! 無事だった?」

ヒソカのお姫様抱っこ攻撃から逃れて、一人2次試験会場へ足を向けていると、後方からゴンの嬉しそうな声が聞こえてきた


「ん?」

「ヒソカに連れて行かれたとき、何もできなくってごめんなさい…」

ああ、そういえばこの子はヒソカの胆に圧倒されて、初撃以降固まってたんだっけ

「気にしないで、大丈夫だから」

本当にすまなそうな顔をしてるゴンの顔を見ていると、あたしの中にあった彼らへの気持ちもまるでどこかへ消え去っていくようで…

あたしはただゴンの頭を撫で続けていた























「2次試験は料理よ!!」

あの後、キルアレオリオクラピカとゴンの傍に集まってきたので、そそくさと退散を決めた

多少だけど、一緒に居ちゃいけないって気持ちが薄れた気もしたけど、彼らの様子を見ていると近づけない

いや、近づいてはいけないような気がする


今は、群集からはなれ、ただメンチとブハラと名乗った試験官が出す課題内容を聞いているだけだ



「豚の丸焼き!! オレの大好物 満腹になったら終了。 2次試験スタート!!」


考え事しててあんまり詳しい内容聞いてなかったけど、豚の丸焼きを作ってもっていけばいいっぽい


森の中へと疾走していくほかの受験者を横目に見ながら、あたしも豚を探し始めた









豚…、これを豚と呼んでもいいのかしら?

たしかに見た目は豚っぽい、いや猪のほうが似てるかな?


