの日以来感じた事のない感覚が

あたしの中で渦を巻く






「そいつはハンター試験に集まった受験者を一網打尽にする気だぞ!!」





…プチン



うるさい、キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ
キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ


それ以上、あたしの気持ちを掻き乱すなぁああアア!!




    
ぶわっ


あたしを中心に刹那巻き起こる黒い風

いや、黒いナニカ



      サル
「五月蝿い、偽者」


                      ふり
抑えきれなくなったソレが一瞬のうちに試験官の格好をしているサルに襲い掛かり、





「な、なにををおをおおをををキキィー」



グチャ



試験官の格好をしたサルの身体が爆散する





うっすら開いた右目の瞳孔が、さらに逃げようとするサルを捉え、



飛来したトランプに打ち抜かれた




ヒソカ?





「くっく★ なるほどなるほど◆ そっちが本物の試験管だね」


一斉に、ヒソカの方とサトツさんのほうを見やる受験者達



……急に出てきた破壊衝動

それは今も収まっては居ないけど、先ほどよりも弱くて…


ほかの受験者達の視線がヒソカの方にいったのに安堵した


よかった、ヒソカのほうに目がいって

今ここであたしの能力がばれると厄介だし

力が出たのも一瞬、たぶんアレもヒソカがやった奇術だと皆思ってくれただろう


抑えてたつもりが、もう覚えてないはずが、なぜかあたしの感情を揺らがした

あたし、カイトさんに出会ってから、この場所に来てから少しずつ代わっていってる?


自分のことながらヨクワカラナイ






ヒソカの方に視線を向けると、ヒソカはさっきサルにトランプを投げたとき、サトツさんにも投げていたらしく、
なにやらサトツさんからお説教を食らっていた


ちょっとだけヒソカに感謝…かも

























「ねぇクラピカ、さっきのってもしかして?」

「いや、わからない。 でもあの少女からただならぬ気配がしたのは確かだ」

の異変に気づいたのは極わずかの受験者だけだろう

あの人面猿が話し始める前から、妙に苛々した様子で、話し始めた途端急に殺気が膨れ上がった


ヒソカの殺気と混ざってしまって気づかないものが多かっただろうが…


それでもあの偽試験官に向けられた殺気は、おそらくヒソカのものではなくの物


一瞬爆発的に殺気が高まり、偽試験官に目を移した次の瞬間には偽試験官の体は粉々に砕け散っていた



恐らくに注意していた数人しか気づいていないだろう

彼女が、

「五月蝿い、偽者」

とつぶやいていた事を…






























暗い地下道から今度は明るい湿原をマラソン大会

明るいといってもそこらじゅうから霧が出ているので、薄暗いといった表現が正しいんだろうけど


時折あちこちからなにやら悲鳴が聞こえるのも、この森の住人達に騙されてしまった受験者達の物だろう


悲鳴は続く、ただこの森の喜びを映し出すかのように…







「あっはっはっはァーーーァ◆」


びくっ


急に前方から寒気のする声が…

声の主を確かめるまでもなくヒソカだ

あたりに殺気を撒き散らしてるし


多分一次試験のたるさに痺れを切らして暴れだしたのだろう


まぁそういうあたしも森の中をうろうろ歩き回ってたから人のことは言えないけど…



本当は避けていきたいところなんだけどなー

ちょうどヒソカが暴れているポイントが森の中で安全地帯の通路を通っているため、そこを行かざるをえない

他の所通っても大丈夫だけど…、彼らのテリトリーを荒らすのは嫌だし


覚悟を決め、ヒソカが居ると思われる方向に歩を進めると、聞いた事ある声が聞こえてきた

















なんなんだよこいつはよォ!

人殺しまくりやがって、その癖ごほうびに10秒待ってやるだぁ!?


この人をおちょくりまくっている態度に無償に腹が立つ


奴は強い、オレなんかが何人束になった所で勝てる見込みなんかまったくねェ




でも、それでも

「やっぱだめだわな こちとらやられっぱなしでガマンできるほど…… 気ィ長くねーんだよォオーー!!」


棍棒一閃、ヒソカに殴りかかる



もらったぜ!!

ヒソカはその場から動く気配がない


なんだ口だけ野郎か!?


そう思った瞬間、ヒソカの姿がまるで煙のように消えていた



後ろから迫り来る妙な圧力

やべぇ、やられる!?




ドコッ



覚悟して歯を食いしばった俺の耳に聞こえてきたのは鈍い音


あれ? なんでいたくねーんだ??