あたしの何倍もある猪のような豚の形をした何か



周りに居る受験者を見やっても、これを捕まえようとしている所から、たぶん豚で間違いないのだろう


まぁ、これを捕まえるしかなさそうね…







あたしが気配を現すと同時に一斉に向かってくる豚

1,2,3,4, 5匹正直そんなにもお呼びじゃないし…



とりあえずその中の1匹を選んで……、念をこめた拳を頭上に打ち落とす


きゅーっとかわいらしい声を上げて倒れる豚

周りに居た豚は仲間がやられたのを見ると、まるであたしから逃げ去るようにその場から散っていった




豚は確保したけど…、これどうやって丸焼きにしよう



















パチパチパチ


森の奥から現れる人影

「すげぇなお嬢ちゃん。 まさかあんなに綺麗にしとめられるとは思ってたかったぜ」


出てきたのは忍者っぽい服を着た、ハゲ


「見てたの?」


「ああ、あんたがグレイトスタンプに押しつぶされそうだったからな」

へぇこの豚グレイトスタンプって名前なんだ
なんか名前負けしてるなぁ


「このくらい大丈夫よ、ってあんたずっと見てたってまさか…」

あたしが今日来てる服はワンピース、あんだけ飛んだりはねたりしてたら当然…


「い、いやなんも見てねーよ! 白いのなんか見てねーって! って、あ」

この人フィンクスと似すぎ…

嘘がつけないって言うかなんと言うのか



半ば呆れながらもとりあえずグーパンチを一発見舞っておいた








「ってぇなぁこのばか力!」

「そっちが覗き見なんかするから!」

「見たくて見たんじゃねーよ!」


決着のつかない言い争い、先の折れたのは意外にもハゲの男のほうだった


「あー、悪かったよ。 でも、見たのは不可抗力だからな」

そこは譲れないらしい











「こういうのもなんかの縁っていうんかな オレはハンゾーって言うんだ。あんたは?」

よ。 あ、そうだハンゾー、なんか豚焼く物もってない?」

「ああ、今焼いてる所だが… お前まさか焼くものもってないのか?」

「持ってないから聞いてるんじゃないの。 ちょっと借りていい?」

「あーなんでオレが… ああ、まぁいいか貸してやるよ その代わりこれで今回の事はチャラだからな」

「わかった」


怪我の功名とでもいうのだろうか、都合よく火種がゲットできたのはある意味ラッキーとしかいいようがない


それにしても…

ここに来てから多くの知らない人と話してる気がする

あたしがこっちで目覚めてから…まともに話した人物なんて数えるほどだ


それがこの1日だけでもう何人も話している

それも、話していて不快な人はほとんどいない、あたしを襲ってくる人もいない



なんでここはこんなに優しいんだろう

























「終ーーーーー了ォーーーーーー!! 豚の丸焼き料理審査!!70名が通過!!」

あたしとハンゾーが会場に戻ってきた頃には、既に10匹以上食べ終わっていて食欲がなくなったっていうのに…

結局70匹も食べたの…あの人……



「ハンターってすごい…」

「いや、あれはハンター以前の問題だろ…」

ハンゾーとともにただブハラの食欲の凄さに驚く

しばらく豚肉は食べたくないかも…







「じゃあ2次試験後半行くわよ! あたしのメニューは スシよ!!」



しーん…

会場中が凍りつく

今なら受験者の頭に浮かんでいる文字が見えるかもしれない

即ち、?と





スシ…

薄っすらとだけどあたしの記憶にある

ふと横を見るとハンゾーもなにやらしたり顔でにやけてるし、たぶん間違いない




「ねぇハンゾー、あなたスシって知ってる?」

「い、いやしらねぇなぁ」

どもる辺りが非常に怪しい
ますますフィンクスと似てると思う


「あたしは知ってる」


「なっ、お前知ってるのか!」

「知識だけだけどね、でもこんな問題ほかにはわからないと思う」

「まぁな、たまたまオレの故郷の食べ物が出てくれて助かったぜ」

「へぇハンゾーって日本の出身?」

「そうだ」

へぇ、日本ってあるんだ
薄れ行く記憶の中に、あたしが過去に日本という世界に居た記憶がある

日本という世界にいたっぽいあたし、日本出身というハンゾー

こうしてついさっき知り合ったばかりなのに、妙に話が合うのはもしかしたら出身地が似てるっていうのもあるのかも








「魚ァ!?」


あたしがハンゾーとどの魚を使うかは無しをしていると、受験者達の中から大きな叫び声が聞こえた


「くそっ他にも知ってる奴がいたのか!!」

負けじと駆け出すハンゾー、それに続くように他の受験者達も一目散に川や池を探しに翻弄する




うーん…

川とか池探してもすしネタになりそうな魚いないと思うんだけど…

さっき1次試験中に見たヌメーレ湿原の川とか池では、少なくともおいしそうな魚というのは見当たらなかった


ヌメーレ湿原からそう離れていないこのあたりも、生態系がそう違うとは思えないし…



「あら、あなたは行かないの?」

一人会場に残っていたあたしを不思議に思ったのか、審査官のメンチが話しかけてきた

「行くっていっても、さっき見た限りおいしそうな魚はいませんでしたよ?」

勤めて冷静に話す、あんまり審査官に目をつけられるのも気分の良いものではない


「じゃああなたは試験を放棄するの?」

「いえ、ちょっと何か使える物がないか探して見ます」



そそくさとメンチから離れるように、あたしはその場を後にした
























「ブハラ、あの娘、只者じゃないよね」

「402番? そうだね、なんか妙な雰囲気出してるね」


ヒソカのように禍々しい殺気じゃなく、それでいて闇に生きる住人でもない

例えるなら…、つかみ所のない闇、いや黒そのものって感じ


「そういえば、あの娘、前にレイランが報告してきた娘に似てない?」
                                        
ナイトメア
「あのACEのレイラン? さぁ覚えてないけど… ああ、たしか悪夢の王って一時期協会で噂になってた?」

「そうそう、雰囲気とか聞いた感じが似てるような気がしたけど… でも、あの娘、そんなに悪い娘じゃないような気がするのよねぇ」

「そうだね、でもボクはなんかを抑えて悩んでるーって感じがしたかなぁ」

「珍しいわね、あなたが人のことを観察してるなんて」

「それをいうならメンチもでしょ? 普段は料理意外興味を記さないくせに」


不思議な感じ、彼女から漂う匂いはまるでおいしいか、危ない物か区別がつかないような物

一見するとおいしい物でも、その調理法を間違うと危ない物になることもあるけど…
まさにそんな感じ


美味しくなるか、危険かは食べてみないとわかんない