「!?」


視界の端に何かが飛来してるのが目に入る

あれは…ゴンの釣竿


あいつ戻ってきたのかよっ



「ゴン!?」


ヒソカの興味が俺からゴンのほうへと移る

やべぇ、いくらゴンでもヒソカ相手じゃ分が悪すぎる



「てめェの相手はこのオレだ!!」

再び棍棒を握りなおしヒソカに襲い掛かる


目の前に飛来するヒソカの拳

あァこれはもらったかな…


ふと走馬灯のようにゆっくりと写るオレの視界に、黒い何かが飛び込んできた

























バシッ

レオリオに飛来した拳を受け止める


「ほぅ◆」

ヒソカがうれしそうな微笑を浮かべ、あたしのほうを見やっている



なんであたしはこんな所に出てきてしまったのだろう





ヒソカの所を通り過ぎるといったって、彼らのやり取りに関わるつもりはなかった


例えそれがさっきほんの少し一緒に居た人物の物であっても、気にすることなく通り過ぎるつもりだった


なのに、通り過ぎるはずのあたしは、なぜかヒソカの拳を止めていた




「どういうつもりだい?★」


嬉しそうにヒソカが問う


「気まぐれ」

早くこの場から抜け出したい一心で、あたしは手を振り解き逃げようとする


「待ちなよ◆ ボクの楽しみを邪魔したんだ、それなりの代償は払ってくれるんだろうね?★」


あたしの腕をぐいと掴んだヒソカの腕

とてもじゃないが振りほどけるような代物じゃない


「何が目的?」

「どうして他人に興味がない君が、こいつを助けようとしたのかが気になってね★」


「だから気まぐれだって」


手をつかまれたまま宙ずりになる



これ以上あたしの邪魔をするようなら、たとえ能力を使ってでもヒソカの奴から逃げてやる


「ああ、早々君たちは合格だからもう言っていいよ◆」

ふと、思い出したかのようにヒソカの視線がゴンたちのほうへ向き、

「離しやがれ!」

棍棒で3度攻撃を行っていたレオリオの顔面を強打する



「一人で戻れるかい?」


あたしの事を構う様子もなく、ヒソカはゴンに向け話を続ける


とにかくおろせっての
























「ゴン!?」

倒れているレオリオ、その場で座り込んでいるゴン

あの後ほんの少しの間に何があったのかはわからないが、ただヒソカが黒い服を着た何かをつれて森の奥へと入っていくのが見えた




「こっちだよ!」

森の中、私がレオリオを担ぎながらゴンの鼻を頼りに進んでいく

「そんなにはっきりわかるのか?」

「うん! さんのつけてた服からうっすらだけど、この辺りにない花の匂いがついてたから。 数kmくらい先にいてもわかるよね」


お前だけな…

もはや嗅覚は人間離れしてるとしか思えない




さん大丈夫かなぁ…」

不意にゴンが視線を泳がせたまま、尋ねてくる


私はその場に居なかったから詳しくはわからないのだが

ただという少女がレオリオを庇ってヒソカに連れて行かれたっていう話をゴンから聞いた


私もそれに関しては心配なのだが…、今はゴンの鼻を頼りにヒソカの後を追っていくしかない
























「離してヒソカ」

「だめだね◆ 邪魔した分一緒に走ってくれてもいいじゃないか★」


変態奇術師め、さっきあたしが邪魔した事を根に持っている…

振りをして遊んでいるだけだろう


これだからヒソカは苦手だ


「それにも道わかんないだろ?」

「お生憎様、道はわかります」

「時間内に辿り着けるかい?」

「う……」


確かに森の様子を探りながらゆっくり進んでいては、2次試験の開始時刻に間に合わないかもしれない…


「折角こうやって担いであげてるんだから、たまには身を委ねなよ★」

「いーや」

あたしの今の格好は、ヒソカにお姫様抱っこをされて走っているような物

正直恥ずかしい、でも確かにヒソカの言う事も一理あるし…


それにあたしの力ではひそかの腕を振り払って逃げる事はかなり厳しいだろう

能力を使えば…逃げれない事はないが、こんな森の中で能力を乱発したらそれこそ2次試験に間に合わなくなってしまう




それに、後ろからゴン君たちがついてきているのも感じている

多分、あたしかヒソカの気配か何かを追ってきてるんだと思うけど…


今あたしが別れたら彼らの道しるべすら奪いかねない



っ…!



しょうがない、今だけはヒソカの身体に身を預けて運んで貰おう


「おとなしくなったね★ 諦めたのかい?」


「違っ、どうせ逃げても追いかけてくるんでしょ?」

「もちろん★」

「はぁ、わかったわ。 でも変な事したら…わかってるよね?」

「しないさ★ ほら、チャントボクの目を見てごらん?嘘ついてる目じゃないだろ?」


「嘘くさ…」


ヒソカに連れられて森の中を疾走する


もちろん2次試験会場が見えてきたあたりで無理やり降りたけど…