ならいっちょ食べてみますかァ


美食ハンターとして、料理人として、一人の人間として


あの少女への興味は尽きる事を知らない

























「とは言ったけどどうしよう」

勢いで森の中へ来てしまったけど、魚は使う気はない

となるとスシの具なんて限られてしまうけど…





はたと、視界の隅にあるものが写る


あっ、これってもしかして…


時々森の中で生活してたときにも見つけた物

あたしの記憶にひっそりとあった食物





もしかしたらいいスシの材料見つけたかも
























あたしがその材料を見つけて戻ってきたときには、既に多くの受験者がなにやら魚と悪戦苦闘していた

ハンゾーはと…、いたいた

なにやら自信満々に他の受験者達の料理を見やっている



「よぅ、お前もちゃんと魚とってきたか?」

「ううん、あたしはこれを使おうと思って」


どんとハンゾーの前に材料を放り出す


「おいおい、こんなのスシの材料になるのかァ? それ以前に食べてもらえなさそうな気もするぞ?」

「んー、多分大丈夫。 ハンゾーも早くしないとメンチさんおなか一杯になっちゃうよ?」

「ああ、でもこっちはもう完成してるぜ? じゃお先にな」

皿を手にメンチの元へ向かっていくハンゾー


さてあたしもこれを調理しちゃわないと













「メシを一口サイズの長方形に握って、その上にわさびと魚の切り身を載せるだけのお手軽料理だろーが!!」

あたしが調理を始めて数分した頃、ハンゾーの雄叫びが聞こえた


あーあ、自分から調理法暴露してるし

やっぱりフィンクス2号ね


ハンゾーの言葉を皮切りにメンチに殺到する受験者達、これは…あたしが調理終わるまで持たないかも


「馬鹿ハンゾー」

「っッ馬鹿って言うなよ!」

「あんな大声で調理法とか、お手軽料理とか言えば試験官キレルにきまってるじゃない」

「…悪かったよ」

「まぁどっちにしろ、見てる限り合格者は出なさそうね。 厳しすぎるもん」


メンチも持ち込まれるスシで食べれそうな物をどんどん食べ、批評していってる

この調子じゃあと5分もしないうちに満腹になるかも


まぁ一応作ったし、もって行こうかな





「悪!! おなかいっぱいになっちった」


予想通りあたしの少し前で満腹になったようだ








ま、しょうがないか

いくらなんでも合格者0だったら何らかの恩情がでるか、このまま終わっても旅団の皆へ申し開きは立つかな


ついと踵を返すようにもといた位置に戻ろうとすると、後ろからメンチに呼び止められた


「402番、それ何のスシ?」

興味津々と言った表情でこちらの手に持っているスシを眺めている

満腹じゃなかったのかしら


「食べてみます?」

「うんうん」

そんな力いっぱい首を振らなくても…




「へぇ、魚を使ってないスシね」

メンチが手にするそれは、軽くシャリを握った上に緑の葉っぱをたたいたのを載せ、さらに上から白い板状の物を載せ、海苔で巻いてある


もぐ、もぐもぐ


「お、おおお!? ちょこれおいしいじゃない!! なに、長芋の代わりにカリの根を使って、わさびの葉の代わりに水見草の葉っぱを使ったのね
 握りの形とかは微妙だけど…そのアイデアは最高よ」


「ありがとう、でももう締め切っちゃってますよね?」

「あ…」

今頃思い出したのか、メンチが素の表情に戻る

「にゃははははは……、ごめんごめん。 もう旨いものでないかと思って締め切っちゃってた」


「別に構いませんよ、それに私だけ合格ってなっちゃうと皆怒るんじゃないでしょうか?」

「うーん、なんとかしてあげたいけど、試験は試験だからねェ」

「でもメンチ、これはちょっと受験者達がかわいそうだよ」

「うーん…わかったわ。ちょっと待ってて」

メンチはなにやら思い立ったかのようにどこかへ電話をかけている


「あたしは行ってもいい?」

「あ、うん。 ちょっと待ってて」



なにやら電話で話してるメンチとブハラを後に私は再びハンゾーの近くへと戻る

「おまえって…料理できたんだな」

帰ってきて開口一番、ハンゾーが失礼な事を抜かす

「料理くらいできますよ」








「受験者の皆へ、さっきの審査はあたしもちょっと厳しくしすぎてたところがあったわ
 今、ハンター試験会長に連絡をして、再試験を行える事にしてもらった。会長の飛行船がつき次第、もう一度試験をやり直します」



うぉぉぉお、やったぜー、会場のあちこちで歓喜の声が上がる

試験のやり直しか、まぁ首の皮一枚つながったってところね














「あなたのスシのおかげでちょっと熱が冷めたわ。 お礼を言うわね…悪夢の王さん?」


ピクッ!


あたしの傍にやってきたメンチの告げた言葉…悪夢の王



「…知ってたんですか?」

「確信を持ったのはさっきだけどね。 サトツさんから話を聞いて確信できたわ。あなた、ACEとこの間対峙した娘でしょ?」


この人…知ってる

あたしの事も、あたしが幻影旅団であるという事も


殺す?

いや、今は場所が悪いし…何より相手から敵意が感じられない


「あたしを殺すんですか?」

「へ? ああ、違うのよ。あたし達、普通のハンターはレイランたちACEとは違うからね。 あたしはただ美食を追い求めるだけよ
 それに…これは秘密だけど、ハンター協会内でもいろいろあるのよ、多分知ってると思うけどACEの内部も複雑でね。
 正直あたしも嫌いよ、あの連中」


あたしを見てまっすぐに話しかけてくるメンチ、あたしを騙すつもりは…ないっぽい


「じゃあなんで…?」

「だーから、ただお礼にきただけよ。あとはっと」

「悪夢の王って呼ばれてる人物が、こんなにかわいい娘だったからかな。良かったから今度一緒にどこか食べに行かない?」

「は…?」

今度はあたしがとまる番だった。

何でこの試験に関わってくる人たちは、こうも気さくで、あたしに優しく接してくれるのだろう?


「おっ、食事ですか? なら是非オレもお供しますっ」

メンチと食事という言葉をまるで地獄耳のように聞き逃さなかったハンゾーが、あたしとメンチの間に割ってはいる

「ハゲに用事はないってーの!」

「ハゲ言わないで下さいよ!」

「まぁハゲはともかく、402番、いえちゃんだっけ。食事の件考えといてね。じゃーねー」


やってきている飛行船の主を出迎えるために、メンチは元の場所へ戻っていく








ナイトメア
悪夢の王…か

同じハンターのはずなのに、何であの人は犯罪者の、世界に拒絶されたあたしに優しくしてくれるのだろう?

何かの作戦? ううん、彼女からは純粋に食事をしたいという意志しか伝わってこなかった


なんでここの人たちはこんなに優しいの